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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第9章 善なる神の憂い
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第42話 光ある所に生じるモノー善なる神の憂い編

あの黒い帆船に遭遇し、闇の精霊紋を掲げていると知ったから余計にだったのかもしれない。

闇の国を監視する光りの国と称されるカーライル、その首都に魔族が紛れている事に動揺してしまった。


「御忠告は感謝します。然し、緊急回避といえど露骨すぎて逆に相手に不信感を持たれるかと・・・」


相手に不信感を相手に抱かせてしまったかもしれない、助けてもらった事はありがたいが此方が魔族だと疑念を抱いている事を悟られる事は避けるべきだと思う。

そして窮地は乗り越えたが、未だに私の腕を掴んだままの相手に煩わしさを感じていた。

両肘を水平に広げると片足で踏み込み身を捩り、向かい合い互いの体の間に空間ができた所で顔も確認せずに素早く肘を鳩尾に叩き込んだ。


「ぐぅっ!」


手加減はしたが低く短い呻き声、漸く拘束から逃れ距離をとる。

相手が何者か判別がつかないが、ヒューゴー達も私が引きずり込まれた瞬間を目撃したはず。

暗がりに目も慣れてきた、何にしても相手の御尊顔を拝見しないわけにはいかない。

振り向けば、建物の合間から差し込む細やかな日差しにより淡い金髪が目に飛び込んできた。


「アメリアちゃん、確かにオレも考えずに悪かったよ。でも、行き成り肘鉄は無いんじゃないかな?」


その呼び方に一気に記憶が蘇る、相手に気付いた所で誰かが威嚇するように地面を踏み鳴らす足音が聞こえてきた。


「待て!落ち着けって!幾ら何でもやりすぎだ!」


地鳴りのような足音がし、引き留めようと必死になるヒューゴーの酷く慌てた声が聞こえてくる。


「ふんっ、変態の言い訳は免罪符にならないんだよ。アメリア、どきな!」


ヒューゴーの言葉は見事に突っぱねられ、足音が止まり振り向けば狭い路地の入口で大槌を振り上げるザイラさんの姿がそこに在った。

私が思わず生唾を呑むと、ザイラさんは状況を理解する間も空けずに此方へ突進。

されど標的はぶれず、フェリクスさんを目掛けて振り下ろされる大槌を止めるには庇うほかなかった。

次の瞬間には鈍い音が響いたが、衝撃も一切の痛みもない。

我に返ったのだろうゆっくり瞼を開いて目にしたのは、両腕を掲げたまま大槌を額で受け止めて硬直するフェリクスさんの背中だった。


「な、何でわざわざ飛び込んだんだい?こっちは端から脳天を粉砕するつもりは無いって言うのに・・・」


ザイラさんは慌てて大槌を担ぎ直すと、目を固く瞑ったまま両腕を掲げた姿勢で固まるフェリクスさんを呆れ顔を浮かべながら憐れんだ。

然し、試すとはザイラさんも人が悪い。

ヒューゴー達の顔に一瞬だけ眉を顰めると、二人は気まずげに苦笑いを浮かべた。

ちらりと硬直したままのフェリクスさんに視線を向ける、眉間に皺をよせながら固く結ばれたままの瞼がゆっくりと開く。


「だ、大丈夫だったようだね。君を護れたならオレの人生に悔いはないよ」


必死な顔のフェリクスさんの額には丸く赤い跡が残っている、芝居がかった声を出しながら私を見詰め格好つける。


「はあ・・・」


相変わらずだなとフェリクスさんを眺め、呆れのあまりに溜息が漏れた。

私が思わず沈黙すると、ヒューゴーがフェリクスさんに近くなり品定めをするかのような視線を泳がせる。


「んでっ、小突かれた程度で騎士様気取りのこの野郎は誰なんだ?」


ヒューゴーはニヤニヤと小馬鹿にした笑みを浮かべ、フェリクスさんへの皮肉交じりに私に訊ねる。


「この人はフェリクスさん。以前、私の旅に同行してくれた友人の一人よ」


私が友人と紹介すると、フェリクスさんは露骨に残念そうな表情を浮かべる。

そんなフェリクスさんに気付かない振りをし、旅の思い出を交えてザイラさん達に掻い摘んで説明する事にした。

私が聞かせた困難や出会いに興味を持ち、熱心に聞いてくれはしたが、フェリクスさんの扱いは先程と大差ない。


「ほうほう、妾の信徒が世話になったの。しかし気をつけられよ、危うく軟派なその顔が潰れた果実のようになる所だったぞ」


コウギョクは反応を楽しむかのように傍観していたが、待っていましたと言わんばかりに自身が神である事をにおわせると悪い表情を浮かべ軽く握られた手を見せつけ拳を作って見せた。


「え?!面白いけど、何か怖い事をいう子だね」


フェリクスさんはザイラさんの顔を一瞥すると、此方へ振り向いたその顔は蒼白だった。


「・・・いえ、たんなる冗談ですよ」


信用ならないのか揶揄っているにしても、互いに印象は良くない様子。

そんな二人を見て、ザイラさんは腕を組みながら首を捻る。


「やれやれ・・・アタシはザイラってんだよろしく。それと、打ち解けているけどアンタ達も名乗っておきなよ」


如何やらザイラさんには打ち解けているように見えたらしい。

ザイラさんは苦笑しながら思い出したように名前を名乗り、それに続くようヒューゴー達に促す。


「ふふっ、教えてやろう!妾は偉大な・・・」


コウギョクは胸を張ると、勿体ぶりながらも尊大な態度で自分語りを始める。

ヒューゴーはそんなコウギョクを一睨みすると、続く言葉が出るより早く口を強引に塞いだ。


「俺はヒューゴー。んで、そこの無駄に偉そうな半獣人はコウギョクな」


ヒューゴーは青筋を立てながら手を引き剥がそうとするコウギョクを半獣人と称して紹介する。

西方の国々にとって神様と言う存在はたった一柱。確かに異教の神と気軽に名乗らずにいた方が良いのかもしれない。


「んで、そのフェリクスさんとやらは此処で何をしてんだい?」


身構えるフェリクスさんにザイラさんは満面の笑みを作り訊ねる。


「そう言えば私服ですね。今日は非番ですか?」


暗がりに慣れた目でよく見ればフェリクスさんは以前、再会した時の様な制服ではなく私服。

此処の表通りは教会には近いが、店や市場がある華やかな通りから外れている。

どんな休暇を過ごそうと勝手だが、路地裏に潜んでいたことに関しては些か不思議に思う。


「ああ、そんな物かな。それよりも君達はこんな所で何をしているんだい?」


フェリクスさんは頷くと私達に問い返すが、その笑顔は一瞬で消え去った。

僅かに裏路地に差し込む日向に大きな影が差す、石畳を踏む足音に気付いた時には背後に彼は立っていた。先程、衝突した帽子の男性だ。


「身を隠したかと思えば・・・何を騒いでいる」


低い獣の唸り声の様な声、路地裏に身を隠した事が逆に気を引いてしまったのかもしれない。

緊張から息を呑む、路地裏が重い沈黙に一瞬だけ包まれる。


「・・・この変態野郎から女を路地に連れ込んだんで、助けただけだ気にすんな」


ヒューゴーは硬直する私とフェリクスさんの顔を不思議そうに交互に眺めては首を捻ると、誰の反応も気に留める様子もなく帽子の男性に軽口を叩く。

帽子の男性の事を羞恥しておかなかった事には後悔しかない。


「・・・お前達は教会の関係者か?」


帽子の男性の視線は自然と疑念を抱いている私へと向く。

「教会関係者なのか」、この質問の意図が解らない。


「いいえ、違います」


正直に答えると、その視線はフェリクスさんにも向けられる。

フェリクスさんの顔は蒼白になり、踵を返すと狭い路地から逃走を計るが、ザイラさんの逞しい腕に締め上げられ諦めて肩を落とした。


「・・・ならば、その路地裏に連れ込んだ御前は何者だ」


その声は疑念に満ち、軽薄な笑みを浮かべるフェリクスさんを獣のような鋭い瞳で睨みつける。

帽子の下の瞳を覗き込むと先程と違い明るい茶色。

あの帽子じたいに隠蔽の魔法が掛けられているか見間違いか、ただ不穏な空気だけは変わらない。

問い詰められてはいるがフェリクスさん自身も何かを隠しているようだが、反応から聞き出す事は難しそうだ。


「いやだな、女の子に不埒な真似をしようとしたオレが聖職者なわけないじゃないですかー」


フェリクスさんは表情を緩めると、自虐的な冗談を交えて返答する。


「嘘をつけ。ならば何故、監視をしていたのだ?」


然し、フェリクスさんの思惑は外れたどころか相手の疑念をいっそう深めた。

見付からぬよう身を潜めていたつもりが、相手には見え透いた嘘と見抜かれていたらしい。


「それはないって、だって俺はカワイ子ちゃんにしか興味がないからさぁ」


それでもフェリクスさんの態度は変わらず、軟派な態度は崩さなかった。

しかも余裕の表情を浮かべ、口元は意味深に弧を描く。


「ふざけるな!我らの妨害をするなと言っている」


尚も自身を揶揄うような物言いに相手は激昂、異国の言葉で何かを唱えると指先から黒い球体が生じた。

それは魔力の高まりにつれ、黒紫の亡者の姿へと変わる。

闇魔法、ふと抱いた疑惑は確信へとなる。


「こんな狭い所で何て事を・・・偉大なる精霊にて光の王よ、闇を祓いし光刃を授けたまえ!」


咄嗟にフェリクスさんの前へ躍り出る。

焦りながらも迷いなく引き抜かれた白刃は光を纏い、魔法により生み出された幽鬼は切り裂かれ白光の中で朽ち果てる。


「光魔法か小賢しい・・・」


帽子の男の視線は路地裏で向かい合う私達を滑る様に移動する。


「おい!もしかして此奴の仲間認定されてるのか?」


ヒューゴーは眉を顰めると声を潜めながら私に問い掛けてきた。


「恐らくね」


状況的に火を見るより明らか。

此処は多くの人々が暮らす国の中心地、ただの冒険者に過ぎないうえに下手をすればお世話になっているライラさんに迷惑をかけかねない。


「やれ、世話が焼けるのう・・・」


コウギョクは小さな溜息をつくと、壁を這う蔓植物へと目を向けると扇を広げると優雅に舞う。

見る間に蔓は手足を捕えたが、逃れようとする藻掻く魔族はコウギョクを呪うように詠唱を始める。


「護られてばかりはオレの主義に反するんだよね」


フェリクスさんは地面に転がる砕けた石煉瓦を爪先で蹴り飛ばすと帽子の魔族の顔面に命中させた。

痛みに顔を顰め気が緩むと同時に蔓は全身を覆い、時計のような花が咲き回転する。


「ぐっ、うう・・・あ・・・」


蔓の下から漏れるくぐもった声は次第に弱々しくなっていく。


「こんなもんじゃな。安心するが良い、奴の記憶を曇らせておいたわ」


コウギョクは何時も通り勝ち誇った笑みを浮かべる。


「・・・ありがとう!」


事態は収束したが、のんびり散策の続きなどできる空気じゃない。


「オレが言うのもなんだけど、これ以上面倒ごとに巻き込まれないうちに逃げない?」


沈黙を破り、フェリクスさんが恐々と提案をする。


「勿論だよ。でも、色々とアタシ達を巻き込んでおいてアンタが言うんじゃないよ」


ザイラさんは不機嫌そうにフェリクスさんを睨む。


「そうだな、お前が何を隠しているのか吐いてもらうぜ」


ヒューゴーはフェリクスさんに詰め寄ると、脛を爪先で何度も蹴る。


「やめてくれないか、オレには皆目見当もつかないよ」


「ともかく此処から離れましょう。これ以上の長居は危険だと思います」


光り在るところに闇は存在する。

フェリクスさんの縋るような視線より表通りが騒がしくなるのを苦々しく思いながら、横たわる魔族を背に蜘蛛の巣のように張り巡らされた路地を抜けていく。

まったくもって前途多難、故郷であり信用していた国の首都に不穏の影が落ちるのを感じた。

本日も当作品を最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。


◇またまた反省が足りなかったようで申し訳ありません。

更新だけは出来うる限りしますので、どうか見捨てずに頂ければ幸いです。

◇異界から世界に開けられた穴による浸食は世界に何をもたらすのか。

変わりゆく世界の行く末、始まりの地に辿り着けるのだろうか。

次回までゆっくりと御待ち下さい。


************

次回こそ無事に投稿できれば5月4日20時に更新致します。

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