第235話
君がいたらゆっくり休めないだろ、とお父さんにお留守番を言いつけられた私は談話室でフリーズし続けるグレンの再起動をフォンセと頑張っています。大人は大人の話し合いがあるらしく、エアルさんたちはおじさまの執務室に集まっているみたいです。
「グレン、いい加減帰ってきなよ」
「もともと龍哉は内側にいれたら甘いだろ」
「なんか違うくない!?
確かに内側にいれた人間には対応が甘くなるけど、アレは違うくない!?」
「……俺たちっていうより瑠璃寄りの対応なんだろ」
「それなら、まぁ、分かる気はする……?」
コテンと首傾げたグレンに私もコテンと首を傾げる。
私寄りってなぁに? とフォンセを見るとフォンセはちょっとだけ困った顔で言葉を選ぶように口を開いた。
「……保護対象?」
「なるほど」
そうだね。お母さんは完全に保護対象だね。
私もお父さんにとっては守るべき存在だから保護対象。
フォンセやグレンは一応保護対象に入ってはいるけれど、基本的に自分でなんとかできるし、なんとかしろってスタンスだもんね。本当にどうしようもなかったら少し手を貸してあげるよ、くらいのかろうじて保護対象の範囲に引っかかってるってレベルのやつ。
うんうんと頷く私をグレンとフォンセがなんとも言えない顔で見ていることに気づかずに、私はスッキリした気分でにこにこ笑う。
「ま、瑠璃が大丈夫そうならいいか」
急にお兄ちゃんの顔をしたグレンに頭をポンポンと撫でられる。
「グレン?」
「オウカ殿に龍哉をとられたー! って拗ねてないのは偉いなって話!」
「私そこまでお子様じゃないですけど!?」
「うんうん、そうだなー。
その元気なお返事のままあのいけ好かない野郎のアレソレをキリキリ吐こうか?」
にっこりと目が笑っていないグレンにピャッとフォンセの背中に隠れる。
グレンの情緒、ジェットコースター過ぎじゃない? 大丈夫??
そぉっとフォンセの背中からグレンを伺うといつものキラキラ笑顔を引っぺがして呪詛を吐いていた。怖いのでもう一度フォンセの背中に隠れる。
「お前がそんなになるなんて珍しいな。いつもなら受け流してるだろ」
「それなりどころか、普通に使えそうなのが余計に腹立つ!」
「龍哉が連れてきた時点で分かりきってることだろ」
呆れたフォンセにそうだけど! そうだけど!! とぐぬぬっとなっているグレンにぱちぱちと目を瞬く。
普通に使えそう、か。よく分かんないけど、たぶん、グレンが思っているよりも会長は有能だと思うよ?
「瑠璃?」
どうしたとフォンセに視線を向けられておずおずと口を開く。
「あのね、全然見えないと思うけどたぶん、フォンセとグレンが思ってるより会長は有能だよ?
困りごとは会長に持って行けば絶対解決してくれるもん」
私の言葉にフォンセとグレンの顔色が変わる。
「へぇ」
「ふぅん」
フォンセまで怖くなってしまった。
戦線を離脱しようと身を翻すより先にがっしりと両側から捕まえられる。
「瑠璃」
「ひゃい」
低い声で名前を呼ばれておずおずとグレンを見上げる。
「それは、あのクソ野郎には頼るし助けを求めるってことであってるか?」
「え、えーっとぉ」
視線を泳がせた先でにっこりと笑ったグレンと、無表情でじっとこちらを見下ろすフォンセと目があってすぐさま白旗を揚げる。
「和の国では困ったことがあったら会長と茜先輩に相談してました!」
「「……」」
すんと表情を消した二人に見下ろされて心の中で助けを求めるのは会長だった。というか会長のせいでこんなことになっているのだから責任とってなんとかして欲しい。
ぷるぷる震える私にフォンセが大きな息を吐いてくしゃりと前髪を掻き上げた、
「……そんなに、俺は頼りないか?」
「俺たち! な!」
すかさずグレンの修正が入るけれどそれどころじゃない。顔を上げてフォンセとグレンを真っ直ぐ見る。
「そんなことない! そうじゃないよ!
わたし、いっぱいフォンセとグレンに頼ってるし、甘えてるよ。
たくさん助けてもらって、守ってもらってるよ」
全くこれっぽっちも響いてないし、納得もしていなさそうなフォンセとグレンに、むぅと唇をとがらせる。
「そもそもフォンセとグレンが先回りして守ってくれるおかげで困ることがないの!」
思い当たる節があるのかフォンセとグレンが怯んだ。
よし、ここだ! 頑張れ私!
「私が助けてっていう前に助けてくれるから、フォンセとグレンは実感ないだけだよ。
剣舞の時だって二人が来てくれたから私とジュリアは楽しむ余裕ができたし、頑張れたんだよ。
いつも、いっぱい、ありがとう」
まっすぐ見つめてそう笑うと、二人は降参だという風にふっと息を吐いた。
「しょうがねぇな」
「そーゆーことにしといてやるよ」
「しょうがなくないし、そーゆーことなんですよ!」
この話は終わり! とお茶会で残ったお菓子をフォンセとグレンの口に詰め込む。
もぐもぐと口を動かしてちゃっかりおかわりを要求したグレンにもう一つお菓子を詰め込んだところで、お父さんが顔を見せた。
「お父さん! おかえり」
「ただいま。明日は行けないけど写真が欲しいって」
いいよね、と確認してくるお父さんに何のことか分からずに首を傾げる。
「明日……?」
「明日だろ、ダンパ」
「…………」
現実に引き戻されて絶望顔の私にお父さんは容赦がない。
そうだ。剣舞が終わったと思ったらダンスパーティーが残っていた。
完全に終わったつもりでいた。
「なにブサイクな顔してるの」
「だって、だって、」
ダンスが不安すぎる。それにあのドレス着るんですよね。
お店で試着したときはお姉様たちの魔法で別人と化したけれど、明日もちゃんと別人になれますか?
フォンセの隣に並んでも大丈夫な私になれますか!?
やっぱりダンパなんて滅びれば良い。
「あらあら、瑠璃ちゃん大丈夫ですよ。
楽しめなかったらそれはフォンセの力不足です」
「そうよ。瑠璃もジュリアちゃんも上手なんだから何も心配しなくていいのよ」
ひょっこり顔を覗かせたエアルさんがお父さんを押しのけて優しく私の手を握ってくれる。
静奈さんも優しく頭を撫でながら励ましてくれた。
おずおずと顔を上げお二人を見ると柔らかな微笑みが帰ってくる。
そして、静奈さんが私に視線を合わせるといたずらっ子のように笑った。
「瑠璃、よく聞きなさい。
“面倒なことは全部男どもの仕事だ。
我々はただあいつらの隣で適当に微笑んでいれば周りは勝手に納得する。
納得しないやつらの対処も男どもがする”のよ」
「お義母様がよくおっしゃってましたね。
でも本当にその通りなので、瑠璃ちゃんはただただ楽しめばいいんですよ。
起こり得る面倒事を片付けるのは全部フォンセの仕事ですから」
引きつっているフォンセとグレンの顔など一切視界に入らないとでも言いたげにエアルさんと静奈さんは微笑む。助けを求めるようにお父さんを見ると額に手を当ててゆるゆると首を振られた。
「そんなことより瑠璃、明日は寝坊しちゃだめよ」
「私たちも張り切って準備を手伝いますからね!」
キラキラ笑顔のエアルさんと静奈さんに私はただ頷くしかできなかった。




