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夜闇に咲く花  作者: のどか
サン・リリエール祭編
135/136

第234話

 こちらに引っ越してきてお屋敷を探検したとき以来の応接室に繋いだ手に力がこもる。

 振り返ったフォンセが、小さく優しく名前を呼んでくれる。

 大丈夫だと柔らかく手を握られて、自然と強ばりがとれた。

 まだ緊張するけれど、大丈夫。だってフォンセがいるから。

 先に応接室に入っていたお父さんとお母さんは既にソファに座っていて、お父さんは悠然と、お母さんはものすごく戸惑いながら私とフォンセが入ってくるのを待っていた。


「オウカ殿、お時間をくださってありがとうございます」


 改めて頭を下げたフォンセにお母さんはとても戸惑っているし、緊張もしている。

 まるで私たちの緊張が伝わっているかのように表情を強ばらせるお母さんに、お父さんが眉を寄せてフォンセを睨む。強制終了される前に報告しなきゃ。


「あのね、お母さんに報告したいことがあるの」

「瑠璃ちゃん?」


 強ばった表情のまま困惑を乗せて呼ばれた名前に言葉が詰まる。

 言っても良い? 受け入れてもらえなかったらどうしよう。

 お父さんの時には思わなかった不安が急にわき上がってくる。


「オウカ殿、瑠璃さんとお付き合いをさせていただけることになったのでご挨拶をさせてください」


 そっと背中に添えられた大きな手と真っ直ぐにお母さんを見つめる真摯な翡翠の瞳に胸がぎゅうっとなった。


「お母さん、私の好きな人です。

 今日はフォンセとお付き合いをしてることを報告したくて時間をもらったの」


 胸を張って笑顔で紡いだ言葉に、お母さんは目を見開いて固まった。

 そして私たちの言葉をゆっくりとかみ砕くように理解すると、くしゃりと顔を歪めた。


「そう、そうなのね。おめでとう、瑠璃ちゃん」


 くしゃくしゃの今にも泣いてしまいそうな顔でお母さんは笑った。

 そしてゆっくりと立ち上がるとフォンセを見て深々と頭を下げた。


「私が言うのもおかしな話ですが、フォンセ様、瑠璃ちゃんをどうぞよろしくお願い致します」

「大切にするとお約束します」

「当たり前だろ。

 何度も言うけど泣かせたら殺す。悲しませたら殺す。守れなかったら殺す」


 面白くないですとデカデカと顔に書いたお父さんがフォンセを睨みつける。


「龍哉殿」

「………」


 困ったような、仕方がないなぁとでも言いたげなお母さんの声にお父さんはぷいっと顔を背ける。


「とっても嬉しいわ。幸せな報告をありがとう」


 本当に嬉しそうに、幸せそうに笑うお母さんに安心して、胸がいっぱいになって、お父さんとお母さんに抱きついた。


「あのね、お話を聞いてくれてありがとう。だいすき」

「……知ってる」

「私もだいすきよ」


 ぽんぽんと大きな手が頭を撫でて、細い手が背中に回る。

 それだけで幸せで嬉しくて、自然と笑顔が零れる。

 甘やかすような手が頭と背中を撫でるたびに、幸せがあふれ出す。


「瑠璃ちゃんは本当にいつだって私に幸せをくれるのね」

「お母さん?」


 小さく零された言葉に目を瞬いているとベリッとお母さんから引き離された。


「さ、話が終わったなら帰るよ」


 ぽいっと私をフォンセの方に押しやって、お父さんはお母さんの手を引く。


「……疲れただろう」


 お母さんの耳元で囁かれた小さなお父さんの声を拾ってハッとする。

 お母さんはパチリと目を瞬いて、申し訳なさそうに眉を下げる。


「大丈夫です」


 お父さんが眉を寄せる。でもお母さんに無理をさせられない。


「お母さん、今度は私とフォンセがお母さんのところに遊びに行ってもいい?」

「もちろんよ」

「次の約束が決まったのなら今日はもう帰るよ」

「はい」


 しおしおと頷いたお母さんにお父さんはまたすぐ会えるし、会いたいときに会えば良いと何でもないように励ましながらその手を引く。

 その背中を追いかけようとフォンセに視線を向けると愕然とした様子でお父さんとお母さんの背中を見ていた。


「…………あれは誰だ?」


 絞り出された言葉に微苦笑でお父さんだよと答えて大きな手をとる。

 衝撃から抜け出せないフォンセの手を今度は私が引いてお父さんたちの後を追う。

 会長と茜先輩と合流する頃には、フォンセはなんとか自分を取り戻していた。

 未だに信じられないみたいだけれど、見てしまったものはどうしようもない。

 ちなみにグレンは未だに固まっています。

 おじさまとアルセさんは流石というか一瞬目を瞬いただけでいつも通りでした。

 エアルさんと静奈さんはお茶会での事前情報があったからか、グレンほど驚きはしなかったみたいだけれど、目を丸くしてお父さんたちを凝視したあと微苦笑を浮かべていました。

 私もついて行きたかったけれど、お父さんにお留守番を言いつけられたので、玄関ホールでお母さんたちをお見送りしました。


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