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(何で毎回、毎回こうなるの?私が一体何をしたって言うのよ?)


自身にそう問いかけてみるものの、考えるまでもなく答えなど分かりきっていた。




今日、通算16人目の男に振られた。


しかしあのような形で置き去りにしてきたが、あの男はまだマシだったと冷静になって思う。


別れを切り出された時は、「またか」と思わずカッとなり相手を置いて出てきてしまった。

一方的な別れを告げられたとはいえ、あんなに丁寧な別れ話は久しぶりだったなと少し頬を緩める。

と言うのもこれまでの歴代の彼氏とは、散々な別れ方が圧倒的に多いのだ。


何番目の彼氏とか相手の名前すら最早覚えていないが、投げつけられたセリフだけは今なお心に重く伸し掛っている。


――「このサゲマン」


――「お前、気持ち悪いんだよ」


――「この疫病神、オレの前に2度と現れるな」


――「お祓い行って出直してこい」


そう言って塩を投げつけられた事もあった。


――「お前は呪われてる」


一言、お告のように言い残して去って行った者もいた。




「呪われている、ねえ」



過去の男達の捨て台詞を思い出しながらボソリと呟く。

あながち間違いとも言い切れない、笑えない冗談に自虐的な笑いを浮かべる。


そもそもこのような一方的な理由もはっきりしない別れ話に、普通の彼女なら「ふざけないで」と怒るか、「そんな事急に言い出して、さては浮気ね」と詰め寄るのが一般的だろう。


だけど私は、「わかったわ、別れましょう」とただ同意するだけ。


今日に限らず今までも全てそうしてきた。

どんなに酷い言葉で詰られようとも、表面上は取り澄ました顔で「いいわよ」と。


都合のイイ女と思われても仕方がないかもしれない。


でも私はこれからも、別れ話にはただ頷くだけ。




何故なら、彼らのいう事は間違っていないからだ。




――私は、呪われている。




呪いといっても、悪霊や悪魔に憑かれている様な悪質なモノではない。


でも、確かに呪われている。




…………そう、昔の男に。




昔と言っても私の元恋人な訳ではなく、遠い遠い昔、それこそ平安とか室町といった公家社会であった頃の男。私の先祖でもない女の人の恋人だった男。


つまり、私には縁もゆかりもない男の呪い。

しかし呪いと言っても、幸か不幸か、私に災いが降りかかることはない。


私の呪いはいたってシンプルなもの。




――『私と付き合う者に不幸が降りかかる』




今までの実例からして、不幸の割合は付き合いに比例していた。


――手を繋ぐ程度なら、転んで擦りむく程度。


――キスをしたら、頭上から植木鉢が落ちてきた。


――体の関係になると、相手の家が、燃えた。


――泥棒に入られた。


――痴漢の冤罪で捕まりそうになった。


――車に轢かれかけた。


――強盗に襲われた。


身体の関係を持った日から私と別れる時まで、日替わりでありとあらゆる不幸に見舞われノイローゼになりつつ去っていった男。その男の行方は知らない。


別れてから連絡をとっていないため、その怪現象が治まったのかも定かではない。

……多分生きてはいると思うけど、あちらは連絡を取りたいとも思っていないだろう。



私も彼には感謝しているからこそ、会いたいとは思わなかった。



彼がいなければ、愛される喜びを知らないままだっただろう。


私だって人並みに恋をしたい。

彼はそんな私に唯一応えてくれた人だった。

少し鈍いところがあったからこそ、たどり着けた関係。

でも流石に最後には気味悪がって、私の側にも寄れないほど怯えていた事に罪悪感を覚えた。


私は彼に降りかかるだろう厄災を知っていたが、自分の欲望を選んだのだから。


せめて今は新しい恋人を作り、穏やかに笑ってくれていたらいいなと願う事が私に出来る精一杯だった。



とにかくそれ以後、私がほかの男性と体の関係まで行き着くことはなかった。


そこに辿り着くまでに、相手が怖がって別れを告げる。


些細な不運程度のものでも、度重なれば気味が悪い。

私といるときばかりに起こる怪現象に、二人の愛は勝てなかった。



呪いによって私の身には何も起こらないが、彼らからの捨て台詞に何も感じない訳ではない。 



振られることに慣れているとは言え、平気なわけではない。



誰でもいいと手当たりしだいに付き合うわけではなく、きちんと恋愛をしてきたのだ。

当然、別れを告げられれば、落ち込む。


酷い言葉を投げつけられれば、傷つく。


今日だって、平気な振りをしているだけ。

家に帰ったら、独りで泣こう。

暗くなってしまった私の心とは裏腹に、雲一つない晴天に恵まれた空。

降り注ぐ暖かな陽射しを浴びながら家路に着く。

デートの約束がなくなってしまい、こんな気分では一人ぶらぶらする気にもならなかった。





そもそも私が、このような目に会う理由はとても理不尽なものなのだ。

記憶は5歳の頃にまで遡る。



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