第45話 神聖歴767年11
『€€ξ≤ー€∇ではない』
「え」
ハンナさんが何か喋ったんだけどよく聞き取れない。
というかハンナさんは正気なんだろうか?
『€€ξ≤時ではない』
「ハンナさん、今なんて?」
バッターン
「おい、何してんだ!!」
「!!?」
突然にドアが開き入って来た人影。
それはあの日に出発し10日ぶりに帰宅したラルゴさんだった。
「ぐわぁ?!なんて魔力を出しやがる。おいハンナ、しっかりしろ!!」
「………………」グラッ
「ラルゴさん、あ……!?」
ドカッ
「オウチ」
ラルゴさんはボク達の間に飛び込むとハンナさんとボクを無理矢理引き離した。
その瞬間崩れ落ちるように力が抜けるハンナさん。
タイミング的にラルゴさんが受け止めて地面に倒れ込むのは防げたけどボクを壁際に吹き飛ばすのは止めてほしかった。
ドタンッ
「痛たっ?!」
「うだあっ!」
「ハンナ、ハンナ!!」
「…………ラ、ルゴ?」
良かった。
ハンナさんが正気を取り戻した様子だ。
回りの変な光も消えハンナさんの瞳の色も元に戻ったようだ。
そしてボクが吹き飛ばされた先が寝ていたカズキの側で騒ぎにカズキが手を上げて応える。
起っきしちゃったかあ。
それにしても、あの時のハンナさんは何を言っていたんだろうか。
❇❇❇
「魔力循環を施していたぁ??」
「すまんねぇ、まさか意識失うとか、迂闊だったさね」
「はは、すいませんボクのせいで」
「あ?」ギロッ
「うだあ!」
正気を取り戻したハンナさん。
どうやら本格的に意識が無かったらしい。
理由はボクの魔力に飲まれた事。
そもそも魔力循環はごく一般的な処方で魔力を流す側が飲まれるなど通常ではあり得ないのだがそれだけボクとハンナさんとの魔力差があった為に魔力逆流現象が起きてしまったらしい。
最悪ハンナさんの意識が戻らないケースもあったらしいからその後暫くラルゴさんから目の敵にされたのもやむを得ない事だろう。
ハンナさんが間に入ってくれて何とか収まってくれたがラルゴさんの部下?達からは化け物を見る目で引かれるのは不本意だと言いたい。
いやホントに止めてよ!
結局魔力循環に失敗したボクは魔法を開花出来なかった。
つまり魔法使いへの道は閉ざされたままという事だ。
こういうのを糠喜びっていうのか。
「そんなにガッカリする事ないさね。魔法使いになれなくとも普通に生活は出来るわさ」
「それはそうですが………」
「もうそれで納得しろ。ウチのハンナに二度と危ないマネはさせねーからな」
「うだだっあ」
すっかり警戒モードのラルゴさん。
顔つきもスナイパーから殺し屋モードに切り替わったまま。
うん、タダでさえ冷たい目が冷蔵庫並みに冷気を放ってハンナさんとの間に事あるごとに割り込んでくる。
まあ、無理からぬ事だけど。
ただボクはカズキを抱っこしてるからそれは長続きはせずに自ずと眼力は優しくなる。
まあ赤ちゃんの前では誰でもそうなるものだからね。
「だあ、めり、めりあ?」
「え?カズキ、もしかしてボクの名前を言った?」
「めーり、めり、あ。めーりあ」
「あああカズキが、ハンナさん、カズキがボクの名前を言ってる!」
驚いた。
カズキがいきなりボクの名前を言ったから?!
聞き違いじゃない。
間違いなくカズキはボクの名前を理解してそして口にしている。
ほんとうに、本当に!
「それは喜ばしいさね。まあ獣人ならかなり遅いくらいだけど人族ならこれが普通かね?まあこれからはもっと喋るだろうさね」
「ああ、ハンナさん。ボクは、ボクは」
「めーり、めーりあ」
ああ、なんて感動的だろう。
初めてボクは天に感謝した。
もちろん神ではなくボクが感謝するのは仏教における仏のトップへ。
「カズキ、カズキ」
「かずき、めーりあ、めり、めりあどる」
「ホント、メリアドールは子煩悩さね」
「…………ふん」
カズキは抱っこから高い高いすると笑いが止まらなくなる。
カズキの笑いがラルゴさんの冷たい目も霞ませ部屋の冷気を消し去ってしまう。
カズキの笑顔がハンナさんに伝搬し部屋隅のラルゴさん部下?の人達の心をも和ませその空気はログハウス全体を包んでいく。
ああ、これが家族のある風景だ。




