第43話 神聖歴767年9
「はーいあんよは前」
「あうあー」
「ほい、ほい、お手々はこっち」
「だ、だあだあ」
「はいはいいらしゃい」
子供の成長は早い。
カズキは7日目にしてかなり安定して歩けるようになった。
もしかしてコッチの生物は地球より成長が早いのかーとか、ウチのカズキが特別だーとか、色々な想いも湧いてきたがきっと後者なんだと結論づけた。
ウンウンうちの子は天才に違いない。
「親バカだねぇ」
ボクがウンウンと頷いていたらハンナさんが両手を腰に回して呆れたように言った。
親バカってボクの事?
ボクは親じゃなくてお姉ちゃんポジションなんだけど傍から見たらカズキのお母さんに見えるとか??
いやいやこんな若いお母さん倫理的に不味いって。
「うだーっ」ドタドタドタ
「うわわっと、やばっ」
「だーっ」
「そこで飛ぶなー!?」
ドタンバタンッ
「うおぁー!カズキ確保ー痛っ」ゴン
「だだあ。うきゃきゃきゃ」
勢いでジャンプしたカズキはボクの胸に飛び込んできた。
ボクは慌てて体制くずしたけどカズキの安全だけは譲れない。
両手で受け止めきっちりとカズキの身体を確保した。
あっぶな!
いやカズキ笑ってるけどボクは痛いからね?
「ホント子煩悩さね」
「ハンナさん」
「うだ」
「カズキ坊は今日も元気さね」
「あははは、やんちゃで」
「うだだー」
ハンナさん達の家は丸太を重ねた所謂ログハウス。
平屋だけど丸太の一つ一つが大きく頑丈で広い。
「メェ~」
外にはあのヤギ似の家畜が草を食べておりその脇には様々な野菜が植えられた家庭菜園が広がっていてる。
彼女らの基本は自給自足のようで足らないものがあるとラルゴさんが馬車で買い物にいくようだ。
それとラルゴさん達はあれからまだ戻ってこない。
ハンナさんに聞いてもそのうち戻るの繰り返しでどこに何をしに行ったかは話てくれなかった。
まあこちらは居候の身。
あまり深く聞く立場にないから問いただす事は憚れるのでそれ以上は聞いてない。
「そろそろ昼さね。今からフェッペを焼くからそこで待ってなさ」
「あ、ボクも手伝います」
「馬鹿だねぇ。気遣いは無用って言ってるじゃないのさ。カズキが起きてる時はアンタが面倒みんでどうするさね」
「すみません」
「たあ」
因みにフェッペはピザみたいな薄手のパン。
これが中々に焼きたてが美味しい。
そう、ボクはこの数日ですっかりハンナさんと打ち解けていた。
最初は排他的なエルフの先入観から少し距離を置かれていたけどその間をカズキの自由奔放さが直ぐに打ち解けるきっかけとなったのである。
今ではカズキの保育の傍ら手の空いている時にハンナさんの手伝いをしたり交代でカズキの面倒をみたり。
その一つ一つが信頼に繋がりいつしか家族のような関係を感じてる。
そしてそう出来たのはやはりカズキの存在が大きいのだろう。
「お互い様さね。あたしもカズキに癒されてるさ。もうアタシら家族みたいなもんさね」
「は、い。有難う御座います」
「うだーっ」
という事でカズキの歩行訓練中。
まあ今はこの至福の時を味わおう。
「ほいゴール。よく出来ました。ハナマルをあげよう」
「うだーっ」ダッ
えー現在カズキ5メートル立ち歩き制覇。
歩行スピードまずまず。
次回は10メートルトライ予定と、ふむふむ。
こうしてカズキの成長記録をメモ帳に付ける。
なんか幸せだわ。
なおこのメモ帳をハンナさんに見せたらえらい驚いていた。
何かこの世界の紙材質と違うらしく薄くて白いのは見た事がないという。
ボクにとっては茶色で混ざりものがある出来の悪い手すきの再生紙でしかないんだけどハンナさんから見たら白いらしい。
じゃあどんな物を使っているのって聞いたら動物の皮を薄く切り出し乾燥させた紙なんだそう。
動物の皮?
それは紙って言わないのでは??
それでこのメモ帳はポーチに入ってたんだけど腰に付いてた左右二つのポーチは其々別の物が入っていた。
片方はパチンコの玉と火薬に導火線。
あとは小さなナイフとまさかの手作り製手榴弾??
いやピンみたいのも付いてるし何となく構造が分かる。
これはマジにヤバいやつだ。
もう片方はメモ帳と前にカズキのミルク予備に使ったラナの実製水筒と何かの干し肉と乾パンもどき。
つまり一つが武器狩猟用道具類でもう一つが食料関係だったみたい。
ただ不思議とポーチは小さいのに何か沢山物が入っていた。
もしかして特別な力が働いている?
「すぴー」
「おや、やんちゃカズキはもうおネムかい」
「はは、結構歩行訓練頑張りましたからね」ごそごそ
抱っこしていたカズキがおネム。
揺り籠用意して寝かしつけた。
相変わらず柔らかいカズキ。
先日からハンナさん特製離乳食を始めてる。
彼女の見立てではカズキは約2歳。
離乳食が遅いくらいで本来ならミルクは卒業してなきゃならないんだそう。
子育ては初めてだからボクに分かるわけもない。
ただヤックのミルクは特に濃くて栄養満点で持ちがいい。
だから非常用とか保存食としての評価が高いのでもしかしたらカズキの親はあえて与えていた可能性もあるとの事だ。
明日からミルクは白湯にして必要に応じて出す事にしよう。
「あんたホントに子煩悩だねぇ。縁もゆかりも無い人族の子によくもそんなに熱心になれるもんさね」
「……ボクは早くに一人だったんです。その、ずっと孤独を感じていて、こんな家族のような関係に憧れていたのかも知れません」
「エルフは気難しくてプライドが高く排他的って聞いてたからあんたの行動は意外だったんだけど今判ったよ。あんたは特別だったんだとね」
「………そうだ。このポーチなんですけど変に物が入るんです。何か分かりますか?」
「………魔法が掛かってるね」
「魔法?魔法がこの世界にあるんですか!?」
「お前さんエルフなんだろう?魔法っていったらエルフのお家芸じゃないさね」
「お、お家芸……すいません。習った事がなくて」
「習って使えるならアタシらも使えてるわさ。魔法を使うにはまず魔力適性、持って生まれた才能と魔力がいるのさ。それも一定以上の魔力でないと魔法を行使出来ない。アタシら獣人には無理な話さ」
「そう、なんですか?」
「この世界で魔法が使えるのはエルフと人族の貴族階級の一部。あとはドワーフとか魔法特性のある種族に限られるのさね」




