第41話 神聖歴767年7
ガヤガヤガヤガヤッ
何?
ヒトの声がする……。
ああ疲れと馬車の揺れで眠てしまってたようだ。
ん?
んんー??
眠ってしまった???
じゃあこの騒がしさって…………まさか?!
「よう、毛色の違うエルフの嬢ちゃん。やっとお目覚めかい?」
「…………?!」
目覚めて身体が動かない事に気付き自分の身体が何かに拘束されてる事を理解した。
そして顔を上げれば大きく真っ黒な毛むくじゃら。
真っ黒い毛むくじゃら………?
???
「く、熊あ?!」
「おいクマ獣人の俺を魔獣と一緒にするな。すげー傷つく」
「ほえぇ??」
目の前にいるのは頭に熊の耳をつけた冷たい目の男だった。
真っ黒い毛皮?の衣服に2メートルはあろうかという大男。
某漫画の殺し屋ソックリな顔立ちで熊の耳が頭に付いてるギャップは違う意味で怖い。
熊で殺し屋とか冗談でしかないわ。
おまけにボクはロープで全身がんじがらめ。
椅子に縛り付けられていたらしい。
どうりで身動きとれないわけだ。
「そうだ、カズキは?!」
「あの赤子か?今うちのカミさんが面倒見てるから大丈夫だ。だが」
「か、カミさん?」
「おい、その疑い深い目は何に対してだ?俺にカミさんがいるのがそんなに信じられないか?」
「い、いえ、その事ではなく……」
寡黙なはずのスナイパーがお喋りスナイパーになっとる。
おまけにカミさんがいるらしい。
頭の熊耳ギャップが凄ーく思ってタント違う。
ヤバい、笑いそう。
「ぶふっ」
「はあ?何でこのタイミングで笑いが出んだ。俺を馬鹿にしてんのか?」
「メッソウモゴザイマセン」ぷっ
「笑い堪えながら片言で話してんじゃねぇ!」
駄目だ。
笑いが止まらずマトモに話せない。
縛られて不味い状況なのにこの人物のギャップはボクの笑いのツボをピンポイントで刺激してる。
誰かなんとかして!
「だいたいお前、誰の馬車に忍びこんだか判ってんのか?」
「ゾンジマセン」ぷ
「いつ迄笑ってんだあ!?」
うん、クマが真剣さをアピールすればそのギャップは際立つばかり。
ヤバい、ボクの腹筋は持つのだろうか?
「このぉっ笑い病のエルフのガキっ」
「わあ、ごめんなさい」
「あんたーっ!いつ迄その子に構ってんだい。さっさと仕事にいきないね」
その時である。
奥の勝手口から現れた割腹のいいふくよかな茶髪の女性。
頭にはクマの丸い耳がアクセント。
グレーなワンピースに片手にフライパン。
足元には………。
「カズキ!」
「だあっ」
「ああ、この子の名前はカズキっていうのかい?分かんないから先にウチの子の名前付けるところだったよ」
女性の足元には彼女の服を掴み親指を甘噛するカズキの姿。
ただボクの驚きはそこからだ。
カズキは彼女の服の支えを必要としながらも立ってコチラを見ていたのである!?
「カズキ、立てるようになって……」
「たあ」
「あら、立っちしたのは初めてかい。そりゃさぞかし嬉しいよねぇ」
ヤバい。
景色が二重になって前がよく見えない。
縛り付けられてるの忘れて思わず両腕を前に出そうとしてた。
お姉ちゃんムチャクチャ感動しちゃってるよカズキぃ。
「あんた!!」
「は、はいぃ!母ちゃん」
「いつ迄その子を縛り付けてんだい。いい加減にしなよ!」
「だ、だがコイツは馬車に忍び込んでた盗っ人なんだぞ」
「だから何?まだ年端のいかない少女、おまけに私達と同じ亜人さね。亜人は仲間、困っている時は助け合いだよ」
「わ、分かった。だが」
「分かったらさっさとしな!」
「あ、ああ」
怒鳴られて慌ててボクの背後に回る殺し屋顔なクマ獣人はカミさんの尻にしかれるか弱い旦那だった。
頑張っ旦那さん。
ザクッ
がんじがらめのロープが緩み久しぶりの開放感に思わず伸びをしてしまった。
気づくとカズキがこっちに一人で近づいてくる?
ヤバい、ヨタヨタしてる。
だ、大丈夫か!?
バサッ
「だあ!」
「き、奇跡だ」
「あらまあ、ぼくちゃん大したもんだねぇ」
カズキは見事2メートルほどを自身の足で歩きボクの両腕に飛び込んだ。
ああカズキ、カズキ、なんて可愛いんだ。
「もう離さないぞう、カズキぃ」ギュッ
「うだあ」
「微笑ましいねぇ。あたしゃあ貰い泣きだよ」
「あ、ああ」
幸せだ。
前世とは違う孤独でない幸せ。
これが家族のある風景なのだろう。
そしてこの幸せがいつ迄も続く事を祈っていたボクだった。




