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TSモブ荷物係は勇者にだけは近づかない。  作者: 無限飛行


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第40話 神聖歴767年6

ガラガラガラガラッ


「……………………」



結論から言えば《待てなかった》が実態だろうか。



「おぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあっ」

「ああ、カズキどうした?もしかしてお腹空いたのか?哺乳びんは」

「おぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃ」

「ヤバっミルクが空だ!あああもう泣き止んでくれぇ」

「おぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあ」



アレからボクはカズキの揺り籠を背負って野生動物の声に追い立てられるように泉の森を後にした。

理由は至極簡単だ。

カズキが空腹で泣き出したからである。


カズキの重い運命を嘆く時間もログアウトを考察する余裕もなく泣き出したカズキを泣き疲れるまであやし彼が眠った直後にフタした揺り籠を背負って走り出していた。


赤ん坊の泣き声にこれほど破壊力があるとは思わなかったがそれ以上にカズキに空腹を強いる事が怖かったのだ。

この子の為何でもしてやりたいと思った。


この不思議な感覚は何だろう?

自分でも訳がわからない。


前世?で両親を亡くし祖母が死んでからずっと孤独を感じていた。

そんな中で付きまとう親友はいつしかボクの心の拠り所だったのかも知れない。


ある意味似た感覚だったがそれとはまた違う感覚もボクの中から湧き上がっていた。

カズキに取り留めのない愛しさと庇護欲を感じるのだ。


後に理解したがこれは母性。

そう、ボクはカズキにどうしようもない母性によって惹かれていたのである。



ガラガラガラガラッ


「何とか、何とかしないと!」



背丈ほどの草をかき分け約半時ほど走って歩いて走っただろうか。

森を抜けると開けた草原地帯に辿り着いていた。

失念していたがここに至る道のりで脅威となる野生動物に出会わずに済んだ事は極めて幸運であったと云えるだろう。


草原の彼方に見えるは雪を抱えた連山か。

その山肌は既に赤く日が落ちるまで幾ばくもないと予想される。


ボクは焦っていた。


未だ町も村も発見に至らない。

辺りを見渡せば少し先にレンガで整備されたと思われる街道らしきもの。

しかし見つけたのはそれだけ。


カズキには三十分以上連続でグズられただろうか。

守るべき幼子にひもじい思いをさせるのは心に酷くキツいものだ。

今は泣き疲れて眠っているがもはや一刻の猶予もないように感じる。



「何とか、何とかしないと!」



ガラガラガラガラッ


「!」



澄み渡る夜空に星が降り始めた頃。

月もなき暗い夜空の下。

街道を急ぎ通り過ぎ去らんとする馬車が近づいていた。


御者は乗っていたが星明かりでは街道脇のボクに気づいていない。

コチラからも向こうは影が分かる程度。

お互いに相手の視認は困難である。


そんな中ボクは馬車の御者に声をかける間もなく無我夢中で目の前の馬車に背後から飛び乗った。

交渉の余地は無くとある理由がボクを突き動かしていたからだ。



『メェ~』

『しーっ……』



声をかける間もなく飛び乗ってしまったその理由。

それは馬車の荷がヤギ似の家畜?だと知っていたからである。


そこで初めてボクは自身の異常に気付いた。

星明かりとはいえ異常に視界が良く耳もよい。

馬車がまだ目視出来ない時点で馬の足音と車輪の回る音に紛れるヤギ似家畜の声を聞き付けていた。


更に異常なまでの足の早さ。

ボクは通り過ぎた馬車に背後から追いつきその馬車に手をかけ飛び乗っていたのだ。

カズキの揺り籠を背負子で背負った状態であったにも関わらず走って歩いて走った此処までの疲れも残る中であってもである。


その事に驚いている自分に戸惑いもあるが今はミルクを手に入れる事が急務で考察する事は後回しだ。

匂いからそのヤギ似家畜がカズキの哺乳びんに入っていたミルクの大元であるとの理解。

さっそく搾乳に取り掛かる事にした。


幸いヤギ似家畜はその7つの角に似合わないくらい大人しく搾乳に従順だ。

簡単に哺乳びんを詰め念の為予備のポーチにあった水筒にもミルクを満たしていく。


揺り籠のフタを開けたらカズキは目覚めていた。

目覚めていたが泣かずにボクを見ると安堵したように微笑んだ。

その笑顔に心から安堵だ。



「だあ」

『しっカズキ、ほらミルク』

「だあっチュパチュパチュパチュパ」

『ふ〜っ……間にあった』



カズキは直ぐに哺乳びんに飛びついた。

そのままチュパチュパと音を立てていて御者に聴こえたら不味いとハラハラしたが意外と馬の蹄と車輪の音が大きくかき消されている。

取り敢えず一安心だ。



『メェ~』

『お前もありがとな』



ヤギ似家畜は革紐で馬車に繋がれていて足元には大量の藁床。

一頭だけでソレ以外は木箱の箱が山積みで御者との間を塞いでいた。



パシッ

ヒヒーンッ


ぱっかぱっかぱっかっ


ガラガラガラガラガラガラッ



つまり馬車走行中は御者から直接コチラを見る事も来る事も出来ず間の木箱はほぼ防音壁となってボクらの存在を隠す効果に繋がっていた。

なんかご都合主義にあった気分だが操馬の邪魔になりかねない(馬が家畜を気にしてしまう)家畜運搬には合理的配置とも言えなくはない。



「んだっチュパチュパチュパチュパチュパチュパうばぁ」

『はい、うばぁ』

「チュパチュパチュパチュパ」



再び目がトロンとしてくるカズキ。

背中トントンでゲップをさせてオムツ替え終えて寝かせて修了。

カズキの見た目からすると2歳越えだと思うのだが、だとすればそろそろ離乳食を始めねばならない。

色々と手のかかる事だ。


とにかく眠らせて一息ついた形だがもう一つの結論も出てしまったらしい。

馬車に乗って数時間。

東の空に朝日が昇ってきていた。


もう一つの結論。

タイムアウトに伴う強制ログアウト。

既に24時間経過した今その可能性が潰えたのは揺るがない事実となってしまった。

ボクもそろそろ腹を決めなければならない。


この世界は実在する本物である。


ボクは現実世界で死亡しセカキン《世界樹の巫女と金の勇者》似の平行世界に魂だけ飛ばされたと理解する事。


つまり異世界転生を果たしてしまった事実に納得するしかないのだ。


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