第31話 もう一つの人生2
「んんっ?ここは??」
ピーッピーッピーッピーッ
聞き慣れた音はブレイン・ダイブ
のヘルメット端末が脳波にうまく接続出来ない場合の警報音。
つまりボクは覚醒した事になるわけでログアウトした覚えは無いから原因は端末の不具合という事だ。
さっきリボーンしたばかりで引き継ぐデータは初期化済。
失うポイントも無いから問題無いけどただ親友と飯屋で食べてた最中なのはいきなり目の前で相棒が消えた事になる。
なんか申し訳ない。
「ふう……これもそろそろポンコツかな」
ボクは端末のヘルメットを置きカーテンの隙間から入る日の光の眩しさに思わず溜息をついた。
端末ヘルメットも購入から六年。
既に対応年数は越えていて本来なら次期モデルに変えないと駄目なんだけど………。
「だけどさすがに現在離職中。先立つものが無いから買えないか」
まさに溜息しか出ないとはこの事かな。
100万円揃えるのは逆立ちしても無職に無理ゲーな話。
女性との結婚なんてその先の先だ。
「情け、ないなぁ」
西暦2030年の第一次AI不況。
様々なホワイトカラーに対する爆発的AI置換はあまりに急速で世界は一気にAIに職業が奪われていく事が起きた。
社会基盤はAI化の波に乗り切れない脱落者に厳しく救済制度は追いついていない。
当然ながら矮小な存在でしかない中堅商社一サラリーマンにとっては会社にとって特に必要とされるポジションでもなく巷に吹き荒れるリストラの嵐に真っ先に巻き込まれるのは必然といえよう。
このとき日本を襲ったAI不況は約500万人もの人間をリストラしその三割がニートになった。
それは日本経済に大きなインパクトをあたえ一人当たりのGDPは世界20位あたりまで低迷してしまった。
慌てた政府はニートなどの活用を全面に職種不一致の改善に躍起となったがAIリストラでニートに落ちた人間に新しく職業を紹介しても過去の職業との大幅な差は否めない。
行き着く先は安定のニート固定化である。
時を同じくして台頭したのがブレイン・ダイブという端末。
これは脳パルスにリンクし現実の体感をそのままネット空間に持ち込めるリアル仮想現実《通称リア化》を生み出しその絶対的存在感は実体経済にまで多大な影響を及ぼしていく。
多くの経済活動はブレイン・ダイブの中で行われその中で派生的に作り出された様々な仮想職業にニート達が理想を見出すのは当然の帰結であったと云えた。
かく言うボクはその中の一人だ。
元々早くに親を失い身寄りは祖母だけであったがその祖母も就職と同時に亡くして天涯孤独の身。
ただ先月離職する迄の数年間、様々なリストラ圧力に耐えてこられたのは一重に祖母の存在が大きいと云える。
就職が決まって一番に喜んでくれたのが祖母だったからだ。
だから最後まで圧力に耐えたのだが祖母の死でその必要も無くなった。
そして無職となって半年。
ボクは立派なニートとなった。
立派という言葉は的確では無いかも知れないが働く気力が無いのは事実である。
そこで目についたのがブレイン・ダイブという機器。
《新しい世界にデビューしよう》をキャッチフレーズにあらゆる新しい仮想現実が作り出され付随する仮想職業はまさにニートの天職だったといえよう。
ボクは幾つかの仮想現実でカフェの店員とか現実世界の職業をしたけどまあゲームの延長だから就職は簡単だった。
一応ポイントが給与となりそれは現実世界でも使えるけど多くのニートがハマる通り仮想現実で得た利益は仮想現実内で消費しろが合言葉。
当然ニートな連中が最も入れ込むのがゲーム世界だ。
様々な仮想現実コンテンツが生まれゲーム世界の仮想現実は世界中のファンを熱狂させる。
その中でボクが入れ込んだのが世界樹の巫女と金の勇者。
通称キンセカという事だったわけ。
中世世界でのRPGゲームはお約束でコンセプトは誰でも努力すれば何にでもなれる事。
最初に冒険者など最低限職業を選択するが冒険者を選ばない選択肢もあるし途中変更は現実と変わらない。
クエストをクリアーしてその職業を成長させるも転職も自由でとにかく縛りの無い自由度な魅力な仮想現実なんだ。
但し限りなく現実に等しいという事はNPCに対しても同じであり可能なかぎり対等な関係を意識しなければならない。
ようはプレイヤー至上主義ではクエストはコンプリート出来ないという事。
だからプレイヤーが部下となりNPCの下につく事も当たり前。
全ては現実との認識を捨てずにゲームを進める事が肝要となるのだ。
「とはいえ高リターンクエストは課金設定が当たり前。それ以外の稼ぎは現実世界よりかなり安い。投稿などのユーチューブ稼ぎはAI映像氾濫で極端に下がってるしやはり稼ぐなら真っ当な現実の現場職、だったんだけどそれも最近変わってきてるんだよなぁ」
唯一救いの現場職。
そこも最近厳しいのが実情だ。
外国人求職者増は以前から変わらないが最近増えたのが
「コノ度コノ辺リ二営業二伺ッタコーユー者デス。オ見知リ置キヲ」
「こりゃご丁寧に………?」
その日玄関のピンポンを鳴らしたのは人ではなかった。
そう、新聞の現場営業職に来たのはスーツ姿の四角い奴。
彼は目を赤く光らせながら名刺を出し名刺にはこう書いてありました。
《新聞配達営業係11185》
「11185………」
「ソレ私ノ名前デス。ヨロ」
「え?よ、ろ……」
そう、現場職もロボットの時代になっていたのである。




