第30話
「なあおい?どえらい事をし出かしてくれたなぁエルフのガキ」
「くっ」
最悪だ。
嫌な予感が当たってしまった。
この段階でガブがとんでもない事でボクを犯人扱いしている。
もちろん全くの冤罪だしボクに狂魔香の知識は無い。
聞いた事も見た事もない物での犯人扱いは寝耳に水というものだ。
だいたいあのリュックは宿の部屋に洗って干していたわけだし当然ながら中身は入ってはいなかった。
それをわざわざ部屋から持ち出しありもしない言いがかりでの犯人認定はあまりに乱暴な話。
普通なら鼻で笑ってやり過ごすところだけど簡単に安心出来ないのが是迄の流れだ。
しかし先程の少年領主と女騎士のやり取りはスタンピードによる災害が何らかの不都合を生じている事は明らかでありギルド側の対応はそれにリンクした行動という事になる。
その不都合が何かは分からないけど災害であるスタンピードを誰かの責任にしたい意向があるのは確実なんだろう。
そして今は少年領主の裏事情を想像するよりガブからぶっ込まれた目の前の難問にどう対処するかがボクの生存を左右するという事に尽きるわけだ。
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狂魔香。
著しく魔物の凶暴性を活性化させ無制限に暴走を引き起こす禁忌の香。
かつて国家間の戦争に使われその威力から使用と製造が厳しく制限された最悪最凶兵器である。
この製造に関する情報は当時その非人道的性能から関係者を含めて全て闇に葬られた。
現在その名前と威力だけが伝承され大きな戦争の過ちとして各地に口伝が残されているのみである。
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これがボクの知りうる限りの狂魔香の内容。
当たり前だがそれがどんな形の物で使い方も保管の方法も分からないロストアイテムに近いものなのである。
だからガブの言い分は冷静に考えれば余りに突飛で極めて荒唐無稽と言わざるおえない内容なわけ。
本来はそうなんだけど……。
「このエルフのガキが全ての元凶なんだぜぇ」
ガブはその赤い液体の小瓶を高々と掲げ自身の発言の正当性をアピールした。
だがこの百年間それ自体がどんな物だったかを記した文献は無く覚えている者も居ない全ては歴史の闇の中だ。
ガブは自身の言葉の矛盾に気づいているのだろうか。
「むう、まっことそれが本当なら大変な事なのだのう」
「ギルド長、これは一ギルド支部が扱える内容ではないのではありんすか?!」
「狂魔香とはな……」
「メリアドール、本当ですか?」
「ええっ!?」
え、誰もガブの矛盾に気づかないの?
ギルドの二人はともかくゼンクトやフレインまで深刻な顔でボクを見ているんだけどちょっと待ってよ!?
狂魔香の現物を持ってる事自体おかしいのにガブはあの小瓶を狂魔香と断定してるんだよ??
あらゆる情報がデリートされたロストアイテムなのにそれを断定できるガブの矛盾に何故誰も気づかないわけ?!
シャリンッ………。
「狂魔香を使う者は悪魔に魅入られた異端者。女神アースに挑む愚か者。世界の破壊を望む悪魔の尖兵」
「はっ!?」
それは突然だった。
それまでずっと壁と同化するくらいに存在感が薄い顔も見えない真っ白ローブ異端審問官。
その異端審問官が持っている杖は前世の知識からすると修行僧や野武士が持っていた錫杖に酷似していた。
そしてガブの話に呼応するかのように異端審問官がその錫杖を鳴らし始めたのだ。
その錫杖が鳴り始めると皆が口を閉ざして静止画のように動きを止めた。
まるでこの場所だけ時間が停止したような感覚だ??
え、まさかボクはこのまま異端者認定されてしまうのだろうか。
だとしたらボクは一体どうなるの!?
シャリンッシャリンッシャリンッシャリンッシャリンッシャリンッシャリンッシャリンッシャリンッシャリンッシャリンッシャリンッ
闘技場全体に響き渡る音は異端者官が奏でる錫杖の音。
異端審問官は錫杖を鳴らしつつ一歩、また一歩とボクに近づいてくる。
息を呑む緊張はボクを金縛りの如く縛り付けまるで未動き出来ない水の中にいるよう。
深く被るやたら白いローブからは怒りも驚きも一切の感情は感じられないのだがローブが一歩近づくごとに重い空気が重圧となって更にボクの自由を奪っていく。
シャリンッ
「あ、ああ、あ?!」
「……………………」
やがて異端審問官はボクの目の前に立ち相対した。
既に白ローブとの距離は1メートルにも満たないのだが不思議と相手の顔が見えない。
え、何でこの距離で顔が見えない?
更にこの時点で目は動くのだが首が動けない事に気付く。
金縛りが現実となりボクは僅かな呼吸しか出来ない状態になっていた。
これって絶体絶命じゃない!?
スッ
「お前は悪魔か?真実を述べよ」ポゥ
「!!」
異端審問官がボクの額を指指した。
するとその先端が淡くオレンジ色の光を放ち出す。
いやこの展開だとボクも指で答えるのが筋だけど多分その流れだと宇宙語を話さないといけない気がする。
あれ?
意外とボクは余裕なんかな。
オウチ。




