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TSモブ荷物係は勇者にだけは近づかない。  作者: 無限飛行


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29/50

第29話

あり得ない。

それがゼンクトを始めボクら剛腕の鉄斧メンバーの共通認識だろう。


ガブは確かにボクらを置いて一目散に出口に向かって逃げていた。

途中でリーリを置き去りにするような非道を行いその形振り構わぬ逃げっぷりは本当に呆れるばかりだったはずだ。


《《だとしても》》である。

ボクらがスタンピードに遭遇したのが第三層で二層に至る道の壁は逃れる場所もない平滑な壁。

そして目測になるけどあの時のスタンピードの速度はおよそ時速40kmはあったと感じれた。

つまり前世の乗用車並みに速かったという事なのだ。


更に逃げ道の無い一本道。

その上第三層からダンジョン出口まで至る道のりは全くモンスターの襲撃が無かったとしても丸一日かかる筈。

あの場から即座に逃げ出したとして人の足で乗用車スピード並みの魔物の大群より先にダンジョン出口に到達する事など可能なのだろうか?



「今まで何処におったのだのう」

「遅い!ガブ、今まで何をやっていたのでありんすか」

「でへへ野暮用ですわ。すんませんねぇ旦那方」



相変わらずのにやけヅラに何故か型崩れしてないモヒカンは清々しいくらいのニヒルな悪役面を保っている。

実際にやってる事は悪役に違いないんだけど先程も確認した通りダンジョン内でのイザコザは冒険者個人の責任だ。

仮にガブのリーリに対する行為をボクが訴えてもギルドは悪事認定はしない。

冒険者の身分がそれだけ低いという事なんだけど今はそれが頼りとか複雑だよね。

本当に酷い世界だよ。



『フレイン、ガブがどうやって生還したかは気になるけどこのタイミングでボク達の前に現れた理由は何だろう?』

『私にも分かりませんが確かに奇妙ですね』



ガブは小声で話すボクらの存在に気づいていながら眼中に無いような素振りでギルドとゼンクトに愛想を振りまいている。

まるで下手な太鼓持ちみたいだ。


だけどその態度には何故か嫌な予感しかしない。

これはボクの勘だけどこういった嫌な予感はいつも往々にして当たるんだよ。



「それで証拠はあるのかのう」

「これだけの大事、今更無いでは済まされぬのでありんす」


「へへ、手に入れましたぜ。実はそれを手に入れるのに結構時間がかかっていたんでさ」

ガサガサガサッ



そう言って背中に背負っていたズダ袋を下ろし中をまさぐり始めるガブ。

中から出てきたのを見てボクは思わず息を呑んだ。



「ようガキ、久方ぶりだなぁ。俺様は寂しかったぜぇ」

ガサッ

「え、あ?!」



ガブがズダ袋から取り出した物。

それを掲げ奴が初めてボクを見た。

その瞳は欺瞞に満ち嫌な執着の光を宿している。

その本質はどう見ても悪意しか感じられない。


これはやられたのか?

ボクはもしかしてガブの悪意に陥れられてしまったのかも知れない。



「あれはメリアドールのリュックですか?何故ガブが持っているのでしょうか」

「……………………」



前世の様々なアニメや物語をボクは知っている。

だからこそ分かる未来がある。

今までの審問は茶番であり全てのストーリーはこの事象に繋ぐ事にあったのだと。


この世界は悪意と欺瞞と残酷に満ちている。


女性が夜間に外出すれば次の日には冷たくなって道端に裸で捨てられ借金の末に親が子供を奴隷に落とす。


整備された街道を商家の馬車が進めば野盗の被害は覚悟しなければならず農村は魔獣と盗賊団への警護をしなければ維持する事は不可能だ。


封建制度の身分差別は様々な弊害を生み出しその支配層すら御家騒動で命の危機に晒される。


亜人差別に始まる民族問題はどこの国家にも存在し法的に人権を守られたこの国すら人族優位主義による亜人差別はなくならず未だ国家としてそれを是とする大国すら存在する。


前世の地球においてもこうした問題は地域差の中に確実にあったから今の世界がとりわけ特殊であるわけでは無い。

ただ前世のボクが住んでいた国は極めて国民に優しかったのだ。

もちろん犯罪はあるし社会問題もある。

国外の影響で物価が上がったり仕事はそれなりに大変ではあったけど社会基盤はしっかりしていて様々な救済制度があり何より国が安定して物理的にも精神的にも豊かだったのだ。


この世界は悪意と欺瞞と残酷に満ちている。


それは個人に優しい社会ではない。

だからこそ個が強くあろうと努力する。

そして世界は剣と魔法の世界であり個が強くなれる要素がありゼンクトのように異次元の力を得た個が数多存在出来る世界である。


物語の主人公のような力を持つ存在もきっと何処かにいるだろう。

もしかしたら|セカキン《世界樹の巫女と金の勇者》のゲームのように勇者の称号を持つチート保持者もいるかも知れない。

そういった存在は《《それなりの試練》》を与えられ打ち勝ってさらなる成長を見込めるのだろう。


ならば強くなる要素を全く持たない物語の主人公から遠く離れたボクのような存在はどうなるだろうか。


そんなモブ存在が万が一主人公に与えられるようなイベント(それなりの試練)に遭遇したらその先の未来に光はあるのかと問いたい。



「このリュックサックはウチ(剛腕の鉄斧)の荷物係のもんだが開けて中を覗いたらトンデモないもんが入ってやがった」



この運命は間違いだと言いたい。



「これは魔物を寄せて狂わす香《狂魔香》だぜ。こいつをダンジョンに仕掛けるとダンジョン内の魔物が狂って暴走するんだ。つまり」



そう神様に問いたい。



「スタンピードを起きた原因はこれを持ち込んだウチの荷物係だぜぇ」



ああ、この世はモブにどこまでも残酷な世界なんだ。


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