第28話
数分後、甲冑は手足を地面に付け肩を上下に震わせていた。
目に見えない速度移動と数多の斬撃を繰り出した甲冑だったが結局ゼンクトを一歩でも動かす事は叶わなかった。
甲冑は既に息切れ状態だがゼンクトの余力はその遥か上。
更に甲冑がオーラバーストを使い全てを底上げしていたのに対しゼンクトは未だ技すら使っていない。
まさに勝負アリだろう。
「ゼンクトってトンデモないね。元々ドワーフ自体が凄いのかな」
「一般のドワーフにそんな力はありません。間違いなくゼンクトが強すぎるんです」
「そうなんだよね……」
つまりB級冒険者は伊達じゃないって事なんだけどスタンピードはそのB級冒険者すら単独では回避するしかなかったという事実で、やはり災害に個人が勝てる道理はないのだとつくづく理解させられるんだよ。
「気が済んだか」
「お、おのれ……まだだ。まだ私は戦えっ」ガランッ
「?!」
「…………」
甲冑の兜が外れ中から長い髪が垂れ下がる。
そしてびっくりした。
厳つい甲冑で声も籠もってたから性別不明だったんだけど甲冑の中身は淡いブロンドロングヘアーの美女だった。
いわゆる女騎士ってわけで恐らく少年領主の護衛兼守役なんだと思う。
で、彼女は少年の気持ちを汲んで全身全霊でゼンクトへ挑み完膚なきまでに敗北した。
あとは女騎士だからクッコロしかないけど言うんかな?
「メリアドール、何か変な事を考えてませんか?」
「……………………」
最近フレインが怖い。
異常にボクの考えを読み取っている、そんな気がする。
顔に出てるとか?
いやクッコロってどう顔にでるん??
「この上は我が命を糧に貴様に最後の一撃をっ」ガチャリッ
「セーラ!!」ばばっ
「な?エ、エリック様!?」
あー!?
ここで少年領主が女騎士の背後に抱きついていた。
彼女が命を削るような技を繰り出そうとした瞬間それを止めにかかったみたいだ。
「お放し下さいエリック様!」
「嫌だ!お前まで僕を置いて逝ってしまうのか?」
「このままではバーデン家は罪に問われます。ですが人為的だとの判断なら王家も罪は問いません。どうか」
「バーデン家が残っても一人に、僕は一人になってしまう。お前が居なくなったら……」
「エリック、様………」ガクッ
そして力尽きる女騎士。
美少年の潤んだ目は彼女のプライドを賭けた覚悟を思い留める破壊力があったようだ。
流れ的に二人のやり取りは何らかの事情があるみたいだけどモブのボクには預かり知らぬ事だよ。
そしてクッコロは阻止された。
何か残念な気分。
「メリアドール?」
「………………………」
少年領主は彼女を支えゼンクトに頭を下げた。
女騎士は唇を噛んで涙を流してた。
よっぽど少年に謝罪させたのが悔しかったらしい。
それでも礼儀正しい少年の行動にさすがのゼンクトも頷く限り。
少年は華奢な姿に似つかわしくないくらい力強く女騎士を支え闘技場出口に引き下がっていく。
これにはギルドの三角四角も戸惑い声すら掛けられずにその成り行きに任せるしかなかった。
そして公開審問は振り出しに戻る事になる。
何故なら肝心の領主とその配下がそのまま退場してしまったからだ。
つまり最高責任者の不在である。
もうグダグダだね。
「もういいか。これ以上お前達の下らん行事に参加するつもりはない」
「待つのだのう。まだ話は終わってはおらんのう」
「証人がおるのでありんす」
「証人?」
帰ろうとするゼンクトを三角四角が必死に呼び止めた。
証人がいるとか言ってるみたいだ。
証人ってあの場にボクら以外に居合わせた人物が居たって事?
「フレイン、証人ってどういう事だろう?」
「そうですね。不思議な話です」
もし居合わせた人物がいたとしたらボクらに姿を悟らせずスタンピードをやり過ごした事になる。
ボクらでさえ避難する場所が無くてゼンクトに頼っていたのにそんな事が可能なんだろうか。
それに証人がいたとしてボクらの何を持って容疑者たろうとするつもりだろう?
既にこの審問は破綻しているし力越しに押し通す事も今となっては不可能だ。
それともそこに控えている無言を決め込むローブの人物が何かぶっ込んでくるとか??
「フレイン、あの人は?」
「あれはアース教異端審問官です」
「異端審問……」
「異端審問官は実質的に直接罪は問いません。ただ今回がスタンピードによる災害後の事なので多くの人命を損なう行為を意図して行ったかどうかが裁定をジャッジする条件。万が一その行為が悪魔的に行われたと判断されると彼らは動きます」
「悪魔的??」
「ええ、文字通り悪魔によって災害が起きたと認定された場合のみです」
ボクは思わずフレインと異端審問官を見比べていた。
悪魔的な行為に悪魔によって起きた災害だって??
それってまるで悪魔が存在するみたいな言い方じゃないか。
「……悪魔って存在するの?」
「存在しますよ」
「?!」
悪魔が存在する。
今フレインはそう言ったよね?
悪魔って天使とか神様とかと同列に語られる不可視の存在のはず。
そんな存在がこの世界に実際に居るって???
「信じられないのは分かりますが悪魔が関わったとされる事案は何度も起きてます。その多くは影で暗躍して世の中の流れを操作する。彼らの望む世界の在り方を作り出そうと女神に挑んでいるのです」
大地と豊穣の女神アース。
それが彼らアース教徒が信じる神様でその教義は常に人々の平和と安らぎを願うものだと聞いている。
その女神の祝福がアース神官が使える神聖力。
魔力を失う変わりに神聖力を授かり全ての人々にその祝福を届ける慈善活動を大きな柱としているのだ。
だけどもしフレインの話が本当ならアース教の真の目的は悪魔から世界を守る事なのだろうか。
その目的の為の異端審問官という事か。
「ならばさっさと証人を出せ。下らん話はもういらん」
「そ、そうしたいのだが証人が遅れておってのう」
「間もなく来ると思うのでありんす」
三角四角がゼンクトの圧にさっきまでの勢いが萎んてすっかり低姿勢。
だけど肝心の証人が遅れているとか短気とかの言葉からは無縁のゼンクトもさすがに怒りが隠せない。
ゼンクトの堪忍袋が切れそうになるまさにその時だった。
「いやぁ遅れて申し訳ないぜ。野暮用が終わらなくて。旦那方、待たせてすまねぇな」
「………!」
「ああっ?!」
「まさか………」
入り口に現れたその人物。
その聞き慣れた声にさすがのゼンクトも目を向ける。
もちろんボクの口は開いたままだしフレインまでもが嫌な顔をした。
そう。
それはまさかのガブだったんだ。




