第27話
「ではゼンクト、まずは貴殿の言い訳を聞こうかのう」
「言い訳を聞いてやろうという領主様とギルド長の有難い配慮でありんす。感謝するでやす」
「………ん」
「なんと?」
「よく聞こえないでありんす」
「くだらんと言ったのだ」
「………!」
「な?!」
わわっゼンクトがいきなり場を読まない態度をぶっ込んでる!?
背中に鉄斧背負って腕組みしたまま仁王立ちでふんぞり返るゼンクト。
三角ギルド長が唖然と口を開け四角側近が怒り心頭で真っ赤になり上段の甲冑までもが前に出た。
これはいつものゼンクトだけど今回だけは場を読んで欲しい。
「それは異議の申し立てかのう」
「容疑者として呼ばれておる自覚が全く無いようでありんすな!」
「それはお前達の都合だ。従う必要を感じん」
「我らが何の証拠もなくB級冒険者を犯罪者と祭り上げたとのう?」
「その態度、ギルドを愚弄してるでありんす!このチビ黒筋肉ドワーフめ。やはり亜人風情がB級冒険者の称号など相応しく無かったんでいやす!」
珍しく滑舌なゼンクト。
普段の十文字以下の言葉より多くを語り言い合いが成立している?!
あと四角ギルド長側近が悪態ついてるけどこの場合の正論はゼンクトにあるはずだ。
元々ダンジョン内で何が行われようとギルドは冒険者個人の責任としているし第一災害に等しいスタンピード発生原因に一冒険者パーティがなりうるわけもないわけで三角四角との舌戦は具体性に欠けるギルド側が敗色濃厚には違いない。
でも問題は最初から冤罪ありきの公開審問だから開いた時点でボクらの処遇は揺るぎないんだけどゼンクトはどうするつもりなんだろう?
不安でボクが色々思考してたらフレインが小声で補足を伝えてきた。
『流石にギルドとしても強引な審問をするつもりはないでしょう。ゼンクトにはそれだけの実力があります。それを抑え込む戦力など元からギルドにはありませんから』
『だけどフレイン。ゼンクトは大丈夫としてもボクらはどうなるのさ?万が一切り捨てられたら一巻の終わりだよ?』
『まだ日の浅いメリアドールだからそう思うでしょうがゼンクトに限ってパーティメンバーを見捨てる選択肢は微塵もありません。大丈夫ですよ』
『そりゃあ信じてるけど……』
ダンジョンからの生還は全てゼンクトのお陰だし日頃の行動や人となりは既に十分理解してる。
確かにゼンクトについては問題ないよ。
ただボクは単なるモブで何のしがらみもない最底辺の冒険者なんだ。
フレインの《大丈夫》はそこも考慮出来てるとは言い難い。
つまりボクの一番の心配は……。
「ふむ。つまりゼンクト殿はスタンピードの引き金となった件は否定するという事かのう」
「厚顔無恥とはこの事でありんす!」
「当然だ。我が斧に賭けても否定する」
ギラリッ
「……………!」
「いひぃ?!」
凄い。
ゼンクトから強烈な怒りのオーラが湧き出し闘技場を支配した。
三角四角も萎縮して言葉すら出ず只ひたすらその怒りの収束を願うのみだ。
やっぱりB級冒険者って間違いなく上位ランカーに違いない。
その力は国家の一個師団並みか。
こんなのたかがギルドの事務方風情に抑えられるもんじゃないよ。
冒険者は力が全て。
そんな圧倒的力があれば不条理な拘束にも従う必要は無いからね。
そう、その力をねじ伏せるには同等の力をぶつけるしかないわけだ。
『『オーラバースト』』
ズオオオオッ
「む!!」
「あ、え!?」
「これは………」
その圧力は全く突然だった。
さすがのゼンクトも顔を上げボクの肌も鳥肌になってフレインが目を見開いて闘技場上段を刮目した。
見た事がある。
この立ち登るオーラの濁流は間違いなくダンジョン内で見たゼンクトのオーラバーストと同じ………!
ただ問題はそのオーラバーストを発動したのがゼンクトではないという事実だ。
「セーラ……」
「エリック様暫しお待ちを。今こそ領主様の敵を討ち取りましょうぞ」
シュイインッ
少年領主の甲冑が動いた?!
少年に何かささやいて片腕に大剣を抜き一歩前に出る。
そして先程来辺りを席巻するオーラの濁流の源は全て彼の甲冑から発せられたもの。
そう、その甲冑こそオーラバーストを発動させた本元だったのである。
いやいやヤバいでしょコレ?!
ガシャンッガシャンッガシャンッ
ゆっくりとしかし確実に歩みを進める甲冑は明らかな殺意を持ってゼンクトの目の前に対峙した。
どちらも微動だにしないが目に見えない攻防は既に始まっている。
オーラバーストを操れる者は達人だと嘗てフレインが言った事がある。
つまり達人VS達人。
一触触発の緊張がボクら行動を凍結させ辺りは静寂が支配し冷や汗がボクの額を流れ落ちる。
全ての耳目が二人の対峙の行く末をまさに息を呑んで見守るしかなかった。
「…………………」
「貴様がゼンクトか。我が名はセーラ、セーラ・リスキントンである。死ぬ迄の僅かな時間覚えておいて貰おう」
「無意味な争いだ」
「言葉は不要!」ビュンッ
フッ
甲冑が何かゼンクトに喋ってたと思ったら消えた?!
いや目ですら追えない速度で甲冑が移動したのだ。
え、まさかの加速装置!?は前世巨匠の漫画雑誌。
なら甲冑が次に移動する先は!
ズカガガガーンッ
「!」
「ふん」
凄い。
甲冑は一瞬でゼンクトの背後に斬りつけていた。
だがゼンクトもそれを最初から分かっていたみたいに振り向く素振りもなく背中の鉄斧を柄の部分だけ持って防いている。
これが達人達の戦い!?
ギリリッ
「貴様、そこまでの技量を持ちながら何故スタンピードを発生させた!」
「冤罪だと言っている」
「嘘つきめ!!」
ガキンッ
ガガーンッ
ズカガガガガガガッ
物凄い攻防戦。
甲冑はその姿に似合わぬ機動力でゼンクトの左右前後から瞬時に斬りつけてる。
そしてゼンクトは殆ど定位置のまま鉄斧でそれを全て片腕で受け止めていた。
これは………。
「フレイン、これって」
「圧倒的ですね」
圧倒的。
そう、それは誰の目にも明らかだ。
ゼンクトの力は圧倒的に甲冑の力を上回っていたんだ。




