第23話 昔の事12
「そうだ。デスオドール様に報告をいれなければな!」
先ほどまで歓喜していた男は冷静さを取り戻すと左手にある腕輪を操作しだした。
間もなく腕輪は淡く光り男は口元を近づける。
「デスオドール様、ナンバーズ13です。たった今任務を完了致しました」
『ジジッ13、赤竜の魔力流でジジッく聞こえない。今任務をジジ完ジジッと言ったジジッ?』
なんと腕輪は通信の魔道具である。
男は通信の魔道具で上役と会話しているようだ。
だが何らかの障害で魔道具は上手く働いていない様子であった。
「くそっ障害があるのか??ポンコツ魔道具め」
『聞けジジそっちに行っジジッ急ぎ離脱しジジッろジジッ』
「は?離脱??デスオドール様!私は任務をやり遂げたのです。目標の王子もリリフルールの娘も確実に殺してやりました。だから褒めて下さい!フハハハハハハ私が王子とリリフルールの娘を殺したんだ!!」
『ジジッジジ』
どうやら男は上司の褒め言葉を聞きたいようだ。
歓喜を通り越して舞い上がっている。
そのシャーマンの様な行動には理解に苦しむが一種の信仰のように上司に盲目的な忠誠を誓っているという事なのだろうか。
だがそれとは別に直上から何かが落ちてくる事など、男は気づく事は出来なかった。
気づけるわけもなかったのである。
ヒュルルッ
ドォォーンッ
ズカガガガーンッ
「ぐ、は!?な、何、が???」
閃光と轟音と粉塵そして激しい振動。
天変地異のようなソレは大気と大地を震わし大きな影となって男の目前に降り注いた。
ヒュルルルルルッ
ドォォンッ
ガガーンッ
ヒュルルルッ
グワッアアアアアーッ
「ぐはああ、うわあぁ!」
何か巨大な物体がバラバラになって降ってくる。
その一つ一つは男の数倍の大きさで重量があり質量があった。
落ちるたびに大気と大地は悲鳴をあげ鼻を突く臭いが辺りに広がっていく。
その全ては赤く多数の突起を含む物体だった。
「い、一体、何、が?はあ!??」
だがその一つを見た男の目蓋は極限まで見開いていく。
何故なら男の常識ではあり得ないものだったからだ。
「ば、か、なぁ?!!」
とりわけ大きい目の前に落ちた巨大なもの。
それはこの世界の住人なら誰でも知る姿だった。
その認識だがもしそれが地球における何かに例えるならば西海岸ならハリケーンであり日本においては台風である。
これらは上陸すれば数多の家屋を吹き飛ばし大波を作り出し河川を氾濫させて毎年多くの人命が失われていたはずだ。
正に災害の申し子であり日本人なら間違いなく地震に並んで畏れを抱く存在ではないだろうか。
つまり男の目の前にあるものは台風でありハリケーンであり地震に相当するものであり決して人が間近に見たり触ったりどうこう出来るものではないはずである。
「せ、赤竜の、頭、だと……」
男は絶句した。
この世界においては吟遊詩人の詩に語られるような伝説上の存在。
いざ顕現すれば一国を滅ぼしてなおその力は衰える事を知らずその怒りは大きな山脈をも吹き飛ばし大地の形を変えるとまで云われているあの伝説上の生物。
まさに災害まさに厄災まさに究極の天災に近い存在がバラバラの状態で目前にある。
それは神への冒涜に等しい状況であったと云えるだろう。
バリバリバリバリバリバリッ
「な!?」
次の瞬間一筋の雷撃が落ちた。
いや一瞬過ぎて男は目で追えていなかったが確かに何かが目の前に現れたのだ。
そして男は息を飲む。
仁王立ちするその姿に息を飲むしかなかったのが正確だろうか。
その現れたものは仁王立ちから分かるように人の形をしていた。
男が息を飲んだのはその人型が発する巨大なオーラによる威圧である。
その威圧はまるで物理的に辺り一帯を薙ぎ払うような圧力があり到底男には抗う事も敵わない。
そう、それは人の形をした災害そのものにしか見えないのだ。
そんな神話と同等の様な存在を前に矮小な存在でしかない男が動く事も満足に息をする事も出来なくなるのは当然の成り行きであると云える。
「お前、今なんと言った?」
「…………っ?!」
バリバリバリバリッ
帯電している。
その人型は帯電して尚も発光しているのだ。
それが今人の声で話かけている。
そして男にはその人型の形に既に把握していたある人物を重ねていた。
「ま、さかリリフルール!!?」
「もう一度聞く。今お前は何と言った?」
その言葉が終わる前後、帯電は消滅し人型は一人の金髪エルフ女性となっていた。
その姿は間違いなくリリフルール。
メリアドールの母親にしてカズキの義母となっていた彼女であったのだ。
だがその様相は相当に変わってしまっていた。
美しい金髪はボサボサに見る影もなく全身は傷だらけだ。
そしてなにより変化が激しいのは彼女の左手と右目である。
左手は失われていた。
肘の辺りから切り取られたように消失していたのである。
そして右目は完全に潰れていた。
まさに戦って勝ち取った姿。
そう、彼女はたった今のその瞬間まで何らかの方法でデスオドールにけしかけられた赤竜と戦っていたのであった。
そして背後の赤竜の骸はその成果。
信じられないが彼女は伝説の存在に全身全霊で挑みたった今凱旋を果たしたのだ。
全ては愛する娘の為。
全ては愛する息子の為。
自分の全てを賭けねば敵わない伝説上の相手に挑み見事討ち果たしたのである。
そんな彼女が魔力による通信を傍受するなど余りに容易い事だったのだろう。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
「もう一度聞く!お前ぇ、私の愛する家族に何をしたあぁ!!!」
荒れ狂うオーラの濁流は文字通り辺り一面を薙ぎ払う物理的暴風と化しその暴風は数キロメートル先で燃え盛る森の火事をも消し去っていく。
その怒りは天を割り大気を震わし大地を割っていった。
それはどこまでも荒々しく激しい強さを持った力の濁流。
そしてどこまでも虚しく悲しい咆哮であったのかも知れない。




