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TSモブ荷物係は勇者にだけは近づかない。  作者: 無限飛行


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第22話 昔の事11

この世界の理は魔力である。


この世の生物は生まれた時から魔力を持ち人族、亜人、魔物、魔獣に至るまで魔力が当たり前の理の中で生きている。


魔力偏重。

それが普遍的価値観として定着して幾久しく果ては無機物や武器にまで魔力を付与するのが一般的となっていた世界である。


だからこその油断。


メリアドールが投げたソレは魔力付与のない前世の知識で作った物。

そんな物に魔力が常識の世界でしか物事の判断をしてこなかった男が警戒出来なかったのは無理からぬ事だったと云える。



ドッゴーンッ

ズカガガガガガガーンッ

バカンッガラガラガラガラッ



「はあっはあっはあっはあっ」



吹き飛んだ。

座り込んだ岩石ごと跡形もなく。

メリアドールは大穴の空いた場所を見つめ勝利を確信した。


と、同時に初めて殺人をした事に対する贖罪は彼女の中では薄かった。


正当防衛という言葉があるがそれ以前にメリアドールはカズキを守り抜いた事への安堵感に包まれていたからである。



ドサッ


「ははっ、やった……」



彼女は大の字に仰向けになる。

薄れゆく意識の中で少しでも楽な姿勢を取りたかったからだ。


だがまだここで倒れるわけにはいかない。

カズキの命運はメリアドールにかかっていたのだから。



「……カズキ……お姉ちゃん、頑張る、ね」



ゆっくりと立ち上がりカズキの入るラナの実を背負子から外して胸に抱くメリアドール。


外した理由は少しでも軽量化を考えて。

そして自分の体力が既に《《限界の先》》にある事を意識してだ。


出血はかなり減ってはいた。

だがそれは彼女が次のステージにある事を意味している。

それはなによりメリアドールの白くなってしまった肌が物語っていた。


魔力は本来血に宿る。

この世界で血を減らすのは地球と同じで死に直結した。

メリアドールは元々珍しい魔力無しだが、だとしても血を失えば結果は変わらない。


そんな状態で身体を動かすのは間違いなく自殺行為。

しかし留まる事は出来ない。

彼女はカズキの生存を全てに優先していたからだ。



(何とか、何とか人のいる場所まで)



メリアドールは朦朧とする意識の中でただ前進する事だけを願った。


その目的地はとても遠く長く険しい道のりになる。

半死半生の彼女が途中で力尽きるのは半ば確約された未来なのかも知れない。


それでも歩みを止めないのは愛する義弟カズキ(ジークフリード)の為。

彼の生存圏の確保は今やメリアドールの全てを賭けた目標に他ならなかった。



❇❇❇








ザッザクッザッザクッ……。



「あ、歩かない、と。歩かないと」



覚束無い足元を一歩一歩確かめるように歩みを進めるメリアドール。

呪文のような呟きは自分自身にかける応援歌か。


あれから数刻。

彼女は渓谷沿いの道と思われる場所に達していた。

驚くべき事だがメリアドールは半死半生のまま今だ歩み続けていたのだ。


その道が示す先はランスロット王国の方角と思われるが渓谷の崖沿いに無理やり造成されている上まともに整地が成されておらず所々は今にも途切れそうなか細い道である。

しかも要所で崩落しており到底道として機能しているとは言い難い。


道は遥か昔に何らかの目的を持って造られたようだが放棄されて幾久しい。

古くはエルフの里とランスロット王国とを繋ぐ交易路だったかも知れないがどちらにせよ整備もされてない道の遺跡のようなもの。

普通の感覚なら進む事を躊躇したことだろう。


だが今のメリアドールに危険かどうかの判断がまともに出来る筈もなく慣性とか惰性とかの言葉が当てはまる如く進み易い方に足が向かっているだけの事。


その歩みは牛車の如く遅く一歩踏み出すごとに一呼吸また一歩歩くごとに一呼吸の様。

あまりに痛々しい状態だ。


更にカズキのラナの実はその重量をジワジワと増し彼女の負担となっていた。

その感覚にメリアドールは前世の或る事を思い出す。



(重い、だんだん重くなる。カズキってもっと軽かったよね?何で重くなるんだろう。ああ、そういえば前世の妖怪漫画に《何とかジジイ》という妖怪がいたんだっけ。赤子だと勘違いして背中に背負うと石みたいに重くなって潰されるんだったか?カズキが妖怪になったとい事だろうか。それは何とも嫌なんだがラナの実にそんな副作用があったとか?でも背中じゃなく抱いてるからどうかな。ああ、カズキに潰されるなら本望でいいか)



などと自身でもよく分からない想像をしているメリアドール。

ただカズキのラナの実が重くなるのは妖怪や物理的な話ではない。


彼女の感じ方なのである。

それはある意味終わりが近い事を意味していたが今のメリアドールにその事が理解出来るわけも無い。

まさに一歩一歩。

メリアドールの歩みは死の行進に違いなかったのである。



キラッ



そして残酷な現実はそんな彼女でも放っておいてはくれない。


どんなに善人でもどんなに悪人でも終わりの時は平等だからだ。


ただ


もし神がいるなら


家族の為に命をかける健気な少女に


何故そこまで過酷な運命を強いるのかと問いたい……。














❇



「やった。やってやったぞ。ついに王子を俺が殺した。あははは、生意気なエルフのガキめ。共に逝けた事を感謝するがいい!」



ボロボロの黒い布地を纏い全身血だらけの男がそこにいた。

そう、この男こそメリアドールに重傷を負わせ彼女の反撃で吹き飛ばされたはずの、あの黒装束の男である。


男は全身が傷だらけであったがそれが気にならないくらい何かを成し遂げたように歓喜していた。


そして不思議な事に男は武器を持っていない。

あのメリアドールに深手を与えた槍を持っていないのだ。


吹き飛ばされた時に紛失したのだろうか?

それにしては歓喜する男の発言が不気味だ。

男は王子を殺したと叫んでいる。

王子といえばメリアドールが守るカズキ(ジークフリード)に違いない。

ならばこの時点で男が唯一の武器である槍を手放すとは考えにくい。

そしてカズキを殺すとなれば真っ先に邪魔になるのはメリアドールだ。


更に男が騒ぐ直前に光る物体が彼女に向かって飛んでいた。

それはつまり男が唯一の得物である槍を投げそれがメリアドールに向かって飛んだという事になる。


ならば彼女はどうなったのか。

先ほどまでメリアドールが居た地点を見てみよう。


おかしい。

そこに在るはずの彼女の姿がない。

さらに周辺を探ると道の崩落地点にかなりの血痕が残されていた。

そして血痕が示す先は深い谷があるだけだ。

底も見えない暗い谷底がぽっかりと口を開けていただけである。


果たして彼女とカズキは何処にいったのか。


そして二人の運命は………。


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