↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TSモブ荷物係は勇者にだけは近づかない。  作者: 無限飛行


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/49

第18話 昔の事7

カズキ(ジークフリード)はラナの実の中にいた。


ラナとはこの付近の森にだけ生える実の成る樹木。

その実は硬質の殻を持ちその姿は地球のヤシの実に近い。


ただヤシの実の二倍近い大きさで中身は黄色く甘い果実で満たされるのだが外被にも利用価値がありエルフ族達の荷運び用カゴや乳幼児専用の揺り籠等に恒常的使用されていた。


外被を上下に割って果実を取り出すのだが殻の付け根を外さずに保てばフタとしての使用が可能で防音と耐衝撃を兼ね備えた密閉効率の高い入れ物が完成する。

しかもフタをすれば完全密閉に近い気密性を誇りながらもミクロの穴が空気の導入を確保し水の侵入を許さないという特殊な構造を持っていた。



「だあ!」

「おーよしよし、ずっと中でネンネしてたんかな?元気だねぇ。オムツは……大丈夫そうだ」

「あぶあぶ」

「ミルクが空。お腹空いてるよね。ちょっと待って」



空の哺乳びんを掲げるカズキにメリアドールは慌てて台所を物色する。

当たり前だがリリフルールがミルクを与えていたわけではなくヤックというヤギそっくりな魔獣から搾乳したミルクを瓶に貯めてカズキに与えていた。


瓶は魔道具でミルクを一定の冷温保存できる優れもの。

またヤック自体のミルクも比較的持ちが良い。

そして哺乳びんはラナの実から削り出しで作ったものだがこれも保温と容量増加の魔道具効果が与えられている。

そしてオムツも吸水効率を上げ汚れを弾く布の魔道具だ。


それらの魔道具は魔力を持つ母親リリフルールが生み出したもの。

ただ商品化のアイデアは全てメリアドールの担当である。

もちろん発想は前世の技術からの応用であった。


そして今メリアドールは母親リリフルールの安否が気になりながらもカズキの世話を優先する。

飲ませたりあやしたりで一通り済ますまで小一時間が経過しカズキがゲップを完了しておねむ。

最後は前世の子守唄を歌うのが彼女の日課だ。

当然歌うのは日本の童謡で夕焼け小焼けからのミックス。

たちまちカズキは夢の中である。


最近はメリアドールの子守唄無しに中々眠らないカズキにリリフルールが困っていた。

彼女(メリアドール)としては母親を困らせるつもりはなかったのだがそれ以前に元A級冒険者(リリフルール)は子育ての経験値が低かった。


ではメリアドールの子育てはどうだったかといえば《寝る子は育つ》+《親が居なくとも子は育つ》=転生者である。

もちろん伯爵家時代は手厚い使用人に支えられ子煩悩な当主の助けは甚大であったといえよう。


とはいえようやくカズキから開放されたメリアドール。

ラナの揺り籠のフタを丁重に閉めると直ぐ様母親リリフルールの捜索を始めたかったが里や森の状況からの不在は明らかに緊急事態。

それも限りなく悪い方向しかない。


あとカズキのラナの実だ。

カズキのラナの実には間違いなくリリフルールの《守りの魔法》が掛かっている。

守りの魔法の効果は3つ。

①守りの対象の存在を薄くし家族以外から隠す隠蔽効果。

②守りの対象が不測の行動に出ないよう家族が近づくまで時間経過を遅くし眠りが深くなる安眠効果。

③守りの対象に悪意ある者が近づくと触れなくする反発効果。

である。


小屋内にメリアドールが最初に入った時はカズキの実は見当たらず暫くしてからカズキの声と共に現れ、小屋の窓からの眺めが外と違った事も小屋に掛けられた守りの魔法による結果と考えれば筋が通るのだ。


つまり母親のリリフルールは何らかの不都合が発生したため小屋とカズキの揺り籠その二つに守りの魔法をかけ家族だけが入れる結界を構築したのだろう。


ではその不都合とは何だろうか。

少なくとも里や森の有様がその不都合に関係している事は間違いない。

そしてメリアドールは母親リリフルールがA級冒険者であり戦える力を持っている事も知っている。



「お母さん………」



メリアドールが小屋の外に出ればやはり真っ赤に燃える炎は目前で小屋に結界があったとしても予断を許さない状況であると理解できる。


小屋の結界は物理攻撃を逸らす効果、魔法攻撃を打ち消す効果を併せ持つが全体に迫る災害にも効果があるかは未知数だ。

であれば次に彼女が行う行動は決まっていた。



(メリアドール、カズキの為に緊急事の取り決めをしておきます)

(緊急事の取り決め?)

(そう。前に伝えたけどカズキは高貴な方の忘れ形見。貴女には私が不在の時カズキを守り抜いてほしいの)

(弟なんだから守るのは当たり前だよ)

(そうね。だけど念の為に取り決めるの。いい?)

(分かったけど、どうすればいいの?)

(覚えておいてね。まず私が不在になったらそれが緊急事のサイン。その時は私を捜そうとせずカズキと共に北東の渓谷を抜けて隣国ランスロット王国を目指して欲しいの)

(ランスロット王国?)

(そう。ランスロット王国は私の知人もいる全ての種族に寛容な国。そこのアース教教会ならカズキと貴女を保護してくれる。そこで待っていて欲しいの。必ず迎えに行くから)

(ランスロット王国のアース教教会……そこはどんな所なの?)

(孤児や身寄りのない働けない人達を保護してくれる団体よ。女神アースの平等思想があるから迫害も無い。そしてここからが重要だけど、そこなら多くの亜人達がいるから紛れて隠れられる。安全なのよ)



メリアドールは母親と自分が嘗て人族優位主義者達に襲撃を受けていた事は聞いていた。

それはひとえに偏ったイデオロギーに基づく差別意識からくる悪意の本質である。

その行き着く先は国家が背負うイデオロギーとなり疑心暗鬼と暴力の連鎖が彼女の前世においても度々国家間の争いになっていた筈であった。


そして今母親リリフルールの心配は現実のものとなってしまった。

メリアドールは母親との取り決め通りカズキを守る為にランスロット王国を目指さなければならない。


こうして彼女は決意しカズキと共に住み慣れたこの地を離れる事となったのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。