第15話 昔の事4
「いつかこんな日が来るとは思っていましが族長自ら来られるとは思いませんでした」
「うむ、リリフルールよ。息災でなによりだ」
「お一人で来られたのですか?」
「………引導を渡すのに他の者の手は借りぬ」
「…………………」
メリアドールが里に強制的に連れ去られた頃、母親であるリリフルールの前にはエルフ族長が対峙していた。
そして彼女から向けらた敵意は確実にリリフルールを捉えている。
「人間共が辺りを探っておる。厄介な者を引き込んでくれたな」
「ご迷惑をおかけして申し訳御座いません」
「引き渡せ。森の外に捨て置く」
「出来ません」
ゴォォォッ
ヒュンヒュンヒュンヒュンッ
バシュンッ
フッ
族長はリリフルールからゆっくりと目を移し彼女の背後の小屋に向けた。
初動は無かった。
だがその瞬間沢山の炎の矢が小屋に向かいその手前で消滅する。
僅か数秒の出来事だった。
「結界か。衰えてはおらんな」
「これ以上の無礼はたとえ母上といえど許さない」
「言うな!」
ゴォォォーッ
族長が叫ぶと同時に現れたのは巨大な火の玉。
それは彼女の頭上で回転を始め大きさを肥大化させていく。
もしこれが放たれれば辺り一帯は火の海になるが万が一そうなればエルフの里にも累が及ぶレベル。
果たして族長は正気なのだろうか。
「本気ですか?」
「……本気でなければお前を抑える事は叶わん」
「里まで巻き込まれます」
「結界が里を守ってくれる」
「私が同程度の魔法で返したら結界が持ちません」
「脅しているのか」
「事実です」
「………」
フッ
その時だった。
今にも破裂するかと思われた炎の塊が一瞬で霧散した。
その意外な対応に確かめるように族長を見直すリリフルール。
そして度重なる意外。
彼女の視覚の中で族長は膝をついて崩れ落ちていた。
いったい何事が起きたというのだろうか。
「族長!?」
「近づく、な……」
「!」
族長の胸を一本の槍が貫いている。
間違いなく族長の背後から放たれたものだ。
リリフルールは彼女の背後から現れたもう一つの人影に短剣を構えた。
「あっれぇ?ルーちゃん狙って放ったんだけど違うエルフに当たっちゃった。メンゴメンゴ」
「…………………」
「ごほっ、こやつ人間か?」
目元を隠す無機質な仮面。
どこまでも人を食ったようなフザケた言動。
ピエロのような格好だがこの世界では吟遊詩人としての衣装になる。
そしてこの人物こそリリフルールが何度も接敵した暗部の人間であった。
「デスオドール……」
「へぇ?知ってたんだ僕の名前。まさか伯爵夫人に覚えられてるとは光栄だねぇ。嬉しいなぁ。あ、元伯爵夫人かな?」
「何しに来たの?」
「嫌だなぁ知ってるくせに。もちろん皇后様と王子様のゆ、く、え。知ってるんでしょ?」じゃりっ
「近寄らないで!それ以上近づいたら魔法を喰らわせるわ」
「おおーっ怖。流石元A級冒険者だよ。僕の配下を尽く返り討ちにしてくれちゃってさ。あの時上から散々だったんだよ、僕」
「………………」
「それでどうなの?知ってるの?教えてくれたらこの場は穏便に引いてやってもいいよ」
「知らない。たとえ知っていたとしてもアナタだけには教えない!」
「ふーん、じゃあいいや。勝手に調べるから。先ずは後ろの小屋かな」
「私が気づかないとでも?」
「!」
一瞬の閃光。
リリフルールの手が一時的にブレる。
そして突然何もない空間から現れる黒装束二人。
そのまま地面に倒れ込んだ。
どうやら透明化の魔法で近づいたようだ。
だがリリフルールにとっては朝飯前の事だったようで一瞬の間合で倒してしまった。
その様子にニヤけていた口元が横一文字になるデスオドール。
ついに彼?を本気にしたらしい。
「ふう、だから嫌だと言ったんだ。A級冒険者なんてどいつもこいつも化け物揃いの厄介者。まず素直に殺されてくれない……」
「諦めなさい。アナタでは勝てない」
「知ってる。だからこうするのさ」
「?!」
デスオドールが手を上げるのに合わせ森の奥から火の手が上がった。
そう、それは明らかにエルフの里の方角に間違いない。
つまりデスオドールはエルフの里にも配下を向かわせていたのである。
「あなた、エルフの里を襲ったの?!」
「だって何処に居るか分からなかったから」
「っ馬鹿な!結界が」
「そんなモン何の役にも立たないよ」
唖然とするリリフルール。
淡々と答えるデスオドール。
必死に起き上がり驚嘆する族長。
族長はエルフの霊薬で少し回復していた。
もはや三者三様である。
「まだ完全に制圧してないよ。どうするの?エルフの里を取る?それとも素直に皇后と王子の場所を明かす?」
「その前にアナタ達全員を無力化するわ!」
「わお、そう言うと思った。だからこれを用意したんだ」
バッサバッサバッサバッサバッサッ
「あり得ない?!」
「なん、じゃと!!」
「苦労したんだよ。相当に骨が折れたし犠牲がハンパなかった。受け取ってよ。僕からのプレゼントさ」
リリフルールと族長が唖然と見つめる先から迫る影はどんどん大きくなっていき、ついには森まで覆い尽くす大きさになっていた。
その巨大な影に立ち尽くすしかない二人。
「だけどA級冒険者ならこれくらい用意しないとね」ニヤッ
それはこの世界の《強さ》において頂点を極めるもの。
最強の矛と無敵の盾、その両方を併せ持つ無敵の存在。
そう。
現れたのは全長数十メートルはあろうかと思われる真紅のドラゴン。
人々が最も畏れる最強のモンスターである。




