第14話 昔の事3
神聖歴767年(帝国歴634年)
「ほら、こっちだよ。ついてきて」
「だあ」
「よーしよし合格。はい抱っこ、可愛いねカズキ」
「ねぇ、メリアドール」
「なんだい母さん?」
「何だかアナタとカズキのやり取りはまるでペットに対するような気がするの」
「そう?ちゃんと弟として扱ってるけど?はい、よーしよーしよく出来ました。今度はコレを取ってこようか。イチニノサンはい投げた」ぽい
「たあ」ズルズルズル。
「わあ、カズキはハイハイ早ーい」
「そういうところだと思うわ」
「?」
リリフルールがアリストテレスの忘れ形見を預かり2年が経過した。
ジークフリードはすっかり二人に懐いたがその名前をそのまま使い続ける事は彼の生存圏を脅かす事になりかねない。
なので偽名を与えた。
発案はメリアドールである。
「随分変わった名前だわ」
「ボクの前世の名前」
「またその話?前世って何処まで覚えてるの?」
「名前とか技術とか街並みとかかな。でも家族の姿や自分の性別とかははっきりしないよ。だから時々見れる動く絵のような感じ。向こうの自我とかそういうのも分からない」
「なんだか雲を掴むような話ね。でもあなたは信じているのね?」
「うん。それだけは確信があるから」
「なら信じてみるわ。あなたが信じている事をお母さんも信じるの」
「有難うお母さん」
「だあっ」
リリフルールはカズキを抱くメリアドールを抱き寄せた。
娘が信じているなら私も信じるに決まっている。
二人ここまで生きてきたのだ。
この先もこの子を信じて共に生きていこう。
もちろんカズキも一緒に。
そう新たに決心を固く持つリリフルールであり彼女の瞳には揺るがぬ光が灯るのであった。
『巫女様!お迎えに参りました。お出ましください』
「「!」」
その時である。
小屋の外から声がかかる。
これは間違いなくエルフ世界樹の里側仕えの声。
やはりメリアドールの行動は監視されていたのだ。
まあ、これだけ毎回抜け出してれば当たり前である。
まして母親のところに来てる事は最初から予測されていた。
「はあ、お母さん。行ってくる。夕方にはもどるよ」
「いってらっしゃい。まるで何処かに仕事でお出かけするようだわ」
「たあっ」
小屋から出たメリアドール。
珍しく神妙に側仕えの後ろを歩く。
ふと顔を上げ辺りを見回す彼女。
気のせいだろうか。
いつもより空気が張り詰めている。
こんな森の感じは初めてだと彼女は思った。
「今更だけど今日は珍しく声をかけたのは何故?」
「何の事で御座いましょう」
「普段から監視してるんでしょ?でも今迄は放っておいたよね。今日に限って声をかけた理由が知りたい」
「……たまたまで御座います。ただ日頃から申しているように彼の者の側に行かれるのはお止め下さい。我が里の禁忌を犯した者に近寄ってはなりませぬ」
「それでもボクの母親だ。里の禁忌なんて関係ない」
「巫女様は世界樹様が選んだ尊いお方。あのような下賤な者などを母親などと呼んではなりませぬ!」
「はあ、原始人だね。言葉が通じない」
「げんし?」
「もういいや」ガサッ
「巫女様??」
メリアドールは足を止めた。
正直巫女とか禁忌とか世界樹とかは彼女にとってはどうでもいい事だった。
ただエルフ達に付き合っていたのは母親がこの地を離れないからだ。
リリフルールが何故この地に帰り出て行かなかったかは何となくだが分かってはいた。
最初の頃はリリフルール自身とメリアドールの安全の為。
途中からはメリアドールの父親ライトニング伯爵に対して彼の弱点にならぬよう。
そして最後はカズキ(ジークフリード)の保護の為である。
実はアモロス帝国には暗部がある。
しかもその実権を握っているのが昔からガストール率いるアムステルダム公爵家であった。
そして伯爵家にいた頃に度重なる襲撃を受けたのだがそれを撃退したのがリリフルール自身でありその時既にアムステルダム公爵家の派遣した暗部との接触とその黒幕に気づいていたのである。
メリアドールはそこまでの母親リリフルールの思惑には辿り着いてはいない。
だが分かるのだ。
親子である二人には以心伝心のような何ががあったと。
ガサガサガサッ
「どういう事?」
メリアドールが踵を返そうとしたところで辺りから現れたのはエルフの男達。
しかも各々に弓や短剣を携帯している。
明らかに尋常ではない。
「巫女様、今日は何としても里まで来て頂きます」
「嫌だと言っても?」
「あなたが魔法すら使えない事は分かっています。そして彼らは里一番の戦士。到底敵いますまい。良識あるご判断を」ガシッ
「っ………………」
側仕えにしっかりと腕を取られ念の為にパチンコは奪われた。
回りを背の高いエルフの成人男性が取り囲みいかにメリアドールといえどうする事も出来ない。
嫌な予感がした。
「まさか、お母さんに何かするつもりじゃないよね?」
「歩いて下さい。でないなら運ばせます」
「………お母さん!」
それでも動かないメリアドールに側仕えが指示を出した。
一人のエルフ戦士が彼女を俵持ちに抱き上げる。
「お母さん!!」
メリアドールの叫びは森の挟まに虚しくこだまするだけだった。




