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TSモブ荷物係は勇者にだけは近づかない。  作者: 無限飛行


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第13話 昔の事2

神聖歴765年(帝国歴632年)



この年、とある国家で政変が起きていた。

西方の大国アモロス帝国にてクーデターが起き皇帝が討ち取られたのである。

討ち取ったのは公爵位のガストール・アムステルダム。

皇帝ヘラクルス・アモロスの腹違いの弟であった。

ガストールはヘラクルスの人種融和政策に異を唱え著しく皇帝派と対立していたがついに蜂起したのである。


アモロス帝国はヘラクルスが人種融和政策に舵を切る以前は古来より人族優位主義を継承していた。

人族は多種族に比べ短命ながら数か多く国家の社会基盤や支配層の大半を占める形になり易い。

その中で生まれた人族優位主義は国家形成が中央集権化を伴う封建制度においては至極当たり前だったのだ。


しかし過去にはそれに追随する国家もあったのだが種族主義はどうしても差別を生み差別は負の連鎖を呼んで社会を停滞させる。


やがて最初の文明国家が出来てから数世紀が経ち社会基盤が整ってくると貿易が活発化して種族差別を見直す機運が高まり新興国を中心に種族融和政策への転換が始まった。


そして現在は大陸内の国家で人族優位主義を表向き政策として掲げるのはアモロス帝国だけとなる。

当然ながら国家は閉鎖的になり他国との人の交流が減って商業不振が拍車をかけ国家の発展の妨げとなっていく。


時の皇帝ヘラクルスはそういった古い体制を打破し新風を送り込む事に積極的でありまた大多数の民意(平民)でもある国家発展の前には人種融和政策への転換を推し進めるのは当然の成り行きでもあったのである。 


実はその融和政策への転換には正妃の存在が大きかった。

そしてヘラクルスの正妃アリストテレス皇后には親友たる存在があった。

その親友こそメリアドールの母親であるリリフルール。

人種優位主義の帝国史上初めて貴族夫人となったエルフだったのである。


アリストテレスとリリフルールの関係は元々国外での事。

アリストテレス一向が他国親善で向かった先で盗賊団の襲撃を受け冒険者リリフルールに救って貰った縁である。

その後リリフルールはその時の彼女の補佐であるライトニング伯爵に見初められ恋仲となっていた。


ライトニング伯爵は亜人を娶る愚か者のレッテルを貼られながらも熱烈さをアピール。

アリストテレスの後押しもあって見事にゴールインを果たしたのである。

そうして生まれたのがメリアドール。

エルフの特長と珍しい髪色の赤子であった。


その後は順風満帆。

アリストテレスとの交流も深まりリリフルールの大らかさに惹かれた貴族仲間も増えお互いに親友と呼べる時間を共有するようになっていた。


だが幸せは長く続かない。

人種優位主義を是とする一派がたびたびライトニング伯爵邸を襲い危惧した伯爵が二人を伯爵領に疎開させた後もその襲撃は止まなかったのである。


このままでは夫であるライトニング伯爵や親友のアリストテレスに被害が及ぶ。

そう悟ったリリフルールがエルフの特長と変わった髪色を持つメリアドールを抱え出奔するまでそう時間はかからなかった。


ライトニング伯爵は必死にリリフルールと我が子を捜したが元々冒険者である彼女が自身より土地勘に優れない筈もなく彼女と我が子の捜査は容易では無かったが暫くしてリリフルールから手紙がきたのである。


(一族のところに戻るので捜さないで欲しい)


手紙の内容は一文をしたためただけ。

それでも全てを理解した伯爵。

彼女を呼び戻す為に今の体制を変える事を考えアリストテレスに直談判した。

こうして始まった二人の改革は皇帝の後押しもあって順調に進み後は皇帝陛下が人種融和政策への転換を宣言すればいい、その最終イベントが始まる直前のクーデターであったのである。





❇❇❇

❇❇❇❇

❇❇❇❇❇






「では夫は……」

「ライトニング伯爵、は途中まで私の警護に付き添っていたの。だけど追手に追われて彼は囮となり二手に別れた。その後は分からない、わ」

「もういい、もういいわ。喋らないでテレス」



アリストテレスの傷は重傷だった。

エルフの霊薬でも治らないほどに。

多少は持ち直したものの予断を許さない状態だった。



スースー


アリストテレスが抱えていた赤子は別室で良く眠っていた。

メリアドールは子煩悩なのか赤子の世話に積極的でリリフルールの差配を待たずに別室のベッドで面倒を見ている。

数刻後、霊薬で眠りに落ちていたアリストテレスが目覚め介護するリリフルールに聞いた。



「あの、子は」

「先程眠ったの。メリアドールが見てるわ」

「メリアドール、ライトニング伯爵の御息女。大きくなられたのね」

「うん、今だにやんちゃだけど」

「ルー、今幸せ?」

「……幸せ、かな。メリアドールがいるから」

「その感じだと、大変なのね」

「………あの子、貴女の子よね?」

「やっと授かったの。あなたに先越されてどんなに悔しかったか。でもこれで一矢報いたわ」

「……つまり」

「ジークフリード・アモロス。アモロス帝国の第一王子で王位継承権第一位だわ」

「……次期皇帝陛下ね」

「もう終わった話よ。ね、ルー、貴女にお願いがあるの。私の最後の頼み、聞いて欲しい」

「駄目、最後じゃない!貴女は生きて」

「自分の事、分かるわよ。だからね、お願い。あの子を……」

「………うん」

「……った」



その日、アリストテレスは夜を待たずして逝ってしまう。

大事な我が子をリリフルールに託して。


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