第11話 とある世界の片隅で
オンラインゲーム
《世界樹の巫女と金の勇者》
西暦2030年代に誕生した脳神経に直接ネットラインを接続できる伝達装置『ブレイン・ダイブ』の開発により人々はネット端末の操作をせずとも感覚でネット空間を泳ぎその恩恵を享受出来るようになった。
超AI時代。
人間の全思考全感覚をネット空間のアバターに転写可能となったブレイン・ダイブの登場は人類にとって後戻り出来ないパンドラの箱であった。
人々は全ての人生の時間をネット空間に求め、ありとあらゆる事がネットのアバターを通して行われる。
ブレイン・ダイブをスマホのように使いアバターが買い物を代行しアバターが旅行を消費しアバターが恋愛を肩代わりする。
事実上《アバター経済》が実体経済を動かしていく。
そして様々な没入型オンライン・ゲームの開発は電脳空間の仮想現実を加速し人々の魅力を止めどないものとしていくのである。
その中でひときわ人気のオンラインゲームタイトルが《世界樹の巫女と金の勇者》だ。
このゲームの最大の特長は没入型ブレイブストーリーを主軸としながら単なるRPGゲームの枠に収まらない。
基本は主人公主体のレベル上げでクエストをこなしつつ経験値を集めるのだがある程度進むと仲間のファクターが強くなり誰を仲間にするかで後半のストーリー展開が全く変わるという設定がある。
自身の経験値の進捗と仲間の経験値の進捗どのNPCをどの時点で仲間としたか。
無限とも思える選択肢の中で当に個別プレイヤーだけのストーリーが彩られていくわけでプレイヤーには最後までエンディングが分からないという当に没入型の極みのようなゲームなのである。
あまりの人気にメインストーリーがアニメや小説、映画にもなるのだがメインストーリーはあくまでゲームの入り口である事には変わらない。
因みにメインストーリーとは通常の悪と正義の戦いに終始するブレイブストーリーでオープニングに語られる女神アースの言葉。
(悪しき者達により世界樹が瘴気に侵され魔獣や魔物が溢れて世界が危うくなってしまいました。どうか世界樹を浄化して世界を救って下さい)
これがオープニングでありメインストーリーというわけだ。
その中で勇者はクエストをこなしてレベル上げをし青銅勇者からマックスの金の勇者になる間に様々なタイプの女性をパーティメンバーに加えて戦力強化していくという王道のハーレムストーリーである。
主人公は様々なクエストクリアに向け最も最良なタイプのヒロインを戦力に加えて戦うのだが唯一この作中でゲーム内どのルートでも外せないキャラがある。
全エンディングに関わる最重要キャラでありそれがつまり《世界樹の巫女と金の勇者》というわけなのだ。
特に世界樹の巫女は最重要。
彼女無しに世界樹の浄化はあり得ないわけでハーレムルート、逆ハーレムルート、友情ルートその全てにおいて関わる事になるキャラなのである。
そしてバッドエンドは彼女の死。
世界樹の巫女の死が全ストーリーのバッドエンドになりえるのだ。
❇❇❇❇
冒険者パーティ剛腕の鉄斧。
その所属する冒険者ギルドはランスロット王国に属している。
その西方に位置する国家はアモロス帝国といい、その勢力は大陸西方の海岸線まで続く。
アモロス帝国は人族優位主義を掲げる人族国家であり未だ他国からの移民や異種族にたいして消極的な政策を基本する封建国家であった。
ドドドドッ
ゴアッグオオァ
ドカガンッ
ガガーン
「カズキ、上空からワイバーンが6。急速接近中よ!」
「くそっ早すぎだ?!まだ正面のキングベアーの群れを崩せないでいる。誰かけん制出来ないか?」
「カイラはまだエアウルフ200ほどの群れと戦っている。手が足りないわ!」
「不味い。レッドボアの群れは抑えられているのか」
「町に向かってる。ギルド差配の冒険者達が対処してたけどさっき突破されたわ。数が多すぎるのよ!」
「ぐっ、遠距離型の魔法使いが欲しい。こんなんじゃジリ貧だ。アレが襲ってきたら一溜まりも無いぞ!」
とある町のスタンピード防衛戦。
鋼の勇者カズキは自身の不甲斐なさに空を仰いだ。
その空には彼のパーティを嘲笑うが如くスタンピード最大戦力であるワイバーンの群れが迫っている。
ワイバーンはその強大な魔力で数トンもある巨体に揚力を与えて空を飛び口から火炎弾を吐く災害級の魔獣。
鋼の勇者カズキの力を持ってしても単独討伐は無理であり仲間との連携を必要とするランクである。
しかし連続するスタンピードに彼のパーティメンバーも手が足りず、ギルド手配の他の冒険者達も大打撃を受けているのが実情だ。
このままでは町の防衛に失敗し多数の犠牲者が出るのは必定。
そればかりか上空のワイバーンはこの場にいる全ての冒険者の絶望に繋がるに違いなくカズキのパーティ全滅すら覚悟しなければならない切迫した状況にあった。
『ガウッ』グワッ
「きゃああ!?」
ズドドドドドドッ
「カズキ、カイラが危ない!」
「くそっ、オーラバースト!!」ズオオオオッ
オーラバースト。
本来達人の域に達した冒険者しか使えない闘気を一時的に暴発させその爆発力を力に変える必勝のスキル。
魔力とは違う戦士特有の力であり勇者なら達人にならずとも使えるチートの一つである。
但し使用制限があった。
一回使用すると数時間のアイドルタイムを空けなければならない。
使い所は限られるのだ。
「韋駄天天翔!」シュバンッ
「カズキ!お願い!!」
そして韋駄天天翔はカズキが得たユニークスキル。
瞬歩の上位スキルで離れた仲間の所に一瞬で到達できる彼だけのスキルである。
「バスターフラッシュ!」
そして一瞬で仲間であるカイラの元に辿りつくやいなやエアウルフの群れに横斬りの斬撃を放つ。
唯一カズキが使える遠距離攻撃スキルだが射程が短く何度も使えない。
オーラバースト中だけの殲滅スキルである。
これにより数十のエアウルフは瞬時に倒されたのであった。
「カイラ、大丈夫か!?」
「う、噛まれてっ」
「カズキ、カエラ?!」
「アリエル、回復を。カエラがエアウルフの毒にやられた!」
「アースの女神に祈りを捧げます。そして敬虔な信徒に祝福を。ポイズンキャンセラー!」パアッ
膝つくカイラに肩を貸すカズキ。
そこに回復職アリエルが唱えたのは毒消しの神聖力だ。
淡い光がカエラから毒の影響を消し去っていく。
「アリエルあ、ありがとう」
「仲間なんだから当たり前です」
「カエラ、良かった。アリエル助かったよ」
「カズキ……」
カエラの手を大事そうに握るカズキ。
そのカズキを頬を染めて迎えるカエラ。
そしてそれを微笑ましく見つめるアリエル。
その信頼で結ばれたこのパーティーは周辺ギルドの中では最強とされていた。
ガオオオオーッ
「「「?!」」」
だが一息ついた三人の目前には口に炎を湛えたワイバーン。
いかに最強のパーティであっても魔物の物量の前には対処する体力も技術もスキルすら限界であり彼、彼女らの命運はまさに風前の灯であった。
「くそっこれまでか!!」ズザッ
「カ、カズキ……!?」
カズキは観念したようにワイバーンの前に両手を広げた。
背後にはパーティメンバーのカエラと彼女を介護中のアリエルがいる。
「駄目っ、カズキ!」
「まさか?!」
「カーズ・ヘイト・バリケード!!」
カーズ・ヘイト・バリケード。
それはパーティメンバーに向けられた悪意をスキル発動者が全て肩代わりするスキル。
ワイバーンの怒りを全てカズキが受け止める代わりに彼の命を代償にパーティメンバーを一時的な無敵の盾が守護する禁忌のスキルである。
これによりワイバーンの矛先は全てカズキに向く事となるのだ。
ガオオオオーッ!?
グオオァ!!
「あ、ああ、駄目、駄目よカズキ、なんで」
「嫌あああ、止めてぇ!!」
カエラもアリエルも分かっている。
パーティが全滅を避けるには他に方法が無い事も。
だとしてもそれがカズキの犠牲で行われる事に彼女達の精神が耐えられるはずも無い。
そして無情にもワイバーンの火炎弾がその口元に収束していく。
泣き叫ぶアリエルとカエラ。
その時カズキは火炎弾の輝きの中で二人に微笑みを返すのだった。
「ギガフレイム!」
『ゴアッ??!』
ズカガガガーンッ
「「「!?」」」
バタバタバタッ
「大丈夫?危なかったわね」
「き、君は?!」
その時である。
迫っていた一体のワイバーンが巨大な炎に包まれて離脱した。
カズキが炎の放たれた方角に振り向けばそこに立つのは魔法使いの黒マントをはためかせ三角帽子が風で飛ばされるのを押さえながら笑顔を向ける赤髪ロングの女子が一人。
「私はアメリア。冒険者アメリアよ」
これは鋼の勇者カズキの新たな仲間と出会うイベント。
勇者パーティ新メンバーとなる通称《火炎の魔女》アメリア・エメラルーダその人である。
そして彼女こそかつてのパーティ剛腕の鉄斧に所属していた魔法使いに違いなかった。
ここに新しい縁が生まれ同時に運命の歯車が動き出す。
数奇な運命に翻弄され遠くすれ違いを果たした二人の歯車。
その接点に繋がるイベントが開始された事に気づく者はそこに誰もいなかったのである。




