生徒会長から最後に頼まれたこと ①
「朝日さん、相談したいことがあるんだけど」
と、イケメン生徒会長の佐久間悠君から図書館準備室でそう言われたんだけど……。
9月になって二学期が始まると、図書委員会は引継ぎの時期を迎えることになる。
三年生は大学受験や推薦入試でなにかと忙しく、9月に新・生徒会の選挙が行われて、10月には生徒会の新メンバーが決まるので、引退に向けた準備をしなければならない。
部活動と同じく、夏休み前に実質的な活動を終了している委員会も多いんだけど。
図書委員会の場合は、夏休みの棚卸しと10月末から11月の頭にかけて「読書週間」があるので、その準備を最後に行って、後輩にバトンタッチすることになる。
といっても11月の頭に文化祭があるから、「読書週間」は推薦図書を選んで告知するだけで、受験勉強の合間に後輩の図書委員たちに指示を出すだけなんだけど……。
9月最初の図書委員会で、居並ぶ図書委員たちに対して私から、ある相談ごとを持ちかけた。
「みなさん、これまで図書委員として活躍してくれてありがとうございました。
図書委員長として一年活動してきましたが、就任前に予想しできなかったぐらい、充実した活動ができたのではないかと思います。
過去の活動を引き継ぎながら、新しいことにもたくさんチャレンジできた一年になりました。
ただ一年間の活動の中で、まだまだできたことがあったという心残りもなくはありません。
他の学校の図書委員会の活動に目を向けてみると、新しくて面白いチャレンジで、図書室をもっと楽しい空間にしたい! と活動をしている図書委員会がたくさんあることを知りました」
と、ここから本題に入る。
「それで、来期の図書委員会には、今の図書委員会を超える活躍をしてほしいと思っています。
それを生徒会にも伝えて残していきたいので、生徒会での活動報告の最後に、他校の面白い図書員会の活動をまとめて紹介したいんだけど……。
ごめんなさい、ちょっと私や他の三年生に時間がなさすぎて、できれば二年生に手伝ってほしいんだけど……。
資料は集めているから、それをまとめて生徒会の会議で発表してもらえないかな?
一人でも二人でもいいんだけど……」
と言って、みんなを見回す。
生徒会委員たちの前で発表すると聞いたからか、普段は協力的な図書委員たちも周りを見渡し、そしておのずと一人の図書委員に視線が集まる。
二年生の伊藤だ。
帰宅部で書店でバイトしてて、図書委員の仕事がないときでも図書室にいることが多いのは、図書委員の仲間ならみんな知っている。
空気を察した様子の伊藤があきらめ顔で、
「……僕が手伝いましょうか」
とボソっとつぶやく。
すると私の横に座っていた田村が、
「伊藤一人に押し付けるのもかわいそうだし。犯罪者が手伝ってやれよ」
「畑中です! その呼び方、ハラスメントですよ!」
「いいじゃん。で、手伝うんだよね?」
「ええ、まあ」
と伊藤と仲がいい畑中が答える。
「じゃあさ、その二人じゃ頼りないから、清水さんも手伝ってくれない?」
「えっ、田村先輩、なんで私なんですか!
……まあ、いいですけど」
と清水さんが答えると。
「ごめんねー、俺も深津さんもいろいろ忙しくて、朝日さんを手伝えなくて。
三人とも頼むよ」
「本当にごめんなさい!」
と、田村と深津さん。
こうして、私と二年の三人で、生徒会の委員向けに、図書委員会の活動報告を行うことにした。
そうそう、佐久間君から相談された件なんだけど。
佐久間君から、
「朝日さんもよく知っている二年生の図書委員の伊藤のことなんだけど。
伊藤が一年生の時に、僕と同じ陸上部だったんだけど。
一学期のある日から、急に部活に来なくなったんだ。
それで、みんなで心配して会いに行ったけど部活がきつくてやめたいってそっけなく言うだけで。それに顧問の先生も当時のキャプテンも何もしようとしなくて。
みんな彼には期待されていたんだけど……。
伊藤と仲の良かったはずの等々力に話を聞いても何も知らないって言うし。
等々力も部活に来なくなったりしたので、一緒に生徒会を頑張ろうって誘って声をかけているうちに、部活のほうもまた熱心になったんけど。
伊藤は、なぜか僕を避けるようになって、そのまま疎遠になってたけど。最近よく図書室で見かけるようになって、ずっと気になってたんだよ」
「ああ、それで図書室によく顔を出すようになったの?
てっきり恋愛関係で生徒会室に居づらくなったんだと思ってた」
「それもあるけど(笑)」
「あるんかーい」
「朝日さんって、キャラ変わってない(笑)?」
なにそれー。
それで、で、きれば私が委員長でいる間に佐久間君からの依頼を解決したいんだけど、時間もないので図書室にいた畑中を捕まえて、
「畑中君って、伊藤君と仲いいよね?
伊藤君が一年生の一学期で陸上部を辞めた理由を知らない?」
とストレートに話を聞く。
「僕が、伊藤と仲良くなったの一年の二学期からなんで……。
あいつが夏休みにミナミ書店でバイトしてたのを見かけて、声をかけたのがきっかけで。
伊藤、陸上部は練習がきつくて嫌になって辞めて。
それで、暇になったから夏休みに書店でバイトをはじめたら、読書が楽しくなったって、言ってましたけど」
あー、その話は前に聞いたことあるかも?
そうしたら、いつものように図書室に本を返却しに伊藤が来たので、後ろから声をかける。
「へー、こんな本、読んでるんだ」
「図書委員が、借りる人の本にコメントしたり、どんな本を借りているのかをじろじろ見るのは禁止事項だ、って言ってたの朝日先輩でしたよね」
「えー、図書委員同士ならいいのよ」
と軽口を叩きつつ、
「ねー、伊藤君ってなんで陸上部を辞めちゃったの?」
「……なんで、そんなことを聞いてくるんですか」
「うーうん。なんとなく」
「ひょっとして、佐久間先輩からなにか言われたんですか?」
「えー、なんでそう思うの?」
「……なんとなく」
すると、少し何かを考えていた様子の伊藤が、めずらしくニヤッと不敵に笑いながら。
「僕の借りた本の履歴を見たら、なにかわかるかもしれませんよ」
と言った。
「それって、伊藤君が借りた本の履歴を、私が見てもいいってことだよね?」
「ご自由にどうぞ」
言ったなー。言質とったからねー!
それならと、遠慮なく伊藤の貸出履歴を図書室のパソコンで確認する。
入学して一年生の図書室のレクリエーションのときに、筋トレ本と栄養学の本を借りた以外、しばらくは借りてなかった。
そして、一学期の終わりから、夏休みをはさんで急激に本を借り始めていた。
一学期の終わりに借りられていたのは、朝井リョウ先生の『霧島、部活やめるってよ』と、湊かなえ先生の『告白』と、宮部みゆき先生の『秘密』の三冊ですかぁ。
名作ぞろいですが、なにかタイトルが意味深ですねー。
私は三冊すべて読んだことがあって、受験生で時間もないので、図書室でざっと本をめくって内容を思い出してみたけど、なにも思いつけなかった。
うーん、畑中から聞いた話は、佐久間君や伊藤から聞いた話とほぼ変わらないか。
でも、部活を優先して楽ができそうな図書委員になったはずなのに、部活のほうを数ヶ月で辞めちゃったのは不自然な気が……。
じゃあ、次は二年生の副会長で、陸上部の等々力武君に話を聞いてみるか。
鶴谷城高校には、佐久間君の元カノの田辺さんとは別に二年の副会長がいて、佐久間君の後継者と目されているのが、等々力君。
同じ生徒会委員だけど、ほとんど話したことがないので、話しかけるのは少し緊張するなー。
でも用事があって生徒会室に行ったついでに、勇気を出して等々力君に話しかけてみた。
「ねえねえ、等々力君。
二年生の図書委員で伊藤君って知っている? 一年生の最初に、陸上部にいた」
「はい、知ってます」
「その伊藤君が、一年生の一学期で陸上部を辞めちゃった理由って知ってる?」
すると、不安げな顔をしだした等々力君は、
「いえ、なにも知りませんけど。
なんで朝日先輩がそんなことを聞いてくるんですか?」
と、聞いてきた。
「いやー、伊藤君って一年の後半から急に図書委員の活動に熱心になったからさー。
その前に書店でバイトをはじめたりして、なにかきっかけがあったのかなって思って。
本にハマるきっかけを、図書委員長としては知っておきたくてさー」
なんて適当な話をしていると、等々力君は少し考えてから、質問には答えずに、
「伊藤は、図書委員会で元気にやっていますか」
と私に聞いてきた。
「楽しくやっているんじゃない?
私はとっても頼りにしてるよ。
伊藤君からは仕事をさせすぎだって怒られるかもしれないけど(笑)」
「そうですか。
それならよかったです……」
と、等々力君はちょっと安心したように見えた。
等々力君からは何も情報が引き出せず、中学生のときに伊藤と同じ学校だった清水さんにも、伊藤の中学時代の話を聞いてみたけど。
中学校のときも陸上部では期待の選手で、今より女子生徒に人気だったらしいけど、部活を辞めた理由のヒントになるような情報は手に入らなかった。
本当は、他の陸上部の生徒や顧問の先生にも話を聞いてみたかったんだけど。
これ以上、あちこちに聞き取りをするとヤブヘビになりそうだし、受験生で時間もなくて面倒になったので(笑)、伊藤を呼び出して直接、事情を聴くことにした。




