第84話 Blood and Wine
血溜まりを避け、次の元凶を探すため、俺はワイナリーの中を歩き出した。
僅かにだが、人の気配がする。
ワイナリー奥へ行くと、地下室へと続く階段があった。階段の先から僅かに光源が見えた。
ゆっくりと階段を下りていく。
地下室にはワインの樽がいくつも並べられている。おそらく熟成中のものだろう。
その樽の1つの前に、人間が3人ほど倒れている。白服が2人、Tシャツにタクティカルリグを付けている者が1人、転がっている懐中電灯の光に照らし出されている。
その3人は文字通り、浴びるようにワインを飲んだ様子で、白服のほとんどの部分が赤紫色に染まっている。
俺はマチェーテを引き抜きながら、地面に広がっているワイン溜まりをピチャリ、ピチャリと踏みながら進んで行く。
眠ったままの白服の首筋にマチェーテの刃を当て、引く。血が噴き出し、覚醒した男の目が俺を見る。だが、グボボという音を鳴らすだけで、まともに動くこともできずに息絶える。
次はうつ伏せに寝ている白服の左肩の下、肩甲骨と背骨の間に刃先を向けて、突く。
心臓直上の大動脈を完全に断ち切った。その瞬間覚醒して声を上げようと白服は息を吸い込むが、肺すらも大きく切り裂かれているため、まともに息をすることもできなかったようだ。
「ウッ、ァッア、ゴボェ…」
と声にならない音を出しながら絶命する。
「おい、寝ゲロかァ…?」
タクティカルリグを付けていた男が、音に気が付いて起きたようだ。暗闇の中に浮かび上がるお互いの目が合う。
「アッ…」
死体からマチェーテを引き抜いて、上半身だけ起き上がって小さく声を漏らした男の顔面を蹴っ飛ばし、馬乗りになった。
「死にたくなきゃ答えろ。川崎はどこに向かった」
「し、知らねえ」
マチェーテを男の顔に当て、ゆっくりと頬を切り裂く。
「アァガァアアアァ…」
声を上げさせない為に、俺は男の首をもう片方の手で掴み、力を籠める。
頬をゆっくりと切り裂いて、もう1つ口を作ってやる。
「話す気になったか?」
なんとか俺の手から逃れようと藻掻くだけで、返事はない。
マチェーテをもう一度、反対側の頬に当てて、ゆっくりと切り裂いていく。
「口が3つになれば、もう少し喋りやすいか?」
「アアア、イウ、イウカ、ラモウヤメテクデェ」
首を絞める力を緩めてやると、男は片言になりながら話し出した。
「カ、川崎は、あのおっさんは、ふ、富士山…富士山方面だ。く、詳しい場所まではし、知らない」
富士山方面。山梨側なら富士五湖方面だな。
俺はそのままマチェーテを振りぬいて、男の首を掻き切った。
俺は死体を押さえつけている膝に力を入れて立ち上がる。脇腹のケガの影響下、少しだけ力の入りが悪い。
周りを見ると、樽から漏れていたワインと、人間の血液が混じり合った赤紫色の液体が広がっている。
噎せ返るようなアルコールの匂いと、鼻を突く鉄錆の臭いが混じり合っている。そこに僅かにワインの芳醇な香りが漂っていて、気分が悪い。
俺は吐き気を催し始める前に、この場から離れるべきだな。
突然、銃声が響いた。俺が撃たれたわけではない、地上からの銃声だ。
マチェーテを鞘に納めて、目の前の階段を駆け上がりながら、肩に掛けていたショットガンを手に持つ。
地下から出てワイナリーの外へと出る。
2人の武装した男がカフェと思われる建物の入口から、外の暗闇に向かって銃を撃っているのが見える。装備はAK系統のライフル。
ワイナリーからカフェまで20メートルほど、バックショットなら十分射程圏内だ。
俺はその場でショットガンを構えて、1人に銃口を向けてトリガーを引く。
ドゥンという音と共にリコイルがもろに肩を押す。
弾き出されたバックショットが首にでも当たったのか、首を抑えようとしながら持っているAKを乱射し始めた。
明らかに練度が低い。酔っているからというだけではなさそうだ。
フォアエンドを引いて薬莢を排出し、押し戻して次弾を薬室に送り込む。
先ほどまで乱射していた男のAKを抑えて、様子を窺っているもう1人に照準を合わせ、トリガーを引く。
腕にバックショットのペレットが当たったのか、AKを取り落として肩を抑え込んだ。
シャキッと次弾を装填し、歩き出して近付きながら2人に向かって次弾を撃つ。
フォアエンドを引いて薬莢を排出し、ポケットからショットシェルを取り出して薬室に直接押し込んで、フォアエンドを押し戻し、力なく崩れ落ちている状態の男たちに向かって撃つ。
敵は動かなくなったが、フォアエンドを引いて排莢し、次弾を1発、2発と装填、銃口を向けながら歩いて近付いていく。
2人の男からは血が流れ出しており、血溜まりが広がっていくのが見えた。この出血量ではもう動けないだろう。
後ろからの足音、これは村雨さんか。
「大丈夫でしたか?」
俺は振り返りながら村雨さんに尋ねる。様子を見るに、どうやら無事だったようだ。
「助かりました。向井さん、そっちは何人ほど仕留めました?」
「そこで転がってる2人と、ワイナリーで5人です」
「私は4人です。生け捕りはできませんでした…」
「俺は1人尋問して川崎の行方を聞きました。情報の確度は微妙ですが、富士五湖方面のようです」
「わかりました。銃声を出してしまったので、感染者が寄ってくるかもしれません。ここを離れましょう」
村雨さんはそう言って、俺たちの装備が隠してある方へと向かって行った。
まあ、そう急がなくても感染者が走って来るわけでもないしな。少し物色していくか。
俺は目の前のカフェの入口で死んでいる2人の男を見る。持っているのはAK-74S、折り畳み式銃床が付いてるタイプのものだ。ただ、俺がショットガンを撃ち込みまくったせいか、奴らの乱射のせいか、どちらも機関部が壊れていてバネが飛び出してしまっている。
ただ、マガジンは無事だ。銃本体についてる弾倉は空だが、タクティカルリグに残っている方にはフルで装填された状態だ。ベークライト製の6L20のマガジンに7N6が30発きっちり詰まっている。計4本で120発の5.45㎜×39㎜弾が手に入った。
銃本体が使えないのが惜しいが…
そう思って周りを見渡していると、1台の車両が目に入った。型落ちの2トン平ボディトラックだ。
近付いていき、荷台を見る。大きめのライフルケースだ。ワイナリーの地下で殺した奴の装備だろうか。
不用心にもロックが掛かっていない。ケースを開けて中身を確認する。
短銃身のAKS74U。それと一緒にPBS-4も入っている、クリンコフ専用のサプレッサーだ。
さらに3つほど弾倉が入っており、6L23という黒いマガジンの中に入っている弾薬は弾頭の先っちょが黒と緑で塗られている。7U1という特殊な弾薬だ。サプレッサーと併用し、隠密作戦のために開発された物だが、弾頭は軽く、弾速は遅いという欠点の多い特殊なもの。それでも、銃声を極限まで小さくすることができる。感染者相手であれば十二分な性能を発揮できるだろう。
というかこれ、川崎の私物だな。急いで奥秩父の拠点から逃げ出した時、こっちに紛れたか。
俺はそのままライフルケースを閉じて、ケースを抱えて村雨さんの後を追うことにした。




