現実逃避の限界
考えたくない
通された部屋はやたら豪華だ。こう言うの見た覚えがある。そう、ベルサイユ宮殿とかのアレに似ている。つまり、落ち着かない。
まず天井が高い。あちらこちらに巨大な絵画に装飾品飾られ、今座っているソファにしてもやたら仰々しい。
「どっかの宮殿みたい」
「そうね」
どうもこの召喚は国がらみらしい。嫌な感じがする。
そこへ、メイドがワゴンを押してきた。年齢は私よりも上で、メイドの中でも上位の人かもしれない。その証拠に、動作に音が全くしない。
「失礼致します。お飲み物をお持ちしました」
ワゴン覆う布をサッと取ると、これまた金箔を施された豪奢なカップとポット。そして小さい複数の皿にお菓子らしき物が乗っている。
カップにお茶(おそらくそれに類する)が注がれた。香りは悪くないけど、紅茶や緑茶とも違う。それらにハーブを足した感じか。
注がれたカップに入ったお茶をスプーンで一杯ずつ掬うと、別の小さな皿に入れてメイドが飲む。その後で、カップが目の前に置かれた。
「毒は入っていないって事ね」
「あ、それでわざわざ」
「細かい作法がいろいろあると思うけど、私達はそもそも知らないのだから気にしないようにしましょう」
とりあえずお茶の味を確かめる。
「佳代さん、すごい」
「凄くないわよ。オタクなだけ」
口にしたお茶は微妙だった。やや渋いハーブティ? 舞ちゃんも微妙な感じだ。
仕方なく毒見で欠けたお菓子に手を伸ばす。思ったより硬くないが、クッキーよりパンに近い。
「あれ、甘くない」
舞ちゃんの小さな呟きに、メイドに動揺が走る。
この手の世界では甘味は高価で希少のはず。聖女が希望した物に対応する為にで奔走する事になるのだろうけど、私には関係ない。
「佳代さん、オタクなんですか?」
「筋金入りの方ね。漫画にアニメ、ラノベに至っては異世界転生、異世界召喚、悪役令嬢ものも熟読してるわ」
「あ、クラスにそういう子が居ました」
「そう、私はそっち系。息子はそっちに行ってくれなかったのがほんと残念」
パパもオタクなんだから素質は十分なのに何故にアイドル系に行ったのか、子育てはままならない。
「息子? 子供が居るの? 今何年生?」
「高一よ。去年は受験で大変だった」
「私と一緒です」
まさかの息子と同学年。
「え? 中学はどこ?」
「お父さんの転勤で高校から東京に来ました」
「ああ!」
同じ地域の同学年なのに見たこと無かった訳だ。
「あの、進学希望ですか?」
進路は悩む所だ。
「そうね。一応、舞ちゃんは?」
「私、特にやりたい事なくて、仲のいい子が専門学校に行くって言っていて、じゃあそこでいいかなって。でも、親は大学に行けって」
「ああ、成る程ね」
舞ちゃんは納得できてないみたい。
「特にやりたい事もないのに大学行っても、お金がかかだけだし。それなら専門学校でいいと思うのに」
「親御さんの気持ちは分かるわね。大卒だと、その後に資格を取りたい時のハードルが違うから」
「資格のハードル?」
「資格を取ろうとするとね、意外と制限があるのよ。その先で別にやりたい事ができた時にそれが届くようにしたいのが親ってものよ」
大学卒業しているというのは結構大きい。
「大学に行けって言うのは、そう言う事だったの?」
口下手の親御さんは多いし、近いからこそ行き違いが多くなる。
「世間体という人もいるけど、そう言いながら将来の先を広げたいと思っている人が多いって感じるわね」
ほんとPTAって面倒だったけど、いろいろ情報を聞けたので無駄でもなかった。
「舞ちゃん?」
「私、勘違いしていたかも。でも、奨学金も返済が大変みたいだし」
このぐらいの歳なら思い込む事もあるはず。無理はない。
「実際、悩むよね。返済も大変だし」
「はい。従姉妹がそれで大変そうで」
それは悩むわ。
「まぁいろいろあるわよ。このお茶は微妙だけど」
「はい。それには全面的に同意です」
不味くは無いけど美味しくない。
「現実逃避はこれぐらいにして、この先どうしましょうか」
「帰りたい」
「うん、私も帰りたい」
こう言うケースは目的達成とかしないと帰れないか、条件があって次の条件に合う日まで待つか、もしくは、いやその先は考えたく無い。
不安をなんとかやり過ごしていると、一際豪華で重そうなローブを着た人と先程声掛けて来た見た目のいい男の人も含めた総勢5名と兵士とメイドが入ってきた。
随分と待たされたて、何を言ってくるのか身構えると、その全員が頭を下げた。
「へ?」
舞ちゃんもびっくりして、私の腕に縋りついた。
「此度の召喚儀において、無理にお呼びだてして申し訳ない」
「そうですね。できれば今すぐ元の世界に帰してください」
頭を下げたまま動かない。
「帰りたい! 家に帰して!」
舞ちゃんが叫んだ。そうだ、この鬱積を溜め込む義理はない。
「家族も居るし、仕事もあるし洗濯物も干しっぱなしなのよ! すぐに帰して!」
「学校だって、遊びに行く約束もあるの!」
「明日もお弁当を用意しないといけないし、夕飯の用意もあるのよ」
「帰して!」
「今すぐに!」
誰も何も言わない。
「何故、今すぐ帰すって言わないの」
ポロポロと舞ちゃんが泣き出した。抑えていた不安が溢れたのだ。当たり前だ、こんな訳の分からない状況で高校生の女の子が不安にならない訳がない。私だって不安なのだから。
泣き崩れる舞ちゃんを抱きしめると、こっちも涙が出てくる。
もう、泣いていいよね。
この際、自分達が何をしでかしたのか、感情に訴えてやる。
舞ちゃんを抱きしめたまま、大声で泣いてやった。
考えないといけない




