鶏ガラスーププロジェクト
作業そのものは難しくはないけれど、とにかく大変
血抜きの後、処理された部位は肉と鶏ガラに綺麗に分かれていた。
肉は塩漬けにしてすでに数日寝かされている。
ある程度汚れを取った鶏ガラは、更によく洗わなくてはいけない。
だが、それには大量の水が必要になるが、この世界では水は貴重だ。
悩んでいると提案されたのは魔法で浄化する方法なのだけど、こんなのに魔法を使っていいの?
「そもそも、魔法って簡単に使えるモノなの?」
「使えるのは、その才がある者だけです。ですが、召喚の儀で魔力を使い切っていたので、しばらく枯渇しておりました」
何? その残念感。
「で、溜まった魔力でやる事が鶏ガラの浄化?」
「最重要案件が最優先されます」
何を言っているのか分からない。
だって鶏ガラ洗浄だよ。
いいのか?
……
うん。
ここは、考えるのをやめよう。
必要なのは鶏ガラスープだ。
三人の高位の魔法使いによって、鶏ガラの汚れが一掃された。
全体が一瞬光った後、すごく綺麗になった。
(これに魔法を使っていいのかは別問題)
一度湯がいて、アクをとり大鍋に入れてポワーロ(ネギっぽい)とジャンジー(生姜っぽい)と一緒に茹でる。
「沸騰すると濁るので、その直前を維持して下さい」
「はい。時間は如何程」
「ん〜、最低4時間。できればそれ以上で」
「はっ。畏まりました」
え? それだけ? いいの?
でも、鍋の前に仁王立ちしてやる気満々なので任せる。
地味な仕事だけど重要なのでよろしく。
さて、それよりもやるべき事がある
そう麺を作る!
事前に灰を茹でて、それを濾して置いておいた水で小麦粉をねり、しばらく休ませて伸ばし、薄い板状にすると料理長にガン見される。
視線と周囲の響めきはこのさい無視だ。無視!
何より、今は麺に集中しなくちゃいけない。
なんせ記憶を頼りに作っているから不安しかない。
迷いながら打ち粉をかけて折り畳み細く切る。
所々太くなって心許ないが一応麺だ。でも、茹でるまでは気を許してはいけない。
乾燥しないように、濡れた布をかけて鶏ガラスープを見に行くと、なかなかいい色が出ている。
香りもいいし、これはいけるかも。
もうしばらく煮込む間に塩漬けした鶏肉を焼いて塩チャーシューにする。
出汁は無い、醤油も無い。
だが、旨味は肉の焦げからも出ると、これまたよく見ていた番組『ボイル言語 十』で伝染説の家政婦のリクさんが言っていた。
手っ取り早く顆粒コンソメを使っていたけど、ここは焦げを使う。
なので、取り敢えず皮目からじっくり焼こう。
これにはもう一つ理由がある。やはり鶏皮はカリカリが好き!
香ばしく、かつ柔らかく仕上がる。
じっくりと焼き、ワビソウの塩キンピラをメンマの代わりにして、ポワーロをネギ代わりに刻む。
これでトッピングは整った。
そして満を辞して挑む。
「麺を茹でます」
「かしこまりました」
特注の大鍋に沸騰したお湯に麺を投入。
茹で時間は数分。
湯切りは風魔法で迅速に。
この日の為に用意した大きめのサラダボウルに、塩と干し肉で作ったタレ入れてそこに鶏ガラスープを注ぎ、茹でた麺に鳥ソテーにワビソウ、ポワーロを散らして完成だ。
見た目はラーメン!
いざ、実食!
箸を手にしたいただきます。
なぜこの時点で騒めく?
だが、面倒だから無視。
ツルツルとした麺は、太めで不揃いでも嬉しい。
「あ〜、鶏ガラスープだ」
「佳代さん、ラーメンです!」
「うん、ラーメンだ」
味は足りないし、具も違う。でも、ガラスープが身に沁みる。
久々のクリームとチーズ系以外の味。
心と体に沁みる。
ズズズと無心で麺を啜る。
「佳代様」
ハンナさんの声でハッとなった。
この音はまずいか。
「その道具は?」
「え? 箸の事?」
「はい。それは、どのような魔法でしょうか?」
「これ? ただの道具よ。コツがいるけど、誰でも使えるけど」
動揺が走る。でも、だって箸だし。
「ね、舞ちゃん」
「はい」
箸をカチカチして見せる。
おおおおお!
何この盛り上がり?
見よう見まねで箸を使おうとするが、持つのも難しそう。
現代日本でもちゃんと使える人は結構稀だし、初めて箸を目にして使うのは難しく当然だ。
「えーっと、これなら簡単に使えるかと」
試作のフォークを渡す。
「これは?」
「これだと食べやすいので、使ってみて」
料理長がフォークで麺を掬う。
「何だと!」
周囲がどよめく。
でも、フォークに麺が絡んでいるだけだ。
ゆっくり口に麺を運び食べた。
その目がカッと開く。
咀嚼し飲み込む。
「佳代様! これは神の食べ物ですか?」
料理長、ただのラーメンです。しかも、本来のラーメンの劣化版です。
そのラーメンを厨房のみんなが一斉に食べ始めた。
「!」
「!」
「!」
「!」
「!」
一瞬、動きを止めるが、今度は無言で貪り食べる。
「怖い」
「佳代さん、私達ヤバイものを作っちゃった?」
そうかもしれない。
食べ終わると、スープを見つめる物や生麺を引っ張り、弾力を確かめたり、小麦粉を捏ね始めたり。
みんなの目が怖い。
「とりあえず、食べちゃおう」
「そうですね」
鶏ガラスープはよく出来た。それでいい。
色々改良すべき点はあるが、久々の鶏ガラ味のラーメンはやはり美味しい。
「か、佳代様!」
「魔法局長? どうしました?」
何故いきなり跪く!
「はやはり貴方様が、異界から使わされたお方なのですね」
「はぁ?」
「なんで?」
舞ちゃん、もっと突っ込んで!
「まさか棒で食せるなど、まさに神のみ技」
「いや、舞ちゃんもできるから!」
「は? では、この状況は何故に?」
私に聞かないで欲しい。
調理長が無言でラーメンを差し出した。
「これは?」
「いいから食せ!」
威圧で無理やり従わせる。
それに負けて、恐る恐る麺を口にする。
「ん?」
「スープも飲め!」
言われるまま飲む。
「こ、これは! 何という味わいだ!」
「これが、鳥の骨で作られている」
「ま、まさか」
またこっちを見る。
「やはり選ばれたお方ですね!」
「何故そうなる?」
気が遠くなる。
と、肩をポンポンと叩かれた。
「舞ちゃん?」
「佳代さん、諦めた方がいいよ」
何で〜?
別方向で大変




