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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

大砂漠と太陽の化身

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競馬イベントの影響と止まり木の近況

「……最高速重視とスタミナ重視? 長距離移動用ですか?」
「そうそう、ウェントスみたいな! あのレース、もう最高だったよ! ああいう特性の馬なら、遠征にも便利かと思ってね」
「ありがとうございます。ランクはどの程度を考えておいでで?」
「駿馬になると値段って跳ね上がるよね?」
「ハインドさん、確か駿馬の相場って……」
「大体五、六倍になりますね。およそ五百万G前後からのご提供になります」
「うひゃあ……じゃあ、一般馬の中から選ぼうかな」
「では、こちらへどうぞ」

 TB内、止まり木の農業区にある厩舎傍。
 そこで俺はパストラルさんと訪ねてきたプレイヤーの応対をしていた。
 厩舎内に案内すると、ソロのプレイヤーが感嘆の声を上げる。

「おおー……買うだけなら取引掲示板でもいいんだけどさ、実際に見るとやっぱり違うね!」
「この前のイベントから、そう言ってくださる方も増えましたよ。ただの乗り物という認識ではなくなったのは、育てている側からしても嬉しいですね」

 引き換えに、したり顔で馬の品評をする人も増えた気がするが……。
 パストラルさんが作ってくれた取引・交渉用の掲示板で依頼があった時は、こうして入場許可を出して農場内に入ってもらっている。
 ここでも止まり木のメンバー選出同様、バウアーさんの選別眼が唸り、文面でのやり取りが無礼だったりした場合はその時点で弾かれるという流れだ。
 その甲斐あってか、今のところ技術盗用目的だったりPKだったりの変なプレイヤーには当たっていない。

「この辺りの馬が、ウェントスが親馬になった子たちですね。どうです? 能力的に似ている馬もいますので、ステータスも含めてじっくりご覧になってください」

 パストラルさんが説明しながら一般馬のエリアを示してみせる。
 興味津々で見て回るプレイヤーを、俺たちは静かに見守った。
 やがて運命の出会いがあったのか、その女性プレイヤーは一頭の馬の前で釘付けになり……。

「この子にする!」
「「ありがとうございます!」」

 成長の伸びしろが残っており、駿馬になれる可能性を残す馬が引き取られていった。
 価格は一般馬ということで、90万Gである。
 無料サービスの馬具をつけて、わざわざ遠方から買い付けに来てくれたプレイヤーと共に馬が去って行く……。

「……毎度のことなんですけど、この瞬間はいつも少し寂しいです」
「ええ、分かりますよ。どれだけ育てる馬が増えても、これは変わりませんよね」

 ゲーム上のデータに過ぎないと言われればそれまでだが、かけた手間と情は本物だ。
 だからこそ、なるべく大切に扱ってくれる人の下へと届けたい――。
 そんなことを口にした後、パストラルさんは照れたように頬を掻いて足元に視線を落とした。

「――とかって考え過ぎると、時間ばかりかかって全く儲からないんですけどね。今って、そうは訪れない稼ぎ時ですよね? 馬を飼育しているプレイヤーにとっては」
「サービス開始以降、最大の馬需要ですからね」

 馬を買ってくれたプレイヤーが農業区を出たのを確認してから、俺たちは区内を見ながら歩いた。
 相変わらず老人と子どもが入り混じる、微笑ましい光景をそこかしこで見ることが――。

「ドロップキーック!!」
「はい、キャッチ」
「うあー! お菓子のにーちゃんに捕まったー!」

 できるのだが、元気が有り余っている子も中にはいるようで。
 ドロップキックをかましてきた子の体を上手く止めると、俺はぐるりと一回転してからその場に下ろしてやる。
 最初の頃はそのまま普通に食らったりしていたが、もう慣れた。
 このまんま大きくなったような人間が近くにいる訳だし。

「す、すみませんハインドさん……ペスカ! めっ!」
「いいよいいよ、当たってもノーダメージだし。現実では絶対にやるんじゃないぞ? 後でさっき作ったシュークリームを持って行くから、大人しくしていてくれ」
「わーい! 大人しく待ってる!」

 去って行くその子の頭の上のレベルは、小一時間前よりも上がっている。
 戦闘帰りのようだが、それであの元気さか……ゲームとはいえ、子どもの体力ってのはどうなっているんだろうね?

「すっかり大人気ですよね、ハインドさん。ペスカも言っていたみたいに、お菓子のお兄さんとか呼ばれちゃってますけど」
「ゲームの菓子じゃ腹は膨れねえんだよぉ!」
「!?」
「――とか言っちゃう、すれた子がいなくて助かっていますよ」
「あ、ああ……そこはほら、幻想よりでし――こほん。最新式VRの力といいますか。味と満足感は間違いなくありますし」
「未だに不思議ですよ。これでログアウトすると、ちゃんと普段の食事には影響ないんですから」

 満足感はあっても満腹感に影響がないのは、過去にも触れたとおりだ。
 シュークリームと一緒に出すお茶を何にするか考えつつ、話しておくべき話題へと切り替える。

「ところで、どうなんですか? 今の止まり木の経営状態は」
「そうですね……弓の乙女――もとい、サイネリアさんとウェントスの馬券で沢山の資金を用意できました。更にはウェントスも親馬として何度もお借りしていますし、本当に感謝に堪えません」
「余裕ができたのか、ようやく止まり木のギルドホームも作り始めましたものね」

 彼女と同じように当然ながら、俺たちもウェントスとサイネリアちゃんの馬券を買っておいたので資金はかつてないほど潤沢……だった。
 過去形なのは、既にギルドホームの施設レベル上昇にある程度使ってしまったからだ。
 特に俺たちの生命線である、セレーネさんの城・鍛冶施設にはギリギリまで資金を投入しているのだが、まだ天辺は見えない。
 一体どれほどの資金を投じれば最高レベルに到達するのだろうか……。
 止まり木のギルドホームについては、この後すぐに目にすることになるので一旦思考の外へ置いておく。
 俺は頭の中を整理していると、パストラルさんが自分の派手な色の髪を少し触り、話す順番を探りながら再度口を開く。

「レースの当選金を使って施設を整え、現在は育てた馬を中心に取引している訳ですが……先程、大神官――ハインドさんが仰った通り、イベントの影響で育った馬は飛ぶように売れるので経営そのものは順調です。ただ……」
「ただ?」
「肝心の、渡り鳥・ヒナ鳥のみなさんへのサポート体制が今一つと言いますか……」
「あー……」

 そもそも馬の育成と販売に力を入れることを提案したのはこちらなので、気にする必要はない。
 とはいえ、今パストラルさんが欲しているのはそんな言葉ではないだろう。

「では、まずは食材に力を入れていただければ――と個人的には言いたいところなのですが」

 先程のやり取りを思い出したのか、パストラルさんが小さく笑う。
 料理バフや満腹度も大事なことに変わりはないが、TBにおける食材というものはある程度の品質まではNPCのショップで揃えることができる。

「ゲーム的には回復アイテムが最優先ですかね。こちらはNPCのショップ売りだけだと、対応できる範囲が狭すぎますんで。全体的に割高な上に、効果も今一つですし」
「やっぱりそうですよね。では、薬草栽培に力を入れつつ……」
「止まり木のギルドホームの完成を急ぎましょう。渡り鳥の調合室だけでは、生産数に限界がありますから」
「では、予定通り――」
「ええ。この後はみんなを集めて、ホーム建設の続きを行いましょう。そろそろユーミルたちもログインしてくるはずなんで」

 話が終わったところで、農業区にある倉庫用の小屋へと二人で入った。
 ギルドホームのない止まり木は、ここを簡易的なギルドホーム代わりにして活動を行っている。
 俺はインベントリに手を入れると、包装されたシュークリームとお茶のセットを取り出した。
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