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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

アニマルイベント、到来

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復路とお嬢様とこれから

 車外の景色が段々と見慣れたものへと移り変わっていく。

「マリーたちのおかげで、充実した休みになったよ。ありがとうな」

 それぞれを車から降ろす位置が近付いてきたこともあり、マリーに小さく頭を下げる。
 他の面子もそれに続き、マリーが笑顔で言葉を返す。

「いいえ、こちらこそですわ。今回はみなさん、行きと違ってきちんと起きていますのね」
「そりゃあ、森は涼しい、別荘は最高、ベッドはふかふかだったし……ねえ? わっち」
「風呂も温泉引いてるんだもんな。肌ツルツル」
「うむ、ツルツルだ!」
「食事も素晴らしかったですよ」
「そうだね。秋川さんにも大感謝だよ」

 今の体調は遊び疲れもあるが、恵まれた環境でたっぷり休んだことで体調は万全だ。
 そんな訳で帰りの車中は、マリーの要望通りにずっとトランプを続けている。
 しかし、その時間もやがて終わりが近付き……。
 マリーが寂しそうな顔で何かを考え込み始める。

「おい、ドリル。お前の番だぞ?」
「このまま別れては……何か、後に続くような……そうですわ!」
「うわっ、どうしたマリー!? 走行中に立つと危ないぞ!」

 急にカードを持ったまま立ち上がると、静さんを呼び寄せて何やら耳打ちを始める。
 状況に置いてけぼりの俺たちは、ただただそれを眺めることしかできない。
 マリーの話を聞き終えた静さんが顔を上げ、

「構いませんよ。私からもお願い申し上げたいくらいです」
「まあ! 静がこんなにあっさりと……やっぱり何だか憎たらしいですわ!」
「何で俺を睨む……?」

 何かのGOサインを出したかと思うと、睨むマリーがそのまま俺に向かって口を開く。
 片手を前に突き出す決めポーズ付きである。

「ワタル、わたくしの家で働きなさい!」
「「「――は?」」」

 俺たち全員が疑問の声を上げると、静さんが溜め息を吐いた。

「お嬢様、必要な段階を省略し過ぎです……」



 静さんの補足説明によると、要は臨時の使用人として俺を雇いたいということらしい。
 アルバイトの一種と捉えて問題ないとのことだが、使用人のバイトなんて聞いたことがないぞ……。

「師匠と一緒に働けるんですか!?」
「ええ、亘が了承すれば一緒に働けますわよ。亘が了承すれば!」
「司をダシに使ってゴリ押そうとするんじゃない」
「ええい、下がれ下がれ! 顔が近い!」
「……」

 マリーが物理的な距離も詰めながら、ぐいぐい押してくる。
 未祐と理世がそれを押し返してくれたところで、俺は座席に座り直して一呼吸。

「大体、俺はもうバイトをしているぞ? ひなたっていう喫茶店で」
「存じ上げております。ですので週に一日、そちらのアルバイトに干渉しないような日程で考えております」
「おー、そりゃあ緩々な……わっち、受けたらいいんじゃない? 時給も半端ないし好条件だよ、これ」

 静さんが書面に纏めてくれた条件を見ながら、秀平が無責任な発言をする。
 しかし、だからといって「はいやります」とは言えない面も多々あるだろう。

「使用人としての作法とか――」
「シズカ、ワタルのスキルで最も良かったものは何ですの?」
「全てハイレベルではありますが、特に清掃は素晴らしいですね。直接指導でないにも関わらず、司の清掃能力を一人前に育ててくださった実績もあります」
「ですって。作法など考えずに、屋敷の掃除をしてくださるだけでも構いませんのよ? ……最初の内は」
「ボソッと不穏な台詞が聞こえた気がしたが……あー、あとさ、俺を使用人にすると雇い主と労働者の関係になるけど、それは別にいいのか?」
「うっ」

 結局は、俺を窓口にしてまたみんなと遊びたいということなのだろうけれど……。
 別にそれは構わない。やはり遠方で連絡を取り合うだけよりは、直接顔を合わせた方が話しやすい。
 しかし今言ったように雇われれば屋敷内では敬語を使う必要もあるだろうし、気安い関係を保てるかどうかは疑問だ。
 マリーは苦し気な表情のまま、これまた苦しい発言で応じる。

「や、屋敷外や二人きりの時、この場にいるみんなの前では今まで通りというのはいかがですの……? 言葉遣いなども、これまで通りにすれば……」
「無理がないか? それ」
「使用人と主人が、二人きりの時は友達口調……? それって何だか、その……」
「?」
「「は?」」

 和紗さんが呟いた言葉を受け、マリーが首を傾げる一方、こちらを向いた未祐と理世の目が鋭く光る。
 やってもいないことで、どうして睨まれにゃならんのだ……?

「まあ、そういうのをマリーが気にしないんならありだと思うが。言葉遣いや立場が変わったところで、今までに築いた関係がなくなる訳じゃないしな」
「で、では、引き受けてくださるの!?」
「それは保留で」

 俺がそう答えると、期待に目を輝かせていたマリーはずっこけた。
 どうしたってこれは、軽々に答えることはできない案件だ。

「親に相談したり、バイト先に相談したり色々必要だろう? ただ……」
「ただ、何ですの?」
「前向きに検討させてもらうよ。もしそうなったら、屋敷の清掃員としてよろしく頼む」

 マリーの表情が寂しげなものから一転、華やいだ笑顔になった。
 それを見たせいか、不満そうな顔をしていた未祐や理世の表情も「仕方ないな」といった類のものへと変わる。
 それからのマリーは終始上機嫌で、最後に家まで送り届けられた俺たちが車を降りる時でも笑顔だった。



「しかし、ドリルの家でのバイトまでやったら体調を崩さないか? 大丈夫か? 亘」
「もう喫茶店のバイトも慣れたし、問題ないと思うが……まあ、きちんと母さんやマスターと話してから決めるよ」
「ご無理をなさらないでくださいね……あっ、でしたら兄さん。荷物の整理を終えたら、疲れが取れるように私がマッサージを――」

 そんな会話をしながら俺たち三人が玄関を開け、リビングのドアを開けると……。

「……ぉかえりぃー……」
「明乃さん!? どうしました!?」

 驚く未祐の視線の先で、母さんがソファの上でこれでもかといった具合に溶けていた。
 テレビ番組が垂れ流されているが、見ているのかどうか微妙な状態である。
 近付くと硫黄の匂いがして……ああ、なるほど。

「温泉で溜まっていた疲れが出たんだな、母さん……」
「あったりぃー。いやー、節々が痛いわね……」
「理世、マッサージは母さんにしてやってくれ。未祐は昼飯の準備を手伝ってくれよ」
「う、うむ」
「そうですね……明乃さん、まずは足を」
「うぇーい……あれ、理世ちゃん肌が以前にも増してすべすべになってる! どうして!?」

 ペタペタと理世の顔を触って喜ぶ母さんを横目に、俺は未祐と共にキッチンへと向かう。
 久しぶりに立つ我が家の台所で、俺はまず食材のチェックから始めることにした。
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