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ロシュ平原の探索

 ユーミルがカツカツとブーツの爪先を地面に打ち付ける。

 これは別に、何かに苛立っての行動ではない。

 単に地質を確かめるためのものだ。


「おお、情報通り本当に硬い! 岩盤に近い感触というか……」


 返ってくる音は言葉通り硬質で、でこぼこした表面は歩き辛い。

 よろけたリィズの体を支え、体勢を立て直してやる。


「あ、ありがとうございます。ここはどうしてこういう地形なのでしょう? 近くに火山なんてありましたか?」

「分からん。ゲーム世界だから、自然現象とも限らないしな……」

「魔法か!? 魔法なのか!?」

「だったらロマンがあるが……こんな大規模なマグマの魔法を撃てる現地人、いるのか?」

「む……」


 ユーミルが辺りを見回して押し黙る。

 平原というだけあって、見渡す限り同じような地形が続いている。

 地面から草木が生えているのを見るに、この地形が成立したのは遠い過去という設定だと思われるが……。


「もし魔法なのだとしたら、とても興味がありますわね……火魔法ですわよね? マグマって」

「イメージ的には火と土の複合ではござらんか?」

「だとしたら、プレイヤーは習得できない魔法かもしれませんね」


 ヘルシャの言葉にトビとワルターがそんな反応を返す。

 確かに、プレイヤーが習得できる魔法属性の組み合わせは固定である。

 しかし……。


「ここで推測を重ねてもしゃーない。このフィールドに関して知りたければ、最寄りの町か村で現地人に訊くしかないだろう? もしくは掲示板。誰か既に知っているかも」

「それもそうですわね。余裕がある時に調べることにいたしますわ」


 話を切り上げて、改めて手順を再確認する。

 まずはフィールド内に散って、レア個体を探すことから始めるのだが……。


「馬影が全く見えないな……こういう時は――」

「セッちゃんだな! セッちゃぁぁぁん!」

「は、はーい。ちょっと待ってね……あ、あそこ!」


 かなり遠いが、セレーネさんの示した方向には馬らしき姿が。

 俺たちは数頭の馬をその場に残し、急いでそちらへと近付いてみた。


「わっ、この硬い急斜面を……」

「すいすい登って行きますね、先輩」

「うん、脚質は明らかに砂漠の種とは違うよな。どうだい? サイネリアちゃん」

「はい! これならあの子たちの子孫は、もっと高みを目指るかもしれません!」


 その馬を追いかけていくと、馬の群れが存在していた。

 ざっと見たところ、その中にトビが言うような一目で分かる変わった個体はいないようだ。


「ハズレか……じゃあ、予定通り分散しよう」

「しかしハインド、グラドタークとヘルシャたちの馬しか使えないのは痛いな」

「仕方ないだろう。この平原に入った途端、あれだけ不安定な足取りをされたんじゃな……」


 砂漠産の俺たちの馬を入口に置いてきたのには理由がある。

 このフィールドに入った瞬間から、砂漠産の馬たちはどうにも足取りが不安定だった。

 ゲームなので転倒して足を折ったりといったことにはならないのだが、あのままでは速度が出ない。


「わたくしたちの馬はグラド産なので地形の変化に強いですが、それでもこの地質では足が鈍りますわね」

「グラドタークがいかに最強かということが浮き彫りになったでござるな。速いし馬力はあるし戦っても強いしで、オールラウンダー過ぎる」

「じゃあ、グラドタークの移動力を活かしながらレア個体を探そうか。ヘルシャたちの馬はその補助って感じで」

「了解だ! 見つけたら合図を出すからな!」


 ユーミルの言葉を契機に、女性陣が二つのチームに分かれて移動していく。

 一人ずつ分散しないのは、見つけたレア個体を引き止めておくためだ。

 発見したものを追いかけ続けるには群れが壁になることが多く、非常に難しいらしい。

 全員が揃うのを待ってから捕獲、という訳にはいかないそうだ。

 だから力配分を考えて女性陣が四人ずつの二チーム、男性陣が三人で一チーム……更にはこれを互いが見える範囲に位置しながら行う。

 離れ過ぎていると、チームメンバーで抑えきれなかった場合に助けに入るのが間に合わなくなる。


「トビ、ワルター。俺たちも行こう」

「はい。こちらは全員馬に乗れますし、広い範囲をカバーできそうですね」


 馬に乗り込んで準備をしていると、トビがこんなことを呟く。


「またハインド殿と二人乗りでござるかぁ……」

「PKギルドと戦った時以来か……嫌ならお前だけ徒歩な、徒歩。徒歩っていうか、走れ」

「えっ」


 俺だって後ろに乗せるなら野郎よりも女の子のほうが良い。

 こちらのチームは俺のグラドターク一頭とワルターが連れてきた馬がいるので、グラドタークに二人乗りすれば全員が馬に乗れる。


「ゲームなら馬よりも速く移動する忍者もいるだろ、多分。行ける行ける」

「無茶苦茶言うでござるな!? ……あ、そうだ。だったらこういうのはどうでござる? 拙者がワルター殿の馬をお借りして、ワルター殿がハインド殿の後ろに――というのは?」

「えっ!?」


 今度はワルターがトビと似たようなリアクションを取ってから、急に挙動不審になる。

 そしてもじもじした後、自分の馬から降りてトビに使用権を開放。


「よ、よろしくお願いします、師匠!」

「それは構わないけど、どうして顔を赤らめる……?」

「では、お借りするでござるよー」


 トビがさっさとワルターの馬に乗り込み、俺はワルターに手を貸しながら後ろに――


「軽っ! ワルター軽っ!」

「す、すみません!」

「いや、謝る意味は分からんが。乗る人間の体重を考えたらこれで良かったのかもな。トビ、馬の疲労を抑えられるスピードで探索しよう。あっちは徒歩のメンバーも多いしな」

「承知!」

「ユーミルたちとセレーネさんたちは……あ、準備できてるか」


 手振りでスタートしようと合図を送る。

 女性陣のチーム分けはユーミル、リィズ、ヘルシャにカームさんが一チーム。

 もう片方がヒナ鳥とセレーネさんで一チームだ。ユーミル所有のもう一頭のグラドタークは、こちらのチームに貸してもらっている。

 そんな訳で、俺たちはチームごとに横並びになって探索を開始した。

 俺の体に手を回すワルターの腕は、引き締まってはいたが武道を修めている割には細い。


「ところでワルターって、視力はどんなもんだ?」

「あ、ええと、両方とも2以上ですよ」

「じゃあ、よく見てもしも大きな馬がいたら言ってくれ。俺は他の二チームの様子も見ながらになるから、見落としが出るかもしれん」

「はい、分かりました! 精一杯探します!」


 このフィールドは高レベル帯だが、幸いにも足の速いモンスターはいないので徒歩でも振り切れる。

 あまりに探索が長引くようなら、馬の配置を変えて順番に徒歩になるように変えていかないとな。

 と、そこで少し離れた位置でレア個体の姿を探していたトビが戻ってくる。


「おお、ワルター殿、気合十分。しかし、ハインド殿は大変でござるなぁ。探索だけでなく、他のメンバーの状態まで気を遣う必要があるとは」

「聞こえていたのか、今の会話。放っておくと心配で仕方ないからな……特にユーミルは」

「まあ、台風の目のような御人でござるし。昔から」

「あ、あはは……」


 そのおよそ三十分後。

 果たしてそんな会話をしたのが不味かったのか、真っ先にレア個体を発見したのはユーミルたちのチーム。

 慌てて俺たちも合流するも、事態は既に進行中で……。


「ぬおぉぉぉぉ! お助けぇぇぇ!」


 そこにあったのは、引っかけたロープを持ったまま馬に引き摺られるユーミルの姿だった。

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