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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

集団戦と夏休みの開始

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第一回戦・大将戦 後編

 その呼びかけに対して、俺がどうするべきか考えていると……。
 弦月さんが目で合図を送ってくる。
 ――引き受ける気があるなら、君も一緒に来てくれと言っているようだった。
 弦月さんやや後ろには、サブマスであるアルクスさんとフクダンチョーさん、それからエイミーさん、アーロンさんら幹部格が揃っている。

「行くぞ、ハインド!」
「お前の性格上、訊くまでもないとは思うんだが――」
「無論、受ける!」
「やっぱり……」

 そんな訳で、両チーム静止状態の緊張状態のまま俺たちは接近し……。
 これ、試合を見ている人たちにとっては酷く奇妙な光景だと思う。
 まずは笑みを浮かべた弦月さんが口を開く。

「久しぶり、二人とも。二人なら受けてくれるだろうと思っていたよ」
「こんな面白そうな話、私が受けない訳がないだろう! 勝負だ、弦月!」
「――すまんね、ハインド。ウチの弦さんが」
「いえいえ、むしろ渡りに船というか。ウチのギルマスも、弦月さんと勝負がしたいと言っていましたんで」

 焚きつけたのは俺だが、余計なことは言うまい。
 ただ、もう試合は始まっているので悠長に話をしている時間はない。
 ゲームに定められていない行為をしようというのだから、さっさと決まりごとを作って戦闘を再開しなければならないだろう。
 こういう時に話が早そうなのは、アルクスさん・アーロンさんら男性の幹部プレイヤーだろう。

「では、有利不利が出ないように二人は野戦ゾーンの中央で戦ってもらいましょう。どちらかの陣地寄りだと、それだけでスコアに差がついてしまいますし」
「そうだな。そこからの押し合いに関しては、二人の戦いの結果に過ぎないから……それで問題ないだろう」
「邪魔にならないように、二人には縦関係では中央でも、左右って意味では隅によってもらおうか? 当然、二人の決闘を終わるのなんて待っていられないっしょ?」

 予想に違わず、話はスムーズに進んでいく。
 しかし、最後のアルクスさんの意見に対してはユーミルが酷く不満そうな顔をしたので……。

「ギルマス同士の決闘がステージ隅なんてのは締まらないんで、ドーンとど真ん中で戦ってもらいましょう。折角ですし、見ている人も多いですから」
「くっはっはっはっはっは! そりゃいい! あえての真ん中か!」
「まあ、基本的に二人には手を出さないってことで問題ないとは思うけど――」

 大笑いするアーロンさんに続くアルクスさんの言葉に、俺は頷いた。
 そして互いのギルマスに向かって言い放つ。

「「流れ弾だけはどうしようもないんで、きちんと自分たちで避けるように」」

 その言葉に弦月さんは頷きつつの苦笑を返し、ユーミルは心配するな! と何故か自信満々だった。



 そして戦いが仕切り直される。
 ゲーム的には戦闘が始めったしまっているので自然回復分のMPは仕方ないが、こちら側のメンバーは誰もMPチャージを行っていない。
 条件はほとんど同じだ。
 静まり返った野戦ゾーンで、緊張感が高まっていく。
 同時に駆け出し、弦月さんが放った矢をユーミルが躱して踏み込んだ直後――

「進めぇーっ!」
「行くぞ!」

 両陣営が同時に動き出した。
 こちらは作戦通りに、ユーミルを残して矢の射程から遠ざかっていく。

「先輩先輩、あちらさんが約束を破ってユーミルさんを攻撃したらどうするんです?」

 移動しながらシエスタちゃんが意地の悪い笑みを浮かべて訊いてくる。
 前に会った感じと話した感じで信用はしているが、そうだな……。

「ユーミルがリスポーンしてきたら、そのまま普通に戦えばいい話だろう?」
「総指揮官じゃありませんもんね。逆にあちらはどうなんでしょう?」
「弦月さんは今時珍しいくらいに高潔な人だけど、総指揮官のまま戦うと言えば周囲が止めるだろう。だからまあ、サブマスの誰かが総指揮官だと思うよ。フクダンチョーさん以外で」

 そのフクダンチョーさんはというと、体に不釣り合いな大弓を持ってドタバタとこちらを追いかけて来る。
 その無防備な姿に、セレーネさんの一撃が真横を掠め――フクダンチョーさんは分かり易く青い顔をした。
 彼女は時折、その異常な運によって敵部隊長や指揮官などに危険な矢を飛ばすそうなので、ああやって定期的に牽制を入れるよう事前にセレーネさんに頼んでおいた。
 拙者にだけ直撃しそうで超怖い! とはトビの――

「うひゃあっ!? 何、今の何!? 拙者の股の間を何かが抜けていったんだけど!?」
「あれ? 私の矢、どこに飛んで行きました? エイミーさん、知りません?」
「何で自分の矢の行方が分かんないのよ、ワン公!? お願いだからFFだけはしないでよね!」

 ……トビの談である。
 体を張って証明しろとは誰も言っていない。
 フクダンチョーさんは職業的にはセレーネさんと同じ、単発型シングルタイプである。
 当然、軽戦士のトビにその矢が命中すれば大惨事だ。

「……なるほど、あれは違いますねー」
「だろう? しかし、他のサブギルマスの位置取りは完璧だな……あれじゃあセレーネさんでも狙えない」

 射線の通らない位置で、アルテミスの幹部たちはじりじりと全体を押し上げていく。
 俺たちは手筈通りに砦内まで退却すると、砦を利用して防衛戦を行った。
 それに伴い、アルテミスもほどほどの位置で静止して様子を窺う。
 砦内で弓術士が不利なのは周知の事実なので、前衛型フォワードタイプの弓術士たちが何人か門に向かって攻める素振りを見せるのみだ。
 もちろん、実際に砦内に侵入してくるようなことはしない。
 弓術士のみの編成の勝ちパターンは、このように野戦ゾーンで中央より前の位置をキープし続けるといったものだ。
 相手との距離を詰めすぎたり砦内に侵入すると、継戦能力のなさもあって大抵は弓術士単編成は崩壊する。
 このままの状況が続くと、ポイント差でこちらが負けるということになるが……。

「弓術士隊、そのまま上から応戦を! 魔導士隊は集合!」

 睨み合いの状態を利用して、砦内部で状況を整える、配置を最適化する。
 そしてMPがフルに近付いた状態で……。

「リィズ、いいな?」
「はい」
「神官部隊も、魔導士へのMP供給はおこたりなく! 有効な攻撃魔法を撃てるものは援護を!」
「はいはいー」
「任せなさい! さあ、反撃開始よ!」

 リィズ、シエスタちゃん、ティオ殿下の返事を聞き――俺たちは一斉に飛び出した。
 例の壁を自分たちで破壊し、囮となる前衛部隊と少数の神官部隊がアルテミスの側面へ。
 それと同時に、正門から俺たち本体が魔法攻撃を放つと同時に前へ。
 アルテミスはプレイヤーのみの50人部隊、対してこちらは100人近い部隊だ。
 数を活かして多方向から攻める、攻める!

「があっ!」
「ぐっ!」
「あいたー」

 結果、矢は分散したもののそこはアルテミスだ。
 距離を取りながらも的確に飛来する矢が、こちらのHPを確実に奪っていく。
 シエスタちゃんは腕に、俺も肩に一発の流れ矢を受けた。
 ダメージからしてどちらも前衛型フォワードタイプ連射型ラピッドタイプの通常攻撃だろう。支障はない。

「――怯むなっ! 敵を中央まで押し込め、砦から遠ざけろっ! リスポーンしたら即座に中央部隊に合流、一気に押し込めっ!」

 中級までの消費MPを抑えた魔法が次々と放たれ、アルテミスがどんどん下がっていく。
 倒せた数はこちらの方が少ないが……おっと、ユーミルと弦月さんが戦っているのが見えた。
 ということは、もう少しでこちらの優勢となるか。
 肝となるのはMP管理……敵を倒す必要はない。
 敵が近付けないだけの魔法攻撃を途切れなく放ち続け、押し込む。
 それにはMP供給を行う神官部隊、魔導士全員のMP管理とWTの管理を行うリィズの処理能力、そして致命傷を避けつつ味方を守る前衛部隊の働きが重要となる。
 高レート帯の遠距離戦はこういうケースになることが多く、如何に相手を倒すかよりも、如何に優位な状況を築くかによって勝負が決する。
 簡単に撃破されるような迂闊な距離には飛び込んできてくれない。
 俺は進行方向の少し先に『エリアヒール』を設置し、そこに向けて味方を誘導していく。

「――このまま押し込まれるな、ここが勝負の際だ! 全軍、スキル投入! もう一度砦まで押し込めば俺たちの勝ちだぁっ! 気合を入れろっ! 敵の防御を叩き割れ!」

 どうやら敵方の総指揮官はアルクスさんのようだ。
 砦から出てきた弓術士部隊を加え、俺たちはじりじりとアルテミスを押していく。
 野戦ゾーン、こちらから見て三合目、四合目辺りでの押し合いが始まった。
 倒れていく兵士たち、それを必死に回復しながら決壊寸前の前衛部隊を盾に距離を詰める。

「まだ、もう少し……っ! みんなを、みんなを戦える距離まで運べるのは私たちだけですよ! ファイトー!」
「「「おおーっ!!」」」

 リコリスちゃんの激励もあり、止まることなく我慢の前進が続き……。
 数え切れないほどの矢に晒され、ボロボロのHPになった前衛防御隊が一斉に左右に割れる。

「――ハインドさんっ!」
「撃てぇーっ!!」

 リィズの声を聞き、俺は迷わず杖を振り上げつつ声を張った。魔法の有効射程圏内だ!
 堪えに堪えた、魔導士・神官部隊による大魔法の一斉攻撃が放たれる。
 アルテミスから放たれる多数の矢のエフェクトの何倍も派手な火・水・風・土・光と闇が野戦ゾーンの空を覆う。
 矢と魔法の交換により、両陣営の兵士――特にアルテミス側がこちらよりも多く地に伏した。
 それを見たアルテミスは……。

「――っ! 一時退却、退却だ!」

 最後の攻撃に望みを賭けて、彼らはこちらから見て七合目付近まで一気に距離を取った。
 その後も続く魔法攻撃はアルテミスの一部のプレイヤーを飲み込みながら、その多くは射程限界や地面に当たったことで消失していった。
 鮮やかな引き際だ……取り返しのつかないダメージを負う前に退いたか。
 俺はそれを確認すると、間髪入れずに前衛攻撃部隊に追撃の指令を出す。
 油断はできないが、これでこちらの勝ちはほぼ決まりだろう。

「――ははっ! やるね、さすが勇者ちゃんだっ! いつまでも戦っていたいくらいに楽しいよっ!」
「当たり前だっ! 弦月こそ、ハインドが褒めるだけのことはあるっ! 俄然燃えてきたぁぁぁっ!!」

 が、こちらの勝負はまだまだ決しそうもない。
 結局、最後までユーミルと弦月さんの勝負がつくことはなかった。
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