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中堅戦と大将戦に向けて

「ハインドッ!」


 戻ってきたルージュさんがハイタッチを求めてきたので、俺はそれに応じる。

 パチンと良い音が鳴り、ルージュさんはそのままユーミルたちともハイタッチを交わしていく。

 そして戻ってくると、ギルドメンバーと一緒に嬉しそうに話しかけてくる。


「ナイス予想! ドンピシャだったね!」

「あいつら、またかよ! とか序盤から、もう無理! とか叫んでいたぜ。情けねえ」

「予選でも俺らに負けてんだから、対策してねえ方が悪いよな?」

「それはどうでしょうね? 彼ら、バランスを捨てて自分たちの強みを押し付ける編成でしたから」


 特化型のスタイルだと、ある程度諦めたり妥協したりしなければならない場合も出てくる。

 まずはフットワークで敵の攻撃をいなしつつ、更に遠距離で足を鈍らせる。

 相手が疲弊したところで、本格的な攻勢に移る――というのが、事前に映像を見た際の森の住人の戦法だった。

 多くの慎重な相手やバランス型の相手なら、安定して自分たちのペースを作ることができたことだろう。

 が、ああやって想定以上の突進力で真っ直ぐ詰め寄られると脆い。

 彼らは自分たちの弱点潰すよりも、それらの長所をより磨く方向で調整してきたのだろう。

 つまりは、ゴリゴリの近接物理集団であるイグニスに当たったのが運の尽きと。


「そういやあたしらも、予選で魔法編成にあっさり負けましたよね! おかしら!」

「何を嬉しそうに語っているんだい……分かっちゃいたけど、私らを先鋒に置いてくれたあんたのおかげだ。相性ゲーってやつだものね」


 森の住人は遠距離多めといっても、エルフということで弓術士の方が圧倒的に多いのだ。

 あれで魔導士が多ければ、まだ互角に戦えていたことだろう。

 魔法ならば、闇魔法を始め相手を鈍足化させる手段が豊富である。


「ですね。彼ら、あれでも精一杯ノックバックやヒットストップの大きいスキルを撃っていましたよ。重戦士が多過ぎるもんだから、止められませんでしたけど」


 重戦士には一発分のスーパーアーマーがある。

 最も人数が多かったであろう弓術士・連射型ラピッドタイプはスタート時のMPでは『アローレイン』を撃てないので、消費の低い『ダブルショット』、もしくは『トリプルショット』あたりをしっかり命中させなければならない。

 誰も彼もが、セレーネさんのように遠距離で高い命中率をキープできる訳ではない。


「お疲れさまでした、ルージュさん」

「リィズちゃん……!」


 手を彷徨さまよわせながら、ちょっと危ない笑顔になるルージュさん。

 リィズはその気配を察した瞬間、スッと後ろの下がった。

 女性にしては大柄なルージュさんは、小さな女の子を殊更ことさらに――過剰なまでに可愛がる傾向にある。

 そのため、ヒナ鳥組は最初から離れた位置でこちらをうかがっているという状況だ。

 残念そうな表情になるルージュさんに、ユーミルが一言。


「かしらは相変わらずだな! 良いではないか、大きくても! 大は小を兼ねるのだぞ!」

「ああ、そ――待ちな、ユーミル。一瞬頷きそうになったけど、人間には当て嵌まらないだろう!? その理論!」

「む?」

「大体、小さい方が可愛いんだから、そっちの方が良いに決まっているじゃないか!」

「そうとは限らん! かしらを可愛いと言ってくれる人も、きっとどこかにいるはずだ! 諦めるな! 私はかしらも可愛いと思うぞ!」

「ありがとうねぇ! でも、何か段々と論点がずれてるでしょうが!? そんな話はしてないし、別に諦めちゃいねえわよ!」

「あー、二人とも。そろそろ次戦が始まるからその辺で」


 俺の言葉に、二人だけでなくその場の全員が一斉に会議室の壁に投影された映像に注目した。

 それを見ながら、セレーネさんが小声で話しかけてくる。


「ハインド君、次戦はどうなると読んでいるの?」

「俺の予想通りの対戦カードになるのであれば、次は――」


 ルストの三ギルドの内、最も強いのは誰が見ても分かるレベルでアルテミスである。

 どうしたって大将に置きたくなるのが人情だ。

 先鋒に置いてペースを作ってもらったり、万が一のために次鋒に置いて三戦目に繋げる、というのもあり得たが、映像内にアルテミスの姿はない。

 やはり、中堅には安定感のあるルスト国内2位のギルド……この「ノーチェ」が配置されるという予想が的中した。


「こうなりますね。どちらもプレイヤー三十人弱、職業も偏っていないバランス編成同士の対戦と」

「ハインド殿、またも正解でござるな。しかし先程の戦いとは違って、何とも静かな立ち上がりで……」

「ゆっくりと互いの距離が近付いていくな。本格的な衝突はまだ先か」

「高レート帯の戦いで序盤から総崩れなんて、そうそうないものね。さっきの戦いが異常なだけで」


 双方の前衛部隊が盾を構えてじりじりと前進。

 魔導士・弓術士の遠距離攻撃のダメージを神官部隊が回復しながら、距離が詰まっていく。

 動き出したのは……ほぼ全てのプレイヤーのMPがフルに限りなく近づいた瞬間だった。

 互いに計ったかのように、同時に魔導士部隊による魔法詠唱が始まる。

 それに対する弓矢による詠唱妨害、神官部隊による魔導士への魔力補助と続き……。


「――ぶつかった!」


 そう口にしたのはユーミルだ。

 激しいエフェクトが奔り、盾を持った騎士たちが必死に魔法を防御する。

 距離が更に縮まり、盾の間から次々とアタッカーの前衛部隊が突撃していく。

 溜まったMPを投入しながらの、激しい戦いの形勢は――。


「ちょっとカクタケアさんが押されていますね!」

「リコリスちゃん!!」

「あ、ルージュさん……待ってください、ハグは嫌です! 窒息しちゃう! ひゃああああ!」

「どこに行くのさ、リコー……駄目だこりゃ。先輩、先輩はこの試合どう見ます? 劣勢みたいですけど」

「確か予選でこの対戦カードは、動画で公開されていませんでしたよね? 先鋒戦もそうでしたけど。スピーナさんはどうやって勝ったと仰っていましたか?」


 ルージュさんに追いかけられていくリコリスちゃんを横目に、シエスタちゃんとサイネリアちゃんがこちらに近付いてきた。

 俺が問いかけに答える前に、映像内に変化が訪れる。


『お前らぁ、そんなんで女王様に顔向けできんのか!? しっかりしろぉ! 二度も同じ相手の前で、同じことを言わせるんじゃないってのぉ!』

『砂漠のフクロウたちよ、奮起せよ! 我らの戦い、女王様が見守っていてくださるぞ!』


 ほとんど同時に、二人のリーダーから士気を鼓舞する言葉が大音声で発せられる。

 劣勢をトリガーにミレス団長の特殊スキルが発動し、サーラ現地人兵士の攻撃力・魔力が上昇。

 そしてスピーナさんの言葉を聞いた、カクタケアのプレイヤーたちの動きが明らかに変わった。


「うおっ、急に押し始めた!?」

「女王様の名前を聞いただけでこの効果……何ともお手軽な人たちですね」

「まあ、分かり易くはあるわな……。スピーナさんの言葉通り、前回もこうやって勝ったそうだよ?」


 ユーミル、リィズに続いた俺の言葉に、二人は分かったような分からないような顔で頷いた。


「あはははは! あいつら馬鹿だねえ!」

「ええ、全くもって馬鹿っすね」

「女王馬鹿っすね」

「「「…………」」」


 リコリスちゃんをかかえて話すルージュさんの言葉と、それに同意するイグニスの面々。

 それを見た俺たちは何とも言えない表情になった。

 先程はカクタケアが彼女たちを蛮族呼ばわりしていたので、お互い様である。

 やがて女王馬鹿たちはノーチェを砦付近にまで押し込むと、その場で回復や隊列整理などを行いながら前進を停止した。

 場合によっては砦に無理に侵入しようとして被害を受けるよりも、こうして野戦中央付近より前の位置で待機することが大事だ。

 そのまま突入して勝負を決めるには、押し込むまでに倒した敵の数がやや少ない。

 そういう意味では、ノーチェ側が鮮やかな引き際だったと言える。


「あとは相手の最後の攻撃をしのげば勝ちでござるな。油断はできぬでござるが」

「ノーチェもかなり強いからな。念のため、あの壁だけは――あ、壊したな」


 敵の反攻の勢いが強い時は、あの壁に数人を走らせるだけで相手の戦力を分散させることができる。

 そして最後の攻防、ルストの勝利を信じて全身全霊の反撃を行ったノーチェに対し……。

 カクタケアは野戦ゾーン中央付近で踏み止まり、判定勝ちという結果を得た。


「おおー! これで我々サーラの勝ちが――あれっ? 私たち、この状態で戦うのか?」


 ユーミルが拳を突き上げた格好のままで固まる。気付いてしまったか。

 そうなんだよな……。

 こうなってしまうと、こちらにとっては国家の勝ちが決まった状態での三戦目。

 アルテミスにとっては国家の敗北が決まった状態での戦い。

 いわば消化試合なので、気分的にはとても微妙であると言えよう。

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