本戦トーナメント・第一戦開始
トーナメント本戦は一国三ギルド、それぞれが各一戦ずつを行う。
二勝した側の勝ちとなるが、どちらかが二戦目までに二勝した場合でも必ず三戦目が行われる。
最終成績に応じて個別に報酬が授与されるため、国という大枠での敗北が決まっても試合が続くという訳だ。
先鋒、中堅、大将の順で試合が行われ、成績順ということもなく組み換えは自由である。
「んで、どうするのさぁ? ハインドぉ」
「私らは何番目でもいいよ? 好きな順番にしてくんな。戦闘は勝手にやらせてもらうけどね」
「いやいや。スピーナさんもルージュさんも、何で俺に訊くんですか」
国別のミーティングタイムは、対戦前に各十分ほど設けられているそうだ。
巨大な石造りの会議室のような場所に三ギルド全員が押し込められ、時間が来ればここから順番にいつもの砦ステージへと転移させられる。
予選第4位『サーラ王国』の代表ギルドは予選1位・カクタケア、2位・渡り鳥・ヒナ鳥同盟、3位・イグニスという構成だ。
カクタケアは今更思い出すまでもなく女王様大好きな戦闘系ギルド、イグニスは鮮やかなオレンジ髪の女傑・ルージュさん率いるラフな格好をした荒くれ者風のプレイヤーが集う戦闘系……と、どちらも戦闘系なのは当たり前か。
どちらかといえば総合ギルドである俺たちが浮いている形だ。
全体での情報交換が終わったので、後は出場する順番を決めるだけとなっている。
二人のギルドマスターを前に、俺はユーミルの付き添いで来ていたのだが……そこであんな言葉を投げられた訳だ。
「みんなで相談して決めましょうよ」
「だって、ハインドに訊くのが一番かと思ってさぁ。勇者ちゃんもそんな顔してるし」
「うむ!」
「うむ! じゃねえよ……」
ルージュさんも黙って親指を立ててくるだけだし……駄目だこりゃあ。
両ギルドともここまで残っているのだから、戦闘になれば頭を使ってくれるのだろうけど。
じゃあ、そうだな……。
「幸いなことに、それぞれ知り合いのギルドなり予選で一度当たったギルドなりがルストの三ギルドに選ばれています。俺たちは未戦闘ですけど、お二人のギルドは予選で勝利済みということで――」
ルスト側の順番を予想して、それぞれがなるべく知っている相手に当たるように配置してみた。
全くの無策だったり運に任せるよりは、こちらの方が多少は勝率が上がるだろう。
すなわち……。
「あいよ。私らイグニスが先鋒で――」
「俺らカクタケアのAチームが中堅かぁ。で――」
「私たち渡り鳥・ヒナ鳥同盟が大将だな!」
「と、いう形で。予想が外れたら申し訳ありませんが、これでよろしくお願いします」
ルージュさんが言ったように、それぞれの戦い方にまで口を出す気はない。
相手国の出場順を予想しつつ、こちらの順番を適当に決めたら解散。
各ギルドで固まって雑談していると、やがて字幕が流れ……。
間もなくトーナメントが開始されることが知らされた。
「よっしゃ! 行ってくるよ!」
「頑張れぇー、おかしらぁ」
「ちょっと、スピーナ……」
「「「行きましょう、おかしら!」」」
「だれがかしらだ!? ギルマスって呼びな!」
「「「へい、ギルマスッ!!」」」
そして第一戦、サーラの戦闘系ギルド・イグニスが出陣。
次々と会議室から転移していく。
それを見送った直後、リィズが俺の袖を引く。
「……いつも思うのですが、あの方たちは賊か何かなのですか?」
「いいや。荒っぽいのは口調とか雰囲気だけで、マナーは滅茶苦茶いいぞ」
「前から疑問だったのでござるが、あれもロールプレイなのでござろうか?」
「偶に素の口調が出ると、丁寧語だしな。そういう面も多少はあるかもしれん。賊っていうか、ある種の一族みたいに統一感があって、あれはあれでいいと個人的には思う」
イグニス――つまり「火」という名前が示す通りオレンジや赤毛のプレイヤーが多く、そうでないギルド員たちもそれに近い色の装備なり装飾品を必ず身に着けている。
共通のフェイスペイントやボディペイントなどもあり、それが更に一族っぽさを強調している。
ちなみに、同じように火に拘りのあるヘルシャによると……。
「わたくしが抱く、火に対するイメージとは少し違いますわね……」
だそうだ。
もっとも、サーラという国にはイグニスのようなギルドの方が合っているかもしれない。
どことなく、この砂漠の一族にいてもおかしくなさそうな馴染み具合である。
「さぁ、そろそろ始まるぜぃ。渡り鳥とヒナ鳥ちゃんたち」
スピーナさんの声に大型の中継映像を見ると……。
配置が終わり、開戦のカウントダウンが始まるところだった。
戦意を滾らせたイグニスのメンバー号が、雄叫びを上げながら門から一斉に出る。
相手はルスト王国所属「森の住人」というギルドだ。
名前から察しが付くプレイヤーもいるだろう、全員がエルフ耳を装着したエルフ統一ギルドだ。
俺は何故か、その中の何人かの顔に見覚えがあるような気がした。
「ハインドさん。前にハインドさんが、ルストでエルフ耳をオーダーメイドした時のお客さんが……」
「あ、それでか。懐かしいな」
リィズが言うのであれば間違いないだろう。
そんな森の住人たちであったが、エルフという種族のイメージか宿命か、軽戦士や弓術士・魔導士が多かった。
野戦ゾーンでイグニスたち重戦士・武闘家多めの構成に肉薄されると、崩壊。
HPの高さと武闘家の自己回復を合わせた、思い切りの良い初動突破作戦だ。
『どるぁぁぁ!』
『た、たすけっ』
『踏み潰せぇぇぇっ!』
『あぁぁぁぁっ!』
映像内では片陣営からの一方的な怒号と、これまた片陣営のみからの悲痛な叫びが鳴り響いている。
ああ、そうか……相性が良いんだな、イグニス側からすると。
相手はどちらかというと遠距離主体で、搦め手を使いながら相手を追い詰めていくスタイルだ。
決勝まで残っているのだから、弱い訳はないのだ。決して。
しかし序盤からああもゴリゴリと来られると、よほど上手くいなせない限りはこうなってしまう。
森の住人サイドからすると、相性最悪な訳だ。
「……ハインド、前から薄々感じていたんだけどさぁ。これってあれじゃない? 蛮族ってやつ」
「ば、蛮族……ですかね?」
「蛮族でしょ」
「蛮族っすね」
「蛮族にしか見えない」
「どこからどう見ても蛮族だ」
「……」
スピーナさんの言葉を皮切りに、次々とカクタケアの面々から同意見が飛び交う。
ちなみにイグニスのギルドメンバーが持っている武器は鉄球、鉄の棒、フィリアちゃんなどが装備しているものよりも刀身が肉厚で武骨な斧、棘付きのガントレットなどなど……。
こんな武器ばかりでありながら、男女比が半々というのがこのギルドの恐ろしさである。
そんな訳で、蛮族対神秘の一族――もとい、イグニス対森の住人の初戦は、相性の良さを活かしたイグニスの圧勝に終わった。
もしカクタケアや俺たちが初戦に出場していたら、こう上手くは行かなかっただろう。