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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
最善の一振りと最高の一枚を求めて
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北国の双翼

 城郭都市内の様相は、イベント時と大きく違っていた。

 あれだけいた大勢のプレイヤーの姿はなく、恐らくこれが本来の状態なのだろうが……壁が原因でやや薄暗い街並みは、寒さも相まって寂寥とした雰囲気が漂っている。

 俺たちは壁に沿って、まずは町の外側寄りをぐるりと回ることにした。


「人でごった返していた門の前も、いなくなって改めて見ればこんなに広かったのだな」

「だなあ。プレイヤーだけでなく、現地人の数も町から減っているらしいから」

「そうなのか?」

「元々この城郭都市、周囲のケルサ山から降りて来る魔物を防ぐため“だけ”に作られたそうだから。地理的に他国とも接していないし、スタンピードが終わったら駐留していた兵士も数を減らす訳だ」

「なるほど。では、今もその辺りを歩いている兵士は……」

「治安維持に必要な、最低限の人数だけってこと。元から任務に就いている衛兵の類だな」


 寒さのせいか退屈な任務のせいか分からないが、警邏の兵士はやる気がなさそうにダラダラと歩いている。

 城郭都市の街中はそんな有り様なので、特に何かが起こるということもなく……。

 一応メインストリートなども通過してみたが、いかんせん活気がない。

 変わったことといえば、スタンピードの撃退記念に小さな祭りが開かれていたこと、そこで住人のおばあちゃんとその孫に感謝されたことくらいか。心が和んだ。

 事態が収まるまでは、一時的に首都に避難していたらしい。

 そんな具合に、一通り城郭都市内を見て回った俺とユーミルは首都に移動を開始した。


「ふぃー、寒い……ハインドは大丈夫か?」

「なんとか。今夜は運動量が低いからな……トビによると、首都グラキエースにある中央政府のトップは女性らしいぞ」

「なんと! ――って、私たちのサーラもトップは女ではないか。他の国にはいないのだったか?」


 現在は『スカー平野』を徒歩で南下中だ。

 その途上で首都に関して、ユーミルに知っている限りの……というよりも、トビから俺が聞いた情報を伝えている。


「男の王が二人、女王が一人、確か南のマールの国家元首が男で、今いる北の国家元首が女と、分布的には男三の女二だな。で、ベリ連邦の軍部のトップは、その議長の兄らしい。権限的には妹のほうが上らしいけど、実質的にベリ連邦は兄妹でツートップだな」

「ほう……兄妹で国の中枢を担うとは、驚きだ。それにしてもあの忍者、最近急に勉強勉強と言い出したかと思えば、しっかりゲームもやっていたのだな」

「そりゃもう、イベント後も一人で毎日インしていたそうだからな。本人曰く、みんながいない時は短時間プレイらしいけど。改善傾向にあるとはいえ、人の根っこはそう簡単に変わらんようだ」

「頭でも打ったのかと案じていたのだが、それを聞いて安心した! いつも通りだな!」

「本人が聞いたら泣くぞ……まあ、無理がたたって今夜はインしていない訳だが」


 ここのところ慣れない勉強に力を入れていたためか、スタミナのペース配分に失敗したらしい。

 風邪をひいたので、学校も休んで自宅で療養中だ。

 大した症状ではないそうなので、近日中に快復することだろう。


「ふむ、早く治るといいがな。しかし、トビの情報はいつも偏っているな……どうせその兄妹とやら――」

「冷たい雰囲気の美貌を持っているってよ、どっちも。トビの目当ては妹のほうだな、多分」

「どっちもなのか……」

「銀髪に蒼い目、抜けるような白い肌の美形だとか」

「銀髪が私と被っている!」

「安心しろ、逆に言うと銀髪以外被ってないから。あっちの銀髪、アイスブルーみたいな色らしいし」


 ユーミルの銀髪よりも、薄く青みがかっている感じと予想している。

 どちらもあの議事堂……中央議会が行われている時に会える可能性があるらしい。


「会えるかどうか分からないから、あまり期待しないでおこう。とりあえず議事堂に突撃、その後で例の靴屋だな。それでも時間が余ったら、街を見て回る感じで」

「うむ、突撃だぁ!」

「足元に気を付けろよ。すぐ傍に小さな亀裂があるからな」


 俺たちはモンスターとの戦闘を避けながら、そのまま無事に首都へと到着した。




 議事堂の外観も内観も、この国に相応しい「氷の宮殿」とでも言えばいいのか……実際にはガラスに似た建材らしいのだが、それはとても美しいものだった。

 階段を昇り降りすると、澄んだ効果音がシャランシャランと鳴り響く仕掛けがあって非常に幻想的。

 この透明感、好きな人には堪らないんじゃないだろうか?

 サーラの金メインの煌びやかな装飾とは、また違った方向性の高級感だ。

 しかしそんな議事堂内部は、この北国とは思えないほどの熱気に包まれていた。

 一般プレイヤーが侵入可能なエリアギリギリに、みっちりと人が集まっている。

 男女比はおよそ半々、目的はきっと俺たちと同じだろう。


「これは当たりを引いたかな……? この人たちも、多分ベリ連邦のプレイヤーじゃないし」

「自分たちのホームに帰る前に、他国の首脳陣を一目見ておきたいということなのだろう。余りにも人が多過ぎて、前が全然見えないがな! このままではその二人が現れても、目にすることなく通り過ぎてしまうぞ!」

「参ったな……トビに、もし見かけたらスクショを頼むって言われていたんだよ。当人は何日も粘ったのに、運悪く会えなかったらしくって。でも、これじゃあ他のプレイヤーの壁で撮れやしないぞ」


 プレイヤーをスクリーンショットに収める場合、相手の同意が必要なのだ。

 同意を取り付けていないプレイヤーが撮影範囲内に入っていた場合、機能がロックされてシャッターを切ることができない。

 周囲のプレイヤー全員の同意を取り付けるなんて不可能だしな……第一、今の俺たちは覆面状態で怪しさ満点なので尚更だ。

 あの大会議室の扉付近を、プレイヤーに邪魔されずに撮る方法は何かないだろうか?

 近くに高い場所や階段もないし、非常に難しいな。

 ユーミルと一緒に辺りをキョロキョロと見回しながら、解決策を探して頭を捻る。


「ふーむ……そうだな……あ!! ハインド、ハインド! ならば、扉が開いたら私の前で屈め!」

「何で? ああ、俺を踏み台にでもするのか?」

「そんな感じだ!」

「それでズーム機能を使えば他のプレイヤーをフレームアウトできるか……? まあ、やってみよう。撮影は頼んだからな」

「任せろ!」


 意見がまとまってすぐに、会議室の扉が衛兵によって開かれる。

 それにより前列のプレイヤーたちが前に出そうになるが、見えない壁によって阻まれた。

 そして俺は集団から少し離れた床の上で小さく丸まり、ユーミルの踏み台に。


「ブーツはちゃんと外せよ? 踏まれると痛いから」

「ハインド、違う違う。むう、とりあえずそのままの体勢で構わないか。よっと」

「……なんでそんなところに座ったんだよ? 高さが足りないどころか、普通に立つよりも下がってるじゃねえか」

「そのまま私の足を持って起き上がるのだ! 肩車だ!」

「はい!?」

「ハインド、急げ! 二人が行ってしまうぞ!」

「ちょ――だああああっ!!」


 俺はユーミルの足を慌てて掴み、全身に力を込める。

 幸いにも重たい鎧などの装備は外してから乗ったようだが、変な体勢から立ち上がったせいで俺は大いにふらついた。


「おおー、これが二メートル超えの視界か! 気持ちいい!」

「やめろ、あんまり足を動かすな! 暴れるな! ――早く撮れぇぇぇ!」


 最終的にピンボケやドアップのスクショが多数、まともなものは数枚という結果に落ち着いたものの……どうにか撮影には成功したので、それでよしとしておこう。

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