挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

最善の一振りと最高の一枚を求めて

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

236/328

ベリ連邦での再始動

 前回のイベントが終わってからの俺たちは、再始動がとても緩やかだったと言っていい。
 というより、久しぶりにログインした今日などはメンバーがたったの二人だ。
 場所はイベント終了時と同じ、城郭都市の北にある酒場『カエルラ』の店内。
 今夜も揚げ物の良い香りが、俺たちの食欲を刺激してくる。

「それにしてもこの感じ、久しぶりだ! 私は嬉しいぞ、ハインド!」
「そうだな。まあ、二人でできることなんてたかが知れているけど」

 ユーミルは剣を研ぎながら、言葉通りに上機嫌だ。
 時々二人で早目にログインして駄弁っていることもあるが、最初から最後まで二人というのは久しぶりである。
 サービス開始当初と、闘技大会の予選時くらいだろうか?
 座っている場所は、人数と混み具合の関係から今夜はカウンター席である。

「次のイベント予告などはないのか? 今から、その準備をしておけばいいと思うのだが」
「そういうのはまだ何もないな。これまで通りの順番なら、次は非戦闘系……つまり生産系イベントのはずだけど」
「むう……生産系ならホームに戻るべきだろうが、みんなを置いて移動を始めるというのもな」
「今までがそうだってだけで、次も絶対に生産系だとも言い切れないしな。無難なところで言うと、イベントで手に入れたコイツを使って鉱石採取が妥当か……ベリ連邦は鉱石が豊富って話だし」

 そう言いながら、俺は防衛イベントの報酬『不壊ふえのツルハシ』を取り出した。
 虹色の不思議な光沢を放つツルハシが、照明の灯りを鈍く反射させる。
 ツルハシというから武骨なイメージを持っていたのだが、実際のこれは工芸品のように美しい。
 それこそ、ギルドホームの目立つ場所に飾っても映えそうなほどに。

「それなら、山に向かうか? 鉱石採取でも、私は一向に構わないが」
「俺もいいんだけど、本当は今夜セレーネさんも来るはずだったんだよ。急にレポートのミスに気付いたとかで、来られなくなったけど」
「セッちゃんがうっかりミスとは珍しい」
「もう少ししたら学業のほうは落ち着くって言ってたから、それまでは仕方ないな。で、セレーネさんなら、どの山にどんな鉱石があるか把握しているはずなんだよ」
「他国のベリでもか?」
「他国のベリ連邦でも、だ。俺は彼女ほど鉱石に詳しくないから、効率良く採取ポイントを回れないと思うんだよな……。という訳で、今夜は何か別のことをしないか? 鉱石採取はセレーネさんがいる時にしよう」
「むむむ……」

 ユーミルが頭を捻り始めたので、俺も少し頭を使って考えてみる。
 戦闘はもちろん二人では不利であるし、レベルキャップも解放されていないので経験値が無駄になって微妙だ。
 生産機能がギルドホームに集約されているから、遠征先でできることって思いのほか限られているな。
 他に考えられることは……。

「――防衛イベント前の行動に近いけれど、ベリの現地人との交流とか? 折角、普段は来ない場所にいるんだし」
「おお! それだ、ハインド! ついでに観光もしよう! 私は首都の議事堂が気になるぞ!」
「お、確かに観光も兼ねるのは良いな。交流も含めて、あんまりゲーム的な成果を期待できる行動じゃないが……」
「しかし、そんな効率ばかり追ってもつまらないだろう? 前回のイベントのように、現地人にヒントをもらえることもあるのだしな! 今日は二人でフラフラと、大いに無駄な行動をしようではないか!」
「最初から無駄って決めつけるのはどうかと思うが……そうだな。じゃあ、行動範囲は今夜中にここに戻ってこれる程度にしよう。遠くまで行き過ぎると、みんなとの合流が大変だ」
「うむ!」

 となると、移動可能な町はここ『城郭都市スクートゥム』と『首都グラキエース』の二つくらいか。
 まず俺たちは城郭都市内部で、あちこちを回ってみることに――する前に。
 椅子から立ち上がったユーミルを引き止め、俺はインベントリに手を入れた。

「ユーミル、ちょっと待った」
「何だ?」
「まだこの店でやっておくことがある。……ご店主、実はこんなものを拾ったのですが」
「あ? ――こ、これは!」

 俺は『マレウスの短剣』という、ボロボロの武器をカウンターの向こうに立つ店主へと渡した。
 これは氷竜の傷に突き刺さったままになっていた物である。

「ハインド、いつの間に!」
「モンスターと一緒に消えるかと思ったら、意外にもそのままだったからさ。普通のドロップ品と違ってオートで入手でもなかったんで、隙を見て回収しておいた」
「あれだけの敵の群れが迫る中でか……抜け目のないやつめ!」
「これは間違いねえ……ヤツにディンの野郎が突き立てた……ってことは、アンタら」
「うむ! 私たちはアイスドラゴンを倒したぞ!」

 ユーミルの勝利宣言に、周囲の現地人も「おおっ」と声を漏らす。
 他にはヒナ鳥PT・ラプソディPT・アルテミスPTの計3パーティも倒しているが、短剣を始めゲーム側でそれがどういう扱いになっているのかは分からない。
 ヒナ鳥たちによると、短剣は傷に刺さっていたが落ちなかったとのことで、現地人に話を聞いたプレイヤーがパーティにいることが条件の可能性もある。
 ともあれ、このボロボロの短剣の使い道には困っていたところだ。
 もし彼がこのまま受け取ってくれるなら、それはそれで構わないと思っている。

「そうか……倒したのか、ヤツを……なあ、アンタ」
「何です?」
「少し、使いを頼めないだろうか? この短剣を……この酒と一緒に、首都のテナークスって靴屋に届けてほしいんだ。もしやってくれるなら、報酬もきちんと払う」
「靴屋……それって、もしかして?」

 俺の問い返しに、古ぼけた酒をカウンターに置いた店主は静かに頷いた。
 確か、この短剣を氷竜に刺したのは靴屋の主人だと話していたはず。
 持ち主に返してほしいということか。

「ハインド、これは都合がいいのではないか?」
「ああ、そうだな」

 どちらにせよ、今夜の内に首都には足を運ぶつもりだった。
 ついでにこなせてしまいそうな用事だし、無目的で向かうよりもずっといい。
 二人で頷き合い、店主へと向き直る。

「そのご依頼、お受けいたします」
「そうか……すまない、町を守った恩人に使い走りなんてさせてしまって」
「まあ、町を守ったのは俺たちだけじゃなく大量の来訪者も一緒なんで。お気になさらず」
「そうだ、気にするな! では、早速首都に――」

 ユーミルが再び足を踏み出しかけたところで、視線を彷徨わせてカウンターに座り直す。
 どうしたのだろう? ユーミルの視線の流れから言って……ああ、そうか。

「ご店主、出る前に少し食べていきます。串カツの盛り合わせをください」
「――私にもだ! 店主、揚げ立てをくれぃ!」
「ああ、大盛りで用意する。少し待ってな」

 どうやら満腹度が減っていたようだ。
 ゲーム内では空腹感がなく分かりづらいので、まめにチェックするように俺がユーミルに言っておいたんだった。
 前回のログアウト前は100%近かったはずだが、次のログインまで間が空き過ぎると緩やかに減少を始める。
 最低値は30%で、ログアウト時にそれよりも低い値の場合はそのまま変化しないが……俺たちの現在の満腹度は、およそ50%ほどだった。
 こんな仕様なのでログアウト直前の食事は賢い選択ではないのだが、前回のような打ち上げなどの時は別だ。

「よく気が付いたな、ユーミル」
「段々と出発前に確認するのが癖になってきたからな! それにしてもハインド、今夜は自分で料理をしないのか?」
「ああ、一昨日の文化祭の疲労がな……今日なんて家事とバイトで一杯一杯だったから、TB内では楽しようと思って。ここの串カツ、美味くなったし」
「ハインドの作る揚げ物にそっくりなのは――」
「俺が教えたからだろうけど、恐るべき再現性だよな。TBのこういうところはすげえよ、正直」

 しばらくして出された揚げ立て大盛りの串カツを食べ切り、俺とユーミルは代金を支払って酒場を後にした。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ