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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

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靴屋のディン

「ふむ、ではこの写真を順番に並べて……」
「ドアップから引きにかけて、連続撮影したこれを? それで?」
「トビ待望の妹のほう――と見せかけて、最後に兄の写真を置くっ!」
「こらこら、やめてやれよ。そんな真似をされたら血の涙を流して悲しむぞ、あいつ」
「怖いな!? まあ、冗談だ。まともに撮れたものを二、三枚渡せばいいだろう? 面倒だから、ハインドが送ってくれ」
「いいぞ。データはもう受け取ってあるから、後でやっておく。……じゃあ、そろそろ行くか?」
「ああ、依頼を済ませよう!」

 議事堂を出た俺たちは、人の通らない道の端でまずは写真整理を行った。
 その後で例の短剣を氷竜に突き刺した「ディンさん」という人物に会うため、靴屋を探して街を歩くことに。
 酒場の店主によると、店は商業区の一等地に建っているそうだが……。
 しばらくして見つけ出した店の前で、俺たちは呆気に取られて立ち止まっていた。

「これ……か?」
「全然イメージと違うな! 元傭兵だと聞いていたから、もっと武骨な店を想像していたのだが」
「俺もそうだよ。予想に反して、随分と洒落た店構えだなぁ……」

 イメージでは実用的な靴やら何やらを売っていると勝手に思い込んでいたのだが、どうやらそれは間違いだったらしい。
 思っていたような職人の店ではなく、さながら高級ブティックのような店構えである。

「ここで突っ立っていても仕方ない! とりあえず入るぞ、ハインド!」
「ああ。まずは目当てのディンさんがいるかどうかだな」

 この規模では、店員だって雇っているだろうし本人が必ず店にいるとは限らない。
 俺たちはコートのフードを外しながら、店のドアを開いた。
 入店するなり、すかさず寄ってきた若い女性店員に事情を告げてディンさんを呼んでもらう。
 店員はいきなり店主を呼んでくれという話に戸惑っていたが、一応話だけは通してくれるとのこと。
 心配していた他のプレイヤーの姿もないし、後はディンさんの登場を待つだけだな。

「で、ユーミルは何をしてんの?」
「ハインド、このハイヒールを見ろ! ゴリゴリに宝石まみれだぞ!? 実用性が闇の彼方だ!」

 それは見た目を追及した結果であって、実用性は二の次だと思うんだが……。
 ユーミルは暇を持て余したのか、店内の商品の物色を始めた。
 言葉通りに宝石がふんだんにあしらわれたゴージャスなハイヒールが、ケースの中で輝きを放っている。

「お前、そういうの好きだっけ?」
「いや、全然? こんな足が痛くなりそうな靴、誰が履くか!」
「あー、そっか……そういや普段から私服の時はスニーカーばっかだったな、お前さんは。やっぱり楽なほうがいいの?」
「その通り! 歩き難い靴は極力履きたくないぞ!」

 そういや理世や母さんも、お洒落のために我慢して履いているだけなんて話をしていたな。
 ただしハイヒールなどでも、品質の良い靴なら安定していて足が痛くなりにくいんだとか。
 そういう靴が前提のファッションも多いし、女性は大変だな……ああ、ヒールといえば。

「将来、スーツを着なきゃいけない時とかはどうすんだ? レディースって、大抵足元はヒールの付いたパンプスだよな?」
「私だって女だ、服装に合った靴はちゃんと我慢して履くぞ? ただ、普段から好んで履く気はないというだけの話だ! ……ま、まあ、お前がこういう靴が好きだというのなら、履く機会を増やしても――」
「見た目と履きやすさ……即ちデザインと機能性の両方が備わっているのが理想だがね。それが中々に難しい。靴職人が目指すべき高みってやつだな」
「「――!」」

 不意に割り込んできた声に、俺とユーミルは驚いて振り返った。
 そこにいたのは、エプロンを着けて陽気に笑う初老の男性だった。
 基本の表情も容姿も全然違うのに、不思議とあの酒場『カエルラ』の店主に似た雰囲気を感じるな……。
 俺とユーミルは、ディンさんに連れられて店の奥へと通された。

 革や薬品の匂いが漂う作業場で、温かいミルクを差し出される。
 あれだけ立派な店でも、作っているのはディンさんを含めて数人なんだな……。
 ありがたくミルクを受け取って口を付けてから、俺たちはディンさんに事の次第を全て話した。
 ボロボロの短剣を手にしたディンさんは、目を閉じて深く――深く嘆息した。

「ありがとうな。これでスタンピードの被害も、今後は大きく抑えられるだろうよ」
「ディンの親父さんは、竜に剣を刺せるだけあって現役時代は強かったのか?」
「そりゃあもう、バリバリよぉ! ――ってのは冗談で、味方が目一杯足止めしている隙にガッとな。愛用の短剣を抜く暇もなく弾き飛ばされたのは、計算外だったが」
「隙を突いて大怪我を負わせたって事実だけでも、かなりの凄腕じゃないですか。あんなのに正面から一人で立ち向かえる人間なんて……人間なんて……あー……」
「ハインド?」
「いや、悪い。気にしないでくれ」

 途中まで言いかけたところで、アルベルトの姿が脳裏をよぎる。
 あの人、最初に氷竜に遭遇した時に一人で足止めしていたよな? それも正面から。
 ……ま、まあ彼のことは置いておこう。

「ともかく、そんな経緯でカエルラの店主からお酒を預かってきました」
「そうか……この酒を一緒に寄越したってことは、あいつ――トニの野郎は、約束を憶えていたんだな。自分たちの手じゃ、果たせなかった約束だが……。ところであいつの店、今はどうなってる?」
「最近になって繁盛しているぞ! ここからそう遠くないのだし、行ってみたらどうだ?」
「不器用で無愛想なあいつの店が繁盛ねえ……だが、そうだな。その時まで、この酒はお預けだな」

 そう言って、ディンさんは古酒を掲げて嬉しそうに笑った。
 釣られて俺とユーミルも笑顔になる。
 彼は続けて俺たちに、こんな話を切り出す。

「俺のほうからも何か礼をやりたいんだが……金って感じでもないよな? 何か別の――おっ!」

 短剣を見て、急に彼は何かを思いついたように羊皮紙とペンを取った。
 それを見守っていると、情報を書き上げた彼はその紙を俺に手渡してくる。
 えーと……地名と、マップ……かな? これは。
 疑問に思っていると、ディンさんが人差し指を立てて説明してくれる。

「やっぱり来訪者ってのは強くてなんぼだろう? 俺の勝手なイメージだが。ってな訳で、その短剣の製作者・マレウスの居場所の情報なんて、どうだ?」
「おお、良いではないかハインド! セッちゃんが大喜びしそうな情報だ!」

 確かに、何か鍛冶に関して伝授してくれそうな雰囲気だよな。
 その短剣も土属性をたっぷり帯びていると店主が言っていたし、属性関連だと嬉しいところ。

「マレウスという方は、国が誇る名匠だと聞いていましたが。もしかして、その居場所の情報……」
「ああ。隠居しているから、知ってる人間は極少数なんだ。手紙も持たせるし、俺の紹介だって言えば会うのに不都合はないだろうが……念のため、この短剣も持っていけば確実だ。返さなくていいから、持っていってくれ」
「……宜しいのですか? ようやく戻ってきた、大事な剣なのでは?」

 俺の言葉にディンさんは、短剣をそっと布の上に載せてくるんだ。
 その包みを優しく持つと、頭を振りつつこちらに差し出してきた。

「この短剣に思うところがないではないが……過去は過去。むしろ、そのまま持って行ってくれた方がさっぱりするってもんよ。良い思い出も苦い思い出も、全部ひっくるめてな」
「……ありがとうございます。では、遠慮なく」
「ありがとう!」
「いいや、こちらこそだ。色々とありがとうな」

 そう言ったディンさんの顔は、柔らかく晴れやかな表情だった。
 俺とユーミルはその後ディンさんと一言二言交わすと、マップと短剣を手に店を出た。
 サーラに帰る前に、ベリ連邦内で寄るところができたな。
 後でセレーネさんにこの件について、メールをしておこう。
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