シルバーアクセサリーとお悩み相談
俺達が選んだのは、シルバーアクセサリーのショップだった。
お嬢様は何にでも合うようなシンプルな物が好みということで、安っぽくなりにくいシルバーということに決定。
レディース向けのシルバー専門アクセサリーショップに電話したところ、今から来店して直ぐに作れるという返答を得ることができた。
現在は店に向かって移動中だ。
「シルバーアクセっていっても色んな種類があるけど」
「そうですねえ……リング、ネックレス、ペンダント、ブレスレット、アンクレット、イヤリング……師匠だったらどうしますか?」
「俺か? そうだなあ……これは私見だけど」
「はい」
「指輪、イヤリングだと贈り物としてちょっと重い感じがするな。その二つは特に、何かしらの特別な意味を込めて贈る場合が多いし。ただ、深く考えすぎると全部NGになるから、相手が今一番欲しがってる物を贈ればいいんじゃないかと思う」
「お嬢様が一番欲しがっていそうなアクセサリー……ですか」
司が可愛らしく頬に手を当てて考え込む。
何か、いちいち仕草が女子っぽいんだよな……カマっぽいのとはまた違って、しつこいようだが見た目は完全に女子。
今後、こいつが成長して男らしくなる日はくるのだろうか? 俺にはちょっと想像できない。
「実はお嬢様、最近になってパーティ用のドレスを一着ご新調なさったのですが……」
「ほうほう。それで?」
「お手持ちのネックレスやペンダントではしっくりこないとお嘆きに」
「いいんじゃないか? その二つのどちらかで。ちなみにドレスはどんな奴なんだ?」
「燃えるような赤いドレスです。華やかなお嬢様のご容姿には、これまた良くお似合いになられまして」
「ほ、ほう……」
赤いドレスと聞いて一瞬ドキッとしたのも仕方ないと思う。
とても既視感のある話だ……だがあれはゲーム内、現実の話とは関係ない。
赤いドレスを最近になって「現実でも」購入したのは単なる偶然だろう。
「となると、シンプルでも赤いドレスに負けないようにそれなりの存在感は必要だな。引き立たせるためのワンポイントとはいえ、埋没してしまっては意味がないし」
「わあ……師匠と一緒に居ると、何でも上手くいくような気がしてきます。とても心強いです」
「……そりゃ気のせいだ。俺の言葉は話半分にしておいてくれ。それよりも、具体的に合わせる服装があるんだから店に着いたら店員さんにきちんと相談するといい。あっちはプロなんだから」
そんなにキラキラした瞳で見上げないで欲しい。
こちとらそれっぽいことを言って、段取りをつけただけだぞ……?
手作りの指導をしてくれた女性店員さんはとても丁寧で、相談から作業、完成までスムーズに事が運んだ。
ただ突っ立って見ているのもなんなので、俺も司より安いプランを頼んで作業には参加した。
「岸上様、とてもご器用でいらっしゃいますねぇ」
「さすが師匠です!」
「……ししょう?」
「いや、その、ははは……気にしないでください……」
やっぱり人前で師匠はないって……もう諦めてるけど。
司が作ったのは炎をイメージしたトップのついたペンダント。
炎っていうと男が身に着けるようなイメージなんだが「お嬢様にはぴったりです!」とのことなので、ここは司を信じることにしよう。
荒々しい感じではなく、女性が着けても変でない丸みを帯びたデザインである。
シルバーに使われている素材は混ぜ物を極力使わない、金属アレルギーに考慮した優しい設計だそうな。
細かな仕上げや磨きは店員さんがやってくれて、完成まで掛かった時間は約150分ほど。
プレゼント用ということで、綺麗に包装してもらったものを持って店を出た。
「師匠、今日はありがとうございました! お嬢様に喜んで頂けるかは分かりませんが……おかげさまで、自分なりに納得のいくプレゼントにすることができました」
「そりゃよかったな」
「はい! それで師匠、出来合いの品で申し訳ないのですが……」
そう言って司はポケットの中からチェーンの付いた何かを取り出した。
何時の間にやら店の品を一つ購入していたようだ。
お嬢様のプレゼントを慎重な動作で小脇に抱え、両手で俺に渡してくる。
「今日のお礼です。ぜひ受け取ってください」
「っと、いいのか? ありがたくもらうけど……これもペンダントか。丸リングがシンプルでいいな、サンキュー。んじゃ、お返し」
そう言って俺も司の後ろに回り、ペンダントをサッと取り付けた。
ちょっと強引にいかないと、遠慮して受け取り拒否されそうだったからな……もたつかずに上手く装着させることに成功。
俺が渡したもののトップには、先程加工した鳥をモチーフにした飾りがぶら下がっている。
お礼のお返しってのも変だが、何だかんだで今日は俺も楽しかったのでペンダントを交換だ。
互いに指輪やブレスレットを選ばなかったのは、手に何かつけていると家事や仕事の邪魔になるのが分かっているからだろうな。
「し、師匠?」
「返品は一切受け付けておりません。まあ、いいじゃねえの。初めて一緒に遊んだ記念ということで、礼とかなんとか堅苦しく考えるな。また何かあったら気軽に呼んでくれ」
「師匠は、もしかしてボクのことを友人として扱ってくれているのですか……?」
「ん? 当たり前だろ?」
何を言っているんだこいつは?
屋敷で扱き使われ過ぎて奴隷根性でも染みついているのか……?
休日に誕生日プレゼント選びに付き合わされる人間が、友人じゃなかったら何だというのか。
しかし、呆気に取られた表情の司の目には涙が溜まっていき……。
「あ゛り゛がどうござい゛ま゛ずじじょう゛ー!!」
「だああ、抱きつくな! 何だよ急に!」
「だっで……だっでぇぇぇ!」
何なんだこいつは!? もしかして友達いないの!?
「失礼しました……取り乱しました……」
「それはいいからわけを話せ、わけを」
会った直後に続き、とても通行人の視線が痛かった。
司の話によると、要は同性の友人ができないことが悩みだということである。
休日に友人と出掛ける場合は、女子とスイーツ店巡りをしたりウィンドウショッピングをしたり……。
「それってまさか、特段モテているってわけじゃなくて……」
「はい。異性として見られていないだけかと……」
ずーん、という効果音が合いそうな暗い顔になる司。
そうやって女子と買い物に行ってるから着てる服が女子っぽいのか……なんだそりゃ。
対して男子からは一緒に居るとなんか緊張する、新世界の扉が見えそう等々の理由で避けられているらしい。
傍から見ている分には喜劇だが、本人のとっては深刻な悩みだそうで。
「……そうだなあ、司よ。その悩みに関して、俺から言えることは――」
「はい……」
「無いな! 残念ながら!」
「ええっ!?」
目を丸くする司だが、だってしょうがないじゃないか。
服装くらいはアドバイスできるが、それで急に中身が変わるわけではないし。
「俺にできそうなのは、こうやって偶に遊び相手になるくらいなもんだ。それに、別に容姿が可愛らしい男が居ても良いんじゃないかな。お前自身はどうなんだ? 無理してでも変わりたいと思ってる?」
「ボクは……ボクは、お母さんそっくりな自分の姿を嫌いになんてなれません……」
「じゃあ、あまり悩むな。自然体でいいよ。焦らなくてもその内、分かってくれるやつも増えるさ」
「師匠……」
司が再び目に涙を浮かべながら俺を見上げてくる。泣き虫なやつだな。
しかしなんというか、こういう空気は苦手なんだよな……。
俺が頭をポリポリと掻いていると、すぐ傍の道路に黒塗りの高級車が横付けされた。
不審に思っていると、中からガタイのいいスーツ姿の男が五人ほど出てきて俺達を取り囲む。
……え? 何?