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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

複合型レイドイベント

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邸宅へのいざない

「……俺達に何か御用ですか?」

 こわっ……ヤの付く方々だろうか?
 何にせよ人違いの可能性が高いので、俺は震えそうになる声を振り絞ってどうにか訊ねた。
 しかしその男達は何も答えず、こちらの進路を妨害し続けている。
 そんな中、司が俺の服の袖を引っ張って一言。

「あのう……師匠、この人達ウチのSPです」
「SP? ということは――」
わたくしに黙って、随分と楽しそうなことをしているじゃない。ツカサ」
「お、お嬢様!」

 張りのある、通りの良い涼やかな声音が周囲に響く。
 運転手らしき男性の手を支えにして、先頭よりも大きな後続の高級車から降りてきたのは……。
 まるで西洋人形のような、金髪碧眼の美少女。

「ヘルシャ!? って、本当にその髪色と瞳なのか!? ゲームの設定で変えてたんじゃなかったのか……?」

 もしやと思ったが、徹頭徹尾完璧に日本人じゃねえ! そして多分、ハーフとかクォーターですらねえ!
 こうして実物を見ると、彼女の容姿からは微塵も日本的な要素を感じない。
 更には特徴的なもみ上げのドリルも健在である。

「あ、いや、失礼。現実こっちでは初対面だったな……じゃない、でしたね」

 相手の年齢も知らなければ立場も知らないのだ。
 ゲームと同じようには行くまい、そう思っての言葉遣いだったのだが。

「構いませんわ、ハインド。それ以前に、今更貴方の敬語なんて気持ち悪くてお断りですわ」
「そりゃそうか……いや待て、気持ち悪いは酷くないか?」

 そのままフッとヘルシャ……もとい、まだ名前を知らないお嬢様は髪をかき上げながら不敵な笑みを浮かべた。
 やっぱり、こいつもゲームと現実で裏表があるタイプじゃないみたいだ。



 そして俺は現在、高級車のシートの上で微弱な振動に揺られている。
 ……おかしいな。本当なら今頃はスーパーにでも寄って、帰路についている予定だったのだが。
 それこそゲームの中の出来事のように、自分が今置かれている状況に現実味がない。
 このゆったりとした対面式の座席、リムジンってやつだよな?
 こんなもの、一生乗る機会なんてないと思っていたのに……。

「どうしてこうなった」
「すみません、師匠。使用人は休暇中の行き先を告げるのが決まりでして……」

 それで居場所が割れたのか。
 ただし誰と会っているかは分からない筈なのだが、ヘルシャは司のそわそわした様子から何かピンと来るものを感じたのだそうだ。
 つまりは単なる勘を頼りにここまで大掛かりな行動を起こしたようだ。
 恐ろしいやつだな。

「一体何が不服ですの? 我が家の夕食に招待されるなんて、著名な財界人でも稀ですのに」
「別に俺は財界人でもなければ政治家でも無いんだが……そうじゃなくてさ。ウチの家事は俺の役目だし、そろそろ帰って夕食の準備をせにゃならんのだが」

 勢いで車に押し込まれてしまったが、理世の料理センスは壊滅的だ。
 もう日が暮れるし、学習塾も終わっている時間だろう。
 母さんも今日は日勤なのでそろそろ仕事が終わって帰って来ると思うのだが、疲れているだろうしうこのまま俺が不在ではインスタント食品コースとなる可能性が高い。
 こちらが豪華な食事をご馳走されている一方で、家族二人が寂しく粗食を摂っているところを想像すると……とても胸が痛む。
 そんな俺の表情から気を回してくれたのか、司が身を乗り出して精一杯の抗議をする。

「お、お嬢様……本日はボクの個人的なお願いで師匠をお呼び立てしてしまったので、その……」
「知っていましてよ! こういったものは“オフ会”というのでしょう? 何故私を除け者にするんですの!?」
「あう……」

 司、沈黙。
 まあ、誕生日プレゼントを選んでましたとは言いづらいわな……本人を前にして。
 そしたら、まずは二人じゃないといけなかった理由をそれっぽくでっち上げなければならない。
 完全な嘘は直ぐにバレそうなので、ここは……恨むなよ、司。

「実は司に普段着の服を選んでくれって言われてさ。メンズファッションの店に女の子を連れてきても、居辛いし退屈だろう? な、司」
「え? …………あっ、はい、そうなんですよ! お、お嬢様はボクの悩みをご存知でしたよね!」
「何ですの、その不自然な間は。確か、男らしくないのを気にして……ふむ。そういうことなら、致し方ありませんわね」
「そうです! 仕方ないんです、はい!」
「?」

 隣に座る司はどうにか話を合わせてくれたが……嘘が下手だな。
 向かい側に座るお嬢様は不自然さに首を捻っている。

「で、話は戻るんだが。もうその辺で良いから適当に俺を降ろしてくれないか? 帰りの足は自分で何とかするから」
「ノンノン、ですわ。要は貴方の御家族の食事をどうにかすれば宜しいのでしょう? なら、住所を教えなさい」
「何言ってんだよ? んな個人情報をホイホイと――」
「悪いようにはしませんわ! 私に教えなさい!」
「いや、だから――」
「お・し・え・な・さい!!」
「…………………………分かったよ」

 最初に会った時と似たようなやり取りだ。この強引さ。
 しかし、住所を聞いてどうするつもりなんだろう? 出前でも取ってくれるのだろうか?
 俺の住所を聞き出すと、彼女は横に座ったメイドさんに視線を流す。
 そのままメイドさんがどこかに小声で連絡を始めた。
 いやー、本物のメイドさんだよ……でもそっちは日本人なんだな、何故か。黒髪だ。

「ともかく、貴方は何も心配なさる必要ありませんわ」
「ああ、そう……」

 俺は全てを諦め、シートの上でずるずると姿勢を崩した。
 うぅむ、柔らかいなこの座席……。
 それを見て隣の司がギョッとした顔をする。

「師匠……ボクが言うのもなんですけれど諦めが早くありませんか?」
「いいか司。こういう強引なタイプの女にはな、本人がこうと決めたら周りが何を言っても無駄なんだよ……」
「あら、分かっているじゃありませんの」

 目を閉じると瞼の裏に腕組みをした未祐のドヤ顔が浮かぶ。
 続けて目を開けると、俺は良く似た表情をしている対面の少女の顔を見た。
 こっちは財力とかプライドが高い分、より面倒だ……。
 気を取り直すと同時に姿勢を直すと、訊き忘れていたことを思い出す。

「そういや、まだ名前を聞いてなかったな。初対面には違いないのに、妙な感じがするが……俺は岸上亘だ」
「改めてよろしくお願いしますわ、ワタル。私の名はヴェンデルガルト・マリー・シュルツ」
「ヴェン――悪い、何だって?」
「ヴェンデルガルト・マリー・シュルツ、ですわ」
「……ミドルネームで呼んでも? あ、ミドルネーム呼びって親しくないと駄目なんだっけ? 馴れ馴れしいかな?」
「いいえ、構いませんわ。これはおじいさまの趣味であって、今時の名前ではありませんもの」
「じゃあマリーで」

 そんなわけで、俺はマリーの家へ招待されることになった。
 半ば強制的に。



 その後、車に揺られること約二時間。
 どんな高級なものを使用しているのか、異常に香りがよく甘いオレンジジュースを飲みながら着いた先は……。
 小高い丘の上にある豪邸。
 正門から遠くに見える入口の前には噴水が置かれ、左右対称の巨大な建物が威容を持って出迎えている。
 芝が丁寧に管理された芝、そしてちらりと目に入るのはプールだろうか?
 庶民には想像もできない空間がそこには広がっていて……ここ日本だよな?

 車を降りてその光景に呆然としていると、別の車が一台、猛スピードで敷地内に入ってきた。
 次いで中から見慣れた人影が二人、車から転がるように降りてくる。
 あれは……

「兄さん!!」
「亘! 大丈夫!? どこも怪我してない!?」

 理世と母さんが、俺にぶつからんばかりの勢いで近付いて体のあちこちを触りまくる。
 この時点で俺の頭の中は疑問符で埋め尽くされた。

「あ? お? 母さんと理世がどうしてここに……? しかも何だよ、怪我って?」
「兄さんが誘拐されたって聞いたんですけど……」
「亘が誘拐されたって……」
「は!? ちょ、おおい! 二人にどういう説明したんだよ!?」

 どうなんですのしずか、と隣のメイドさんに問い掛けるマリー。
 その前髪ぱっつん、静と呼ばれた冷たい目の和風美女はこう答えた。

「亘様の身柄はお預かりしております、とお二人には申し上げましたが」
「凄く紛らわしい言い方です!? し、静さぁん……」
「何してくれてますの静!? 穏便に事情をご説明してお連れしなさいと言いましたわよね!? 言いましたわよね!?」

 司とマリー両者から非難の視線を浴びせられるが、そのメイドさんはどこ吹く風である。
 夕食の心配は必要ないとは言われたが、まさか二人までこの場に連れてくるとは思わなかった……。
 俺は片手で額を覆って首を軽く振ると、状況が飲み込めずに目を白黒させている家族の方に向き直った。
 あっちは頼りになりそうもないから、俺が事情を説明しないとな……。



 そこから先のことは若干記憶が怪しい部分が多い。
 現実味の薄い光景が連続し、それが俺の精神的な許容量を超えたせいかもしれない。

 最初は豪邸の中を案内された後に家族三人で客間に待機していたのだが、トイレに立った際に迷ってしまい……執事服に着替えて清掃していた司を発見。
 そのままの流れでつい手伝ってしまった。
 無理矢理手伝ったためか、司が叱られてしまったのは申し訳ないと思っている。
 しかし、客だからといって一方的に世話をされるのはどうも性に合わないんだよな……黙って座っていると落ち着かない気分になる。
 何故かそれを見た執事長に気に入られて「是非!」と執事見習いにスカウトされたのだが、お断りした。
 現在働いている喫茶店を離れるつもりはないし、何よりも勤務地が遠すぎる。

 そして肝心のディナーには、俺がゲーム内で作ったあの赤いドレスそっくりな物を着たマリーが登場したり……と、本当に数え切れないくらい色々あった。
 理世は終始不機嫌だったが、母さんは豪華な食事がタダで頂けるとあって庶民的な感性で上機嫌に。更にはマリーに俺達の姉と間違われたためか、その後は一層上機嫌であった。母さん……。
 マリーの両親は不在だそうで、正直それを聞いた時は心底ホッとした。
 これだけの財力を持っている当人達を前にして食事など、娘のマリーだけでも一杯一杯なのに何を食べたか分からなくなるのは間違いない。

 ちなみに後日聞いたところによると、司が作ったシルバーアクセサリーのプレゼントはマリーに大変喜ばれたそうだ。よかったな、司。
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