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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
アイテムコンテストとギルドの発展
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結果発表当日・その1

 コンテスト結果の発表当日、ギルドホームの談話室には俺を含めた渡り鳥五人とヒナ鳥三人の計八人が揃っていた。

 広いテーブルに備え付けられた椅子に、ほぼ全員が固まりつつも適当に座っている。

 間も無く女王による審査結果の発表が始まるのだが、その様子はゲーム内・ゲーム外どちらでも見ることが可能だ。

 俺達の場合は、代表してユーミルのメニュー画面から拡大した映像を壁の辺りに投影している。

 サーラに居るので王宮に入れないかと思ったのだが、残念ながら発表を直接見ることは不可能な仕様のようだった。

 なので、現在はみんなでテレビ中継を見ているのに近い状態である。

 魔法による投影ということになっているだけで、実質的には同じだ。


「ずずーっ……ぷはぁ。先輩、お茶もう一杯ください」

「うーん、中々始まらないねー」

「予定時間まであと五分だよ。あ、ハインド先輩、リコと私にもお願いします。すみません」


 シエスタちゃんはお茶のお代わりを要求し、リコリスちゃんは出品しなかった方の枕を抱きながら足をバタつかせ、サイネリアちゃんは淡々と自分のメニュー画面を開いて時間を確認した。

 その様子にセレーネさんがやや引きつった笑みを俺に向ける。


「ハインド君。リコリスちゃん達、随分とリラックスしてるね……」

「自分達のギルドホームに居る時間が極小な気がします、この子達……」


 これだとギルドを分けた意味がないような……いや、良いんだけどね。

 全く寄り付かないよりは、こうやって積極的に馴染んでくれた方が嬉しいし。


「お二人も立ってないで、座ってリラックスして見るといいでござるよー。今日は特に、のんびり結果を眺めるだけなんでござるしぃー」

「おや、意外ですねトビさん。いつもみたいに、女王様にウッヒョーってしなくて良いんですか?」

「それはあれだろう、リィズ。単に女王がこいつの好みではないと!」

「ユーミル、正解!」

「ハインド殿、勝手に正解にしないで!? 拙者、何も言ってないよね!?」

「じゃあ違うのか?」


 俺がそう問いかけると、トビは分かりやすく黙り込んだ。

 こいつの好みは確か「つい守ってあげたくなるような女子」だったはずなので、恐らく女王様はストライクゾーンから外れている。

 あの女王様、どう見ても気が強いからな……そういうのとは無縁だろう。


「そういえばトビさん、魔王ちゃんが一番のお気に入りでしたよね? やはりロリコ――」

「それは違うでござるよ!? 魔王ちゃんが好きなこと自体は否定しないでござるが!」

「だがフィリアには無反応だったではないか、こいつ」

「フィリアちゃんは親父さんに似て男前な性格だからなぁ……ちょっと好みと違うんじゃねえの?」

「だからそういうのじゃないでござるよ!? ねえ、聞いてるみんな!?」

「トビ君……どんまい」

「セレーネ殿まで!?」


 ギルド唯一の良心であるセレーネさんにまでからかわれ、トビが本格的にショックを受けた。

 その情けない表情に、ヒナ鳥達三人は堪え切れずにプッと吹き出した。




 ゆるーいゆるーい空気が充満した談話室に、突如として緊張が走る。

 開きっぱなしだった画面がノイズを発し、ざらついた映像が徐々に鮮明になっていく。

 崩していた姿勢を直し、一斉にそちらに注目する。


『まだかじいや。これでは妾は来訪者どもの笑い者ぞ?』

『魔力の波長が安定するまでお待ちくださいませ。姫は幼い時分より少々、気が短いきらいがございますな』

『アルボル殿、お言葉が過ぎますぞ! いくら元教育係のお役目を賜っていたとはいえ、女王陛下に向かってそのような――』

『よい、ミレス。爺や、さっさと致せ』


 音声も途切れ途切れだが、耳を凝らした結果こう聞こえた。

 意味のある単語を拾って繋げている部分もあるため、一字一句違わず正解とはいかないだろうがおおよそ合っているはず。

 ややあって安定した映像の中で、女王は二人の男を横に立たせ、自身は玉座に座った状態で登場した。

 向かって右側、恐らく「爺や」と呼ばれていたのは魔導士のローブを身に纏った老人の方だろう。

 反対の左側は引き締まった体をした褐色の青年だ。

 王宮戦士団「砂漠のフクロウ」の現団長ミレス。

 女王に心酔しており、確か近習の役目もこなしていたような。


『聞こえているか? 来訪者の諸君……妾がサーラ国女王パトラ・アデニウム・サーラである』


 艶然えんぜんと微笑みながら足をゆっくりと組み替え、女王がプレイヤー達に向かって言葉を投げる。

 その見えそうで見えない絶妙な所作に、俺とトビは思わずゴクリと喉を鳴らす。

 瞬間、俺はテーブルの下に入れていた足に多方向からの一斉攻撃を受けた。


「いでででで!? 何!? 何!?」

「? どうしたんですかハインド先輩?」

「いや、今――」


 俺はリコリスちゃんに言いかけた言葉を飲み込んだ。

 本能が警告を発している。

 それ以上言うな、また蹴られるぞ――と。


「……何でもないよ。ちょっと足がつりそうになってね」

「ええ!? 気を付けて下さい、ゲーム内でも足がつると痛いですよ!」

「リコリスちゃん経験済みなの?」

「リコはそそっかしいので、ログイン直後の戦闘で必要以上に力みまして……はぁ……」

「ほう、ゲーム内でも足ってつるのでござるか。危なかったでござるな、ハインド殿」

「………………おう」


 俺の勘は正しかったようで、そのまま周囲に漂っていた謎の緊張感がゆっくりと解けていった。

 でも今、明らかに四方向くらいから足を蹴られたんだよな……。

 勢いの良いやつと、ぐりぐり抉り込むようなやつと、遠慮がちで全然痛くないソフトなやつと、取り敢えず踏んでみましたっていうやる気のないやつ。

 今、会話に加わらなかった面子は全員怪しい。

 それぞれ誰がやったのか分かるような、分かりたくないような。


「む、やっと挨拶が終わったな。勿体つけおって!」

「無駄に長い前説でしたね。全くこれだから年増は……」


 ユーミルとリィズから発せられた棘付きの言葉に、俺は視線を画面へと戻した。

 女王がパチンと指を鳴らすと玉座の周囲が暗くなり、もう一度鳴らすと何やらスポットライトのような光に照らされたアイテムの山が出現した。

 量を考えると、一カテゴリの全出品物がそこに集められているわけではなさそうだ。

 ということは……。


『初めは来訪者の申すところの『アイテム・その他』と呼ばれる物品の結果発表を行う。ここにあるものは既にふるいに掛けし上位100名の品……この中に己の出品物が見えたなら、まずは喜ぶがよいぞ』


 その言葉に俺達は一斉に椅子から立ち上がり、画面に向かって近づいて注視した。

 このカテゴリに出品しているのはユーミルの『アデニウム』とヒナ鳥達の『木綿の枕』である。


「ねえねえ、あった!? 私たちの枕はあるの!? サイちゃん!」

「この白っぽいのが、そうなような違うような。ちょっと自信ないけど」

「んー……私の枕センサーによると、あれは私達の出した枕で間違いないと思うよ」

「「「枕センサーって何!?」」」


 リコリスちゃんとサイネリアちゃんだけでなく、自分以外の全員からツッコミを受けたシエスタちゃんだが気にした様子もなく大あくびをした。

 そんな枕の有無に関する真偽はともかく、俺達の鉢植え! アデニウムの鉢植えは!?


「駄目だハインド、見えーん! というよりも、微妙に遠くて小物はほとんど見えん! これでは在るのか無いのかさっっっぱり分からん!」

「もっとカメラ寄ってくれ! これじゃデカいアイテムしか判別できねえよ!」

『では、これより上位10品の発表に移る。そのまま暫し待つが良い』

「「ああー!!」」


 俺とユーミルの叫びも虚しく、映像はアイテムの山から遠ざかっていった。

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