二日目の趨勢 その4
3対3の相手は変わらず弓術士統一、型は単射型・連射型・前衛型と綺麗にわかれている。
……思えば、TBというゲームのサービス開始直後からずっとだ。
ずっと、周囲に任されて戦闘指揮というものをやってきた。
その経験から、拙いながらも自分なりの手法が確立されてきている。
もちろんゲームのパーティは軍隊ではないのだから、ああしろこうしろと頭ごなしに命令するわけにはいかない。
「トビ! ワルターの右! フォローフォロー!」
「はいよー」
大前提として、前衛は後衛に比べて視野が狭くなる。
これは敵に対して距離が近いのだから、当然の話だ。
当人たちの能力もあるが、基本的に後衛のほうが全体の位置を把握しやすい。
前衛後衛というか、この場合の自分はさらに後ろ――場外にいるわけだが。やることは同じだ。
ともかく基本、前衛が見えていないであろう敵の位置を知らせる。
基本にして最重要となる事項だ。
「初級スキル用のMP、そろそろ溜まるぞ! 無駄なダメージを負うなよ!」
「はいはい。いいねいいねー、腹筋から声出てるぅ!」
「うっせえ!」
さらに指示が伝わりやすいのは、チーム内で比較的余裕がある遊撃役となる。
リコリスちゃん・ワルター・トビというトリオの場合は、メインタンク・アタッカー・サブタンクという扱いになり、サブタンクであるトビがこの役割に該当する。
このポジションの味方になら、多少は複雑な指示や助言も聞いてもらえる。
そこより前線にいる味方に声を届ける際は、コツが必要になる。
「ワルター! 前衛型! 回り込んでくる!」
「――はい! 師匠!」
言葉はなるべく短く、端的に。
密着して連射型に拳打を放っていたワルターが、トビと位置をスイッチして走り出す。
今のワルターくらいの距離で接敵していると、複雑な指示を聞くのは難しくなってくる。
トビが横目で見えたから、トビが見える位置から出てきたから聞く余裕ができた形だ。
そういう意味では、トビが指示を聞ける体勢づくりを援護してくれた、ともいえる。
ワルターはそのまま、前衛型と単射型に挟まれそうになっているリコリスちゃんのほうへ。
そして最前列、メインタンクのリコリスちゃんだが。
「たああああっ!」
敵の火力担当、単射型の弓術士に向かって猛ダッシュ中。
盾を構えて前へ、前へだ。
当然、敵の残りふたり……前衛型と連射型の妨害はリコリスちゃんに集中する。
そこをワルターは近めで、トビはやや後方から援護するというのがこの戦闘の方針。
今のところは上手くいっている。
俺もリィズたちが立てた作戦に則り、細かく戦術を調整して伝達して……
「わあああっ!!」
……いるのだが、うん。伝えるのが難しいケースはある。
ユーミルもそうなのだが、どうしてああも叫ぶのか。
叫びながらも適切な行動をしているので、文句も言いにくいが。
そんなリコリスちゃんになにかを伝えるとしたら、大事なところで一度きり――だろうか?
あの状態だと、それくらいが限界な気がする。
外から声をかけている都合もあって、呼びかけてもそうそう耳に届かないだろう。
「見える! 見えるでござるよ! ほいっ! ほいっ!」
余談だが、TBの矢は武器で叩き落とすことができる。
特に山なり軌道で低弾速の連射型・前衛型の矢は落としやすい……らしい。
……らしいというのは、俺はほとんどの矢を狙って落とせないからだ。
トビ、ワルターならできる。
リコリスちゃんは盾受けならできる。
今は出場していない傭兵親子、そしてユーミルも余裕でできる。
俺たちグループの前衛は、みんな優秀だ。
「ふはははは! 拙者にも見え――ぴょっ!?」
「トビさぁぁぁん!?」
まあ、それでも調子に乗れば矢は刺さる。
二刀の隙間を縫い、綺麗に眉間に矢が突き刺さった。
立派な落ち武者の出来上がりだ。
目の間なので、視界ジャックもばっちりである。
矢羽根がひらひらして、さぞかし邪魔なことだろう。
「ワルター殿……」
「あ、はい」
トビに乞われ、ワルターが刺さった矢へと手を伸ばす。
すぽっと抵抗なく抜ける矢。
あれだ、吸盤のついた矢みたいな抜け方。
走りながら&戦いながらやっているのはすごいが、なんとも間の抜けた絵面だ。
……少し前、頭頂部に矢が刺さった身としては、あまり笑えない状況だが。
「ふざけていないで、集中しろー! 両チーム回復なしなんだから、短期決戦だぞ! 遊んでんじゃない!」
「真面目にやってこんな感じでござるが?」
「余計に悪いわ!」
正確にはワルターのみ自己回復があるのだが、使っている余裕はないだろう。
この決闘は全体の耐久が低いので、初級攻撃スキルの刺し合いでHPが大きく削れるはず。
継承スキルの懸念はどこまでも消えないが、低MPのうちにそうそう大技は飛ばないという点は変わらない。
あちらはMPが溜まり次第、セオリー通りならHPが低いトビから狙ってくるに違いない。
こちらはそれをなるべく高耐久のリコリスちゃんに攻撃を吸わせつつ、あわよくば――っと。
敵の単射型が強引に体を捻った!? しかも跳んで……まず間違いなくトビ狙い。
「リコリスちゃん!」
「!」
鋭く名を呼ぶ。
おそらく一度きりしか通らないであろう呼びかけをここで使う。
リコリスちゃんは見事に反応し……跳躍していた敵単射型に鋭く距離を詰めると、盾を跳ね上げるように、あるいは振り払うように頭上へ。
トビに向けて発射された『ストロングショット』の矢を、火花を散らしながら上方へ逸らす。
その盾は光に覆われている。
「やっ!」
カウンター発動成功、盾の光が剣へと移動。
すかさずサーベルを突き出し――直撃。
元々、形勢不利を悟った単射型が無理な体勢で矢を放った直後のカウンターだ。
まともな防御も受け身も取れず、小柄なリコリスちゃんがやったとは思えないほど吹っ飛んでいく。
「ワルター! 追撃!」
「ワルター殿! とどめぇ!」
「はいっ!」
トビと俺の声が重なる。
ワルターが単射型へと追撃しに走り、トビは残りふたりの視線を引きに駆け回る。
そして放たれるは『発勁』、防御力を無視してダメージを与える気功型の基本スキル。
叩きつける拳を受けて、単射型が戦闘不能に。
過剰な追撃にも見えるが、遠距離職に対しては大事なことだ。
倒れた状態から矢や魔法を放ってくる者も少なくないのだから。
……しかしながら、戦闘不能を念入りに確認している暇はない。
「リコリスちゃん! ワルター! 反転! 走って!」
「「!!」」
正直なところ、そこまで即応してくる相手ではない。
――戦闘不能者を出した直後の緩みを突いてくる、なんて。
そんな対戦相手が出てくるのは、もうちょっと先の試合に限られるだろう。
前日最終試合……『サーラの愉快な仲間たち』は例外中の例外である。
だが後々のことを考えると、倒しても倒されてもすぐに動く癖はつけておいたほうがいい。
それに今の状況。
「たあぁぁぁぁすぅぅぅぅけぇぇぇぇてぇぇぇぇっ!!」
こちらのふたりがひとりに寄せれば、逆もまた然り。
トビが楽しそう。
ではなく、トビがやられそう。一時的とはいえ、2対1なのだから当然だが。
さすがに前衛型と連射型の同時攻撃を全て捌くのは難しかったようだ。
刺さった矢の数が増えている。
トビの残りHPは……まだ三割あるので、上出来だろう。
少なくとも、俺程度の運動能力ではできない芸当だ。
ナイス囮。
「お待たせしましたっ! トビ先輩!」
「師匠たちの作戦通りですね! すごく動きやすかったです!」
「そうでござるな。拙者の負担がアレで格好悪いということを除けば、完璧な作戦でござるな。あーあ! なんで拙者がこんな役割かなぁ!」
「よーし、なにも問題ないな! 一気に畳みかけるぞ!」
「スルー!?」
回避盾なんて職を選んでいるのだから、ある程度は泥を被る覚悟をしているだろうに。
華麗にすべての攻撃を避け続ける、などということは不可能である。
「最後まで気を抜かずにな。もう俺からの指示は減らすんで、あとは各自の判断でよろしく頼む」
「ちょ、ハインド殿!? こっからなにか、拙者が輝くような戦術くれないの!? ハインド殿!? ハインド殿ぉぉぉ!」
圧倒的優勢を見届け、俺は舞台から距離を取る。
決してトビに腹筋うんぬんを弄られたから、意趣返しをしているわけではない。
張りつめすぎると最後までもたない、というのを学習したからだ。
……ホントダヨ?




