二日目の趨勢 その3
全員が集まって試合をこなすと、それぞれの適性が見えてくる。
ソロ・少人数向きか、それとも多人数戦向きか。
得意な相手職、苦手な相手職などなど。
まず1対1、2対2だが……。
わかっていたことだが、この少人数ゾーンは傭兵親子が強い。
1対1はどちらかを出せば負けなしで、2対2も親子で出れば最強。
また、ほかのメンバーと組んでも卒なく勝利を持って帰ってきてくれる。
今、目の前で親子が戦っているのを見ていても安心感がある。
……そう考えると以前、俺とユーミルに負けたのは幻だったように思えてくるな。
「ああああああ!」
「むりむりむりぃぃぃ!!」
敵チーム、ダブル重戦士が出すあまりの迫力に逃走中。
気持ちはわかるが、逃げ回っても……いや、弓だから仕方なくはあるのか。
思考を戻そう。
それ以外に単独・少数戦で強いのは、調子がいい時限定でユーミル。
相手が大型武器を持っている際のリコリスちゃん。
大振りな攻撃相手だと、カウンターが決まりやすい。
それからワルター、性格が少数というか1対1向きではないが総合力高め。次点でトビという感じ。
トビは本人の能力・性格は問題ないが、職性能がやや少人数戦に向いていない。
――で、問題は3対3以降のお話だ。
「調子だけでなく、選出メンバー同士の相性もありますものね……」
2対2の試合経過を見るのもそこそこに、ヘルシャが舞台脇の控えゾーンを歩き回る。
ぶつぶつ呟いているが、それらはすべて独り言だ。
清掃バイト中に何度か見たことがあるのだが、思考に没頭しているときのお嬢様は終始こんな感じである。
邪魔しても怒られることはないが、屋敷内の使用人たちは集中の妨げにならないよう気を遣う。
ただし、ここは屋敷内ではないので。
「ドリル! ドリル! 試合がそろそろ終わりそう! ドリル! ドリルゥゥゥ!」
「うるっさいですわね!?」
ユーミルがめちゃめちゃ邪魔をしてくる。
そしてあんまりしつこければ、さすがにヘルシャだって怒る。
……うるさくてごめんな。
「大体わたくしは、あなたが負けたせいで真剣なんですのよ! どうしてはるか格下の相手に負けるのです!? 1対1決闘、Bランクの相手に!」
「あの試合、やつはSランク並の動きをだな?」
「あなたが下がっていたんですわよ! Dランク並に! なんっで! 試合ごとに! あそこまで別人のように! なるんですのよっ!!」
「ぐぬぬ……」
はい、そしてこの試合、ユーミルは1対1で負けています。
モロに調子の悪いパターンを引いたわけだが、ヘルシャに任せた以上は文句を言えない。
すぐに慣れるだろう、きっと。
「はーい、ユーミル先輩。こっちでお茶して待っていましょうねー」
「ヘルシャは普段から分刻みで生きている人間なんだから、時間調整は問題ないって。ほら、こっちこい」
「なんだ、シエスタ! ハインド! 離せ! 自分で歩く!」
ユーミルをヘルシャから引きはがし、途中でシエスタちゃんに任せて自分は舞台傍へ戻る。
といっても、2対2はあまり指示することはないのだが。
しかも出ているのは傭兵親子なので、安牌中の安牌。
喉も脳も休めるタイミングといってもいい。
腕組みでもして眺めていれば、勝手に勝利が転がり込んでくる。
なのでというかだからというか、どうしても後ろのヘルシャの様子が気になってしまう。
「性格、そして職性能……戦闘時のクセ……今のうちに、組んだことのないメンバー同士の相性は、直に見ておきたいですわね……となると……」
おー、積極的にグループ内のメンバーを混ぜようとしているな。
それはそうか。
三人だからといってヒナ鳥、そしてヘルシャたちのように元から連携がいいメンバーばかりを固めて使っていると編成の幅が狭まる。
そういう意味では、次戦はアルベルト・フィリア組も崩して別の選出をしてきそうだ。
「相手の構成がこれですものね……リィズさんたち戦略班からも、近接主体で行くことを推奨されましたし……で、あれば」
そしてグループ戦は今、戦っているような極端な相手……。
職統一のグループなども割と存在している。
特に多いのが、この弓単だ。もちろん、アルテミスのレベルには及ぶべくもないが。
目の前では、なすすべなくアルベルトさんとフィリアちゃんに蹂躙されているあたり、敵編成によって強さが乱高下するのが特徴。嵌まれば強い。
特に弓術師という職は、数が増えるほどに脅威が増していく性質がある。
故に次の3対3は少し警戒が必要だろう。
ヘルシャの腕の見せ所だ。
「……近接職で、機動力のある面々。それでいて、被弾面積が小さければ最適……!」
結論が出たらしい。
ヘルシャがつぶやく声に力が入ってくる。
そしてちょうど、2対2はこちらの勝利で終了。
圧勝である。
これで勝利数は一勝ずつでイーブンとなった。
「リコリス! トビ! ワルター!」
ヘルシャが呼んだのは小柄なリコリスちゃん、ワルター、そして小柄ではないが細身で身軽なトビ。
適性だけならトビではなくフィリアちゃんだろうが、連戦はノーということだろう。
ヘルシャの判断はとても合理的。
見事に所属ギルドが分かれているのもいい。
現時点でもう、選出を任せて正解だったと思える。
「あなたたちに任せますわ」
「「はいっ!」」
「うぇーい」
普段からヘルシャに傅いているワルター、そしてヘルシャの雰囲気や迫力にドキドキしているリコリスちゃんは、素直に元気に返事を。
トビはやる気のないアルバイトみたいな返事をした。馬鹿たれ。
一応、目に力はあるから大丈夫だと思う。
そしてヘルシャは、チラッとこちらにも視線を投げてくる。
……うん、この三人だとリーダーをやるタイプがいないからな。
外から出す俺の声が必要になると思われる。頑張ろう。
「待て! なぜ私が選ばれない!? 足だって速いぞ!」
1対1の失敗から、名誉挽回を図りたかったのだろう。
出たそうにしていたユーミルが抗議する。
――個人的には、トビに替えてユーミルでも問題ないと思うが。
ヘルシャの言い分やいかに。
……ヘルシャはユーミルを胡乱な目で見た後に、視線を上下させながら口を開く。
「あなたはあちこち出っ張っているから駄目ですわ。矢が引っかかりそうで」
「ドリル貴様っ!」
……ああ、体型か。それなら納得。
俺が口にしたら問題発言だが、ヘルシャなら許され……るのか?
同性でも許されるラインを超えているような、いないような。
「お前だって似たような体だろうが! メリハリボディだろうが! シエスタといい、なぜ同族が私の体型を弄ってくる!」
完璧すぎるから崩したくなる。
あると思います、そういう心理。
舞台から戻ってきた親子がハイタッチを求めてきたので、俺は高さを調整した両手を上げて応じる。
バチン! バチン! ……うん、痛い。
戦闘の興奮をそのまま乗っけたような勢いで叩かれた。おつかれさまです。
そして他のメンバーとも同じように、けれども俺相手よりはソフトタッチで勝利を報告。
「やかましいですわよ! 大体、西洋人なみの体をしているあなたがおかしいんですわよ! 引っ込んで……いえ、引っ込ませなさいな! 被弾面積を減らしなさい!」
「これ以上、腹は引っ込まないのだが!? 最近は腹筋も鍛えているし!」
「!?」
妙な言葉が聞こえてきて、ついついそちらを振り返る。
いや、本当に腹筋鍛えているのかよ……少し前にした会話の影響か?
ヘルシャが眉をひそめている。
「あなた、どこを目指しているんですの……?」
「(ハインド好みの)健康的な肉体美だが?」
待って、なんか聞こえるはずのない副音声が聞こえたんだが。
俺の自意識過剰や、気のせい……じゃないな。
同じように聞こえたっぽいヘルシャが、軽蔑したような目でこっちを見てくる。
ちがう、ちがうんだ……。
「つ、次の試合がはじまりますよ? ハインド先輩。大丈夫ですか……?」
後ろから来て、気遣ってくれるサイネリアちゃん。やさしい。
でも、どうして自分のお腹を押さえているのかな? 俺の視線から隠そうとしている?
それにしても、トビがこの場にいなくてよかった。
あいつがこの流れを見聞きしていたら、絶対からかってくる。
もしそんなことをされたら……。
「あ、ハインド殿ー。指示出し頼むでござるよー。腹から――否、腹筋からしっかりと声を出して! ネ!」
「……」
ネ! じゃないんだよ。
聞こえていたのかよ。
結果、俺の集中力とやる気は地の底まで低下した。
……調子を戻すのはいいけど、調子に乗るのはちがうんじゃないか? トビ。




