二日目の趨勢 その5
3対3はこちらの勝利に終わった。
そして迎える4対4。
次も勝てばトーナメントの先に進めることになるのだが。
「次は4対4ですけれど……ユーミル?」
珍しく探るような口調のヘルシャ。
ユーミルの名を呼んだものの、なんだか迷いが感じられる。
みんなも不穏な空気を感じ取ったのか、ふたりのほうへと注目。
「もちろんだ、ドリル。任せておけ!」
「本当に大丈夫ですの……?」
いつも自信満々。
トップが不安がっていては、下の者たちが立ち行かなくなりますわ! との言葉を、よく口にするヘルシャが。
あのヘルシャがとても不安そうだ。
一方のユーミルは自信満々、いつも通り。
「ふっ。さっきまでの私とはなにもかもが違うということを、戦いの中で証明してみせよう!」
「本当に大丈夫ですの……?」
「くどいぞ!? 二度も同じ言葉を口にするな!」
おそらくだが、ヘルシャは一戦ごとに変わるユーミルの調子を読めていないのだろう。
一瞬だけ俺のほうに視線を向けかけたが、頭を振って他の面々に向き直る。
任されたからには、俺に訊かずに自身の裁量でということなのだろう。
責任感の強いお嬢様だ。
いよいよというときは相談してほしいが、今はこのままでいいか。
――4対4。
少数戦ではいまひとつだった遠距離職が、ようやく輝きを増してくるカテゴリ。
バランスよく編成するなら前衛2に回復1、仕上げに火力担当or補助役の遠距離職をひとつまみ。
そんな4対4なのだが、この試合。
どちらもテンプレートやらセオリーから外れた編成を組んでいる。
相手は言わずもがな、弓単。
それも連射型ばかりを揃えた弾幕パーティ。
なんだかヘルシャの目が活き活きしているように見えるが、気のせいだと思いたい。
「ぎぃやああああ!!」
そしてこちらは前衛1。
さらに後衛3。
前衛はすでにハリネズミと化しているユーミル。
「なんなんですの!? なんなんですの、あの子! 先ほどまでとなにもかも同じなのですけれど!」
「……なんかごめん」
初動から張り切って突っ込み、上手に距離を取られて撃ちまくられるユーミル。
これで誰かひとりでも刃圏に収められればよかったのだが、そんなこともなく。
全員漏れなく逃げられ、ご覧の有様ということである。
「絶好調のときのユーミルと絶不調のときのユーミルだと、世界チャンピオンと赤ちゃんくらい差があるからなぁ……」
「だぁぁぁれが赤ちゃんか! バブゥゥゥ!」
「あ、不調の自覚はあるんですのね……」
こちらの話し声を聞き取って、わざわざ言い返してくる時点でだめだろう。
集中できていないのが丸わかりだ。
それでも戦闘不能にならず生き残っている辺り、生来の運動神経が高い証左ではある。
「だぁ! だぁ! ぶるあああっ!」
「……」
「…………」
長剣を右に左に。
必死に矢を払ったり、ガードしたりしている。
自分以外に前衛職がいない戦場でひとり、踊り狂う。
「すげえや。ハインド殿の3倍は声がでかい」
「悲鳴と作戦伝達の声量を比べられても困るが、まあそうだな」
叫んで、走って、剣を振り回す姿を見たトビが感想を漏らす。
俺だって本当は、ユーミルのよく通る声で指揮を執ってほしい。
だが現実はこうなんだ。
「ああああああっ! ヒットストップがぁぁぁっ!」
……こうなんだ。
目の前のことに精一杯すぎる。
もうちょっとこう、舞台の端を活用して移動してほしいのだが。
格闘技でいうロープ際に敵を追い込む感じで。
堂々と真ん中に立たないでくれよ。
当然のように集中砲火だよ。どうすんのこれ。
「いったん離脱――って、どっちだ!? どっちに逃げればいい!」
「こっちです、ユーミル先輩! 私の声がするほうに!」
「おおっ! サイネリア!」
ユーミルのほかは後衛アタッカーにサイネリアちゃん。
回復兼アタッカーにシエスタちゃん。
回復役にカームさんという陣容。
手厚い回復体制により、ユーミルはどうにか……。
最低限、後ろへの攻撃を減らすことには成功している。
両チームの編成都合上、色々きついのはわかるのだが。
ここは手厚い回復を背に、どっしり構えてほしいところ。
「ヘルシャ、ユーミルの選出意図を訊いてもいいか? 単純に出場数?」
足を肩幅より少し大きめに開き、腕組みして戦況を見つめるヘルシャに話しかける。
――なんかすごく強そうな立ち方だな。巨大ロボみたい。
ユーミルと違い、こちらは落ち着きを取り戻したようだ。
……と、それは置くとして。
戦闘指揮をサイネリアちゃんがやってくれているので、俺も雑談する余裕がある。
「それもありますけれど、グループ戦は長丁場ですから。ハインドが後ろにいない組み合わせでも、悪いなりに働いてもらいませんと……そうでしょう?」
「そうだな。調子が上がるのを待っていたんじゃ、編成幅も戦術幅も狭まるもんなぁ……無理にでも出していかないとか」
それに、せっかくカームさんもいるんだ。俺と全く同じ職業。
なるべく交代で出場して、互いに疲労が溜まらないようにするのがベターだろう。
「許さん……! 絶対に許さん……!」
そしてユーミル、ついには呪詛の言葉を吐き始めた。
普段、明朗快活なあいつが低い声でブツブツなにか言っているのは割と怖い。
が、そんな状態は数秒程度。
叫ぶぞ。絶対叫ぶぞ。すぐ叫ぶぞ。
「許さんぞ! トビィィィ!」
「拙者ぁ!?」
ほらやっぱり。
そしてトビに怒りの矛先が向いた理由についてだが。
先ほどから「ほらほら、ユーミル殿。ちゃんと避けてー」だとか「なんでそんなのに当たってんの!? 目ぇついてる!?」だとか煽りまくっていたからである。
自業自得だ。
敵の猛攻より身内からの心ない野次のほうが、腹が立つ。
「うおおおおっ!!」
叫んだ勢いのまま、怒りに任せた突進。
この試合中にも何度も見た光景だが、今までよりも敵の目前へと接近。
もう一歩で攻撃が当たる距離まで踏み込めた。
「あら? スイッチ入りましたの?」
「いや、あれはやけくそ」
カームさんがコツコツ増やしたバフ。
シエスタちゃんがユーミルを盾にしながら稼いだMPで、ユーミルのHPを回復するという、いいのだか悪いのだかわからない循環。
必死に知恵を絞り、ユーミルが敵弓術士をつかまえられるよう位置を調整してきたサイネリアちゃん。
それらがようやくかみ合い、ユーミルの突進が結果を出した。
かなり雑な距離の詰め方だったけれども、捕捉できたことに変わりはない。
「ただ、まぁ」
そのままユーミルがこの試合初の攻撃ヒットを成功させ、相手が面白いように大混乱に陥る。
今まで通り冷静に引き撃ちすればいいのに、誰も矢を撃たずに一目散に逃げ惑う。
脆い。
いくらなんでも脆すぎる。
「通る相手ではあるよな、このランクなら。身体能力は勝っているんだから」
「うーん……」
試合の状況が好転してはいるものの。
一連のレベルが高くない流れを見て、褒めるべきかどうか、ヘルシャも渋い表情である。
そうこうしている間にも、ユーミルが捉えた一人を戦闘不能に。
隙を突いてというか隙だらけの相手を、サイネリアちゃんとシエスタちゃんが一人ずつ遠距離攻撃で仕留め。
最後にユーミルが残った一人を撃破し、矢を弾くばかりだった長剣を天に向けて突き上げる。
「勝ったぞー!」
勝利の叫びを上げるユーミルだったが、会場内からは微妙な拍手と歓声。
そしてちょっと笑うような声も聞こえてくる。
それを察して益々、渋い表情になるヘルシャ。
経営者だけあって、割と体面を気にするタイプなのである。
「うぅーん…………」
「便秘でござるか? ヘルシャ殿」
「ギルティ!」
「あふんっ!?」
はい、自業自得。
もちろんヘルシャに余計なことを言ったのは、誰あろうトビである。
鞭でしばかれているので、人によってはご褒美かもしれない。
……ゲームだからって、あらんかぎりのフルスイングだったな。ヘルシャのやつ。
現実と混同していないが故の容赦ない一撃。
「よーし、おしおきの時間だバカ忍者! ……って、あれ?」
周囲の微妙な反応を気にせず、意気揚々と戻ってきたユーミル。
そして待機所に転がっているトビを見て驚愕。
「し、死んでる!」
「生きているでござるよ……」
振り上げた拳の行き場をなくしたユーミルは、しばらく考えた後。
ソフトタッチで俺のお腹を連打してくるのだった。
むずがゆい。




