強欲な世界-1
違和感。
さっきも思ったけど、やはりこの街には違和感がある。
人の行動それぞれにどこか恐怖を感じるような、そんな感覚。
僕自身ハッキリとわかっていないんだけど、ここの人達はなんか嫌いだ。
僕はとりあえず無断拝借したパンを少女から少しもらって朝食を済まし、これまた無断拝借した地面につくかつかないかほどに大きい茶色のローブを羽織った。
フードを深く被り少し顎を引けば顔は全くわからないだろう。
しっかりと首前で紐を結ぶと少女をおいでおいでと手招く。
恐る恐る少女が近付いてくると、僕はローブの中に彼女を入れた。
この子がどんな子かわからない以上放置も出来ないし姿を晒したまま歩かせるのも危険だと思ったからだ。
一応ローブには少しだけ穴を空け、少女にも前が見れるようにはしておいた。
バレそうで少し怖いけど。
あとこれ、とっても歩きにくいんだよね。
街に出ると昨日見た光景が再度目の前に広がっていた。
少女がグッとローブの内側を握り締めながら歩くので前に重心が動きとっても歩きにくい。
重心を後ろ側に傾けつつ街を徘徊する。
昨日は宛もなくただ目的を探してブラブラと歩いていただけだから気付かなかったのかもしれない。
けど、いざ注意して観察していると違和感の正体は案外簡単にわかった。
ここの人間は、皆が皆、目が死んでいる。
大声で元気よさげに叫ぶ店主も、客も、何もかも心が死んでいる。
しかし彼らは動き続ける。
ただ、お金を得るために。
一日を潰して僕は少女の正体を探りがてら街を観察した。
そして時折、少女が店の方を見て震えていたのだ。
その視線を追って僕も気付いた。
彼らは休まない。
店主は朝から晩まで一切休まない。働き続ける。
あれか、社畜というやつだろうか?
いや、違う。
彼らは自分が属す組織への貢献なんて微塵も考えてはいない。目を見ればわかる。
店主の死んでいる目。
それは、商品を売ることに成功し、客からお金を受け取ったあと、狂喜する。
死んだ目がギラギラと光り小銭やお札を数秒で数え、また仕事に戻る。
それを繰り返す。
金を得るためにここの人間たちは働く。
そのあと自分が贅沢をしようなどと考えてはいない。
ただ金を集めるためだけに心身を削り働き、得た金に狂喜して、そしてまた働く。
僕は震えた。
身震いがした。寒気が全身を襲った。
ここの人間は、人間で人間じゃない。
無心で金を求める、金の亡者だ。
彼らには他に何も見えていない。
ここは強欲な世界だ。
「泥棒だー!!!」
そんな時、街中で大声を上げる男。
その声に周囲の人間の目が変わる。
声に反応した住民の目はまるで別の生き物のように泥棒を犯した人間の探知を開始する。
そして大声から約30秒後、街の人間は一斉に動き始める。
どうやら対象が見つかったようだ。
家に一度戻る人間がいたかと思えば、持ち出してくるのは保身用の散弾銃やら鉈やら包丁だ。
いくらなんでもやりすぎなんじゃないだろうか。
更に驚くことに、彼らはゾンビのように標的へと向かう。
その途中、距離が近すぎてお互いが持つ刃物がお互いを傷付け合うがそんなことはお構いなしのようだ。
たった一分で今いる通りは閑散とし、残されたのは人間の血液だけだった。
少女はその光景を見てガタガタ震え、僕の指を痛いほど握りしめつつ僕に抱きついてきた。
ポンポンと頭を撫でつつ自身の震えをなんとかセーブする。
さっきの無断拝借はとんでもないことだったんだな,,,,,,
それから更に1分後、どこからか住民の雄叫びが聞こえた。
僕はローブの下で震えてる少女をお姫様抱っこのような形で抱き上げながら、声の方向へと歩いた。
曲がりくねった道を抜けると、入り口付近の噴水のある広場で大きな集会が行われていた。
人数は1000や2000を下ることはないんじゃないだろうか。
そしてその中央に小学校の朝礼台のようなものがあり、その上には高貴な姿をした人間が3人、見るからに高そうな宝石の散りばめられた椅子に深々と座っている。
そしてもう一人、両手足に枷をつけられた女の子が台上に転がされていた。
遠すぎてハッキリと確認出来ないが、驚いたことに今ローブの中にいる少女と同じか少し上くらいの少女だ。
そしてこの光景。
まるで中世ヨーロッパの公開処刑じゃないか。
僕は唖然とした。
泥棒がこの世界では極刑なのか。
どこまで利益や金やらに貪欲なんだ。
僕の中の白い部分に黒が1粒滴った。
僕の外の白い部分に黒が1粒滴った。
台上の高貴族のうち、男の一人が立ち上がり、高らかに何かを宣誓した
でっぷりとしたその体は存在が醜態のように感じさせるほどに汚くだらしがない。
だが、住民は操られているが如く熱狂し、彼を崇めた。
そして彼は椅子の前に置いてあったであろう首切り用の大斧を手に持った。
大きさ2mの斧は見るからに重そうだが、刃はボロボロ。
あれは一発で切ることなく死刑囚に苦痛を与える仕様か。
残虐極まりない。
男は斧を徐に少女の腹へと降り下ろす。
もちろん胴が切断されることはなく、鈍器で殴られたような衝撃が少女を襲い、激しく吐血し僅かな痙攣以上は動かなくなった。
その一撃に住民がどっと沸く。
その光景を見た瞬間、僕は激しい頭痛に襲われて思わずしゃがみこむ。
少女が突然暗くなる視界にビックリしていたが、僕がおかしいと察すると僕の服の裾をキュッと握って心配してくれた。
意識が混濁し、僕はゆっくりと目を瞑る――――
――――光の中。
遠くに見えるのは―――――誰?
彼女は僕に手招きをしている。
彼女は僕を知っている?
僕は彼女を知らない。
次の瞬間。
彼女の体が弾けとんで、周囲に真っ赤な鮮血と臓物を撒き散らした。
僕は絶叫した―――――
眼を開き、少女の腕を乱暴に掴んでから、僕は能力を発動した。
「"空間移動"」
その瞬間、視界が変わり、僕の目の前には今にもトドメを刺そうと斧を振り上げた貴族の男の横顔があった。
僕の出現に世界が止まる。
座っている二人に僕は笑顔で一礼。
それから目の前にいる男を横から突き飛ばす。
重そうな巨体はバランスを崩して台直下の人間を下敷きにしながら落下していった。
少女は移動したことにまず困惑し、そして自分が今とんでもないところにいることを認知した瞬間、キューッと気絶してしまった。
「どうも高貴な身分のお二方。
この子は僕が預かりますね。」
二人を横目にそれだけを告げつつ、僕は能力で横たわる少女の枷を自分の掌の上に移し、二人の足元へ放り投げる。
そして二人の少女の手をしっかり握って、枷が台上に落ちる前に空間移動した。




