Episode6、迷宮調査。
――翌日。
ギナーの街では、早くもクイに関する新たな噂が広まっていた。
「おい、聞いたか? またクイが問題を起こしたらしいぞ」
「ああ、聞いた聞いた。あのバルゴをぶちのめしたんだって?」
「相当ひでぇ目に遭わせたらしいぜ」
「うわぁ……やっぱり、あいつには関わらねぇ方がいいな」
そんな好き勝手な噂話に、クイは今日も眉をひくつかせていた。
ーーー昨日の今日で、もうこれかよ。
確かに、バルゴは床を転げ回っていた。
だが、クイは一発たりとも殴っていない。
殴りかかってきて、探知を使い、悲鳴を上げただけだ。
挙げ句の果てには、わざわざ回復まで…。
ーーー何で俺が悪者なんだよ。
まったくもって納得がいかない。
酒場を見渡せば、いつも以上に冒険者たちが距離を取っている。
隣の席はもちろん、向かいの席にも誰も座ろうとしない。
まるで、クイの周囲に見えない壁でも存在するかのようだった。
「おい、クイ」
「……ん?」
不意に声を掛けられ、顔を上げる。
そこに立っていたのは、茶髪の青年だった。
整った顔立ちに、爽やかな笑み。
誰が見ても二枚目と答えるであろう、人当たりの良さそうな男である。
彼の名はチャル。
クイと同じ運搬者であり、レベルは94。
世界でも指折りの実力を誇る冒険者の一人だ。
「お前さぁ、あんまり暴れるなよな」
「…………」
「これ以上騒ぎを起こしたら、ますます客が寄り付かなくなるだろ?」
チャルは呆れたように肩をすくめた。
その口調に、悪意らしいものは感じられない。
むしろ、忠告してくれているのだろう。
だが、クイにとっては余計なお世話だった。
ーーーいっそのこと、お前にも寄り付かなくなればいいのに。
心の中で、思い切り毒づく。
ーーー仕事が来ない苦しみを、少しは味わってみろってんだ。
そんなことを考えていた、その時だった。
「あ、あの……すみません」
遠慮がちな声が割って入った。
振り向けば、そこには一人の女性冒険者が立っていた。
どこか気弱そうな雰囲気で、両手を胸元で握り締めている。
「チャルさん……依頼をお願いしたいのですが……」
「ああ、いいよ!」
即答だった。
ーーー少しは考えろよ。
クイのこめかみが、ぴくりと動く。
「それじゃ、詳しい話を聞こうか」
チャルは爽やかに微笑むと、クイへ顔を向けた。
「じゃあな、クイ。今日は依頼が来るといいな!」
「…………」
軽く手を振り、女性冒険者と共に歩いていくチャル。
クイは、その背中を無言で見送った。
ーーーチッ。
顔が良くて、強くて、性格まで良い。
おまけに仕事まで向こうからやって来る。
一方、クイは昨日、酒を頭からぶっかけられた挙げ句、悪評まで増やされてしまった。
この扱いの差は、一体何なのだろうか。
クイは頬杖をつき、誰も座っていない向かいの席を眺めた。
「…………はぁ」
今日もまた、長い一日になりそうだ。
ーーー仕方ない。一人で行くか。
結局、今日も依頼人が現れる気配はなかった。
クイは諦めたように腰を上げると、酒場を後にした。
このまま1日を無駄にするくらいなら、一人で迷宮を探索した方がよほど有意義だ。
そう考えたクイは、手持ちの地図を広げた。
ギナー周辺に出現した迷宮の位置が、いくつも書き込まれている。
その中から、まだ調査していない迷宮を探し出し、羽根ペンで小さく印をつけた。
街外れに出現したばかりの、新しい迷宮である。
「……ここにするか」




