Episode4、二度目の挫折と不公平。
人生で二度目となる、大きな挫折だった。
そう簡単に立ち直れるものではなかった。
積み重ねてきた実績も、周囲から寄せられていた期待も、たった一度の失敗で崩れ去ってしまった。
信用を築くには長い年月が必要だというのに、失うのは驚くほど呆気ない。
それでも、クイは諦めなかった。
失った信用を取り戻したかった。
そして、いつか気兼ねなく笑い合える友人が欲しかった。
そのささやかな願いを叶えるため、ひたすら依頼を引き受け続けた。
迷宮に潜り、魔物を討伐し、依頼人を無事に送り届ける。
一つ仕事を終えれば、また次の仕事へ。
どれほど疲れていようと、頼られれば断らなかった。
実績を積み重ねていけば、いつか周囲の見る目も変わるはずだ。
そう信じていた。
しかし――。
現実は、そう甘くなかった。
働けば働くほど、なぜか悪評ばかりが増えていく。
しかも、そのほとんどが身に覚えのないものだった。
事実とは異なる噂が、いつの間にか尾ひれをつけて広まっていく。
弁明しようにも、誰が言い始めたのかさえ分からない。
気付けば、かつて自分を称賛していた者たちまで、距離を置くようになっていた。
それでも、クイは依頼を受け続けた。
いつか、誰かが自分を正しく見てくれると信じて。
ーーーーー
――そして、現在。
(……結局、今日も誰も来なかったか)
目の前に置かれた酒杯を、ぼんやりと眺める。
気付けば、すっかり酒に手をつけてしまっていた。
普段なら、仕事があるかもしれないと思って控えているのだが、今日ばかりはどうにも我慢できなかった。
とにかく飲みたい。
飲んで、嫌なことを全部忘れてしまいたい。
そう思っていた、その時だった。
「しっかし、【転生勇者】様ってのはすげぇよなぁ。魔王を倒して世界が平和になったってのに、今でも身を粉にして働いてるらしいぜ」
「ははっ! 俺だったら絶対無理だね。魔王を倒した時点で、一生遊んで暮らすわ!」
「違いねぇ!」
少し離れた席から、陽気な笑い声が聞こえてきた。
何とも楽しそうな馬鹿話だ。
(……また勇者の話かよ)
俺は酒杯を傾け、残っていた酒を一気に喉へ流し込んだ。
喉が焼けるように熱い。
(何が【転生勇者】だ。馬鹿馬鹿しい……)
魔王を討伐した英雄。
世界を救った救世主。
どこへ行っても、耳にするのはそんな話ばかりだ。
(……ちーと、だっけ?)
確か、異世界から来た奴らが持っている、規格外の能力のことをそう呼ぶらしい。
(そんなもんがあるなら、魔王ぐらい倒せて当然だろ……)
いや、分かっている。
魔王を倒したことが、とんでもない偉業だということぐらい。
それでも、どうしても素直に称賛する気にはなれなかった。
(……くそ)
酒杯を握る手に、思わず力が入る。
(俺だって……)
俺だって、強い。
死ぬほど努力して、ここまで来た。
何度も死にかけて、それでも生き延びて、レベル95まで上り詰めたんだ。
それなのに。
(……何なんだよ、この扱いの差は)
片や、誰もが憧れる世界の英雄。
片や、酒場の隅で誰からも相手にされない嫌われ者。
……まったく。
世の中、不公平にもほどがある。




