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猟奇V系バンド、魔王城へ転移したら「黒き冥府の四候」として崇められた  作者: たま8


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Kill me……①

「俺たち……完全に悪役側じゃね?」


 ハヤトの呟きに、俺は何も返せなかった。 


 黒い床の上に縄で縛られた女勇者が転がされている。周囲を魔族たちが囲み、その前には、魔族ですら恐怖する見た目の俺たち四人。反論できる要素なんて、最初からどこにもなかった。 


 その時、大広間の扉が再び開いた。今度は、白と金の法衣を着た女が、引きずられるように連れてこられる。


「ミラ!」


 女勇者が、縛られたまま顔色を変えた。


 ミラと呼ばれたその女は力なく膝をつかされ、乱れた髪の隙間からのぞいた目には恐怖を宿し、女勇者の名を小さく呼んだ。


「……エレン」 


 ロザリアが静かに告げる。


「聖女です。人間側では、勇者と並ぶ象徴とされています」


 勇者と聖女。二人が揃って、こちらを凝視した。


「め、冥府の者……?」


 ミラがかすれた声で言う。


 違う。中身はただの中年バンドマンだ。でも今、それを言える雰囲気じゃ絶対になかった。


「状況は?」


 魔王さんが短く尋ねると、ロザリアが背筋を伸ばした。


「人間軍は撤退しました。四候様方の音の儀式を受けた部隊は想定以上の成果を上げています。勇者と聖女は前線に残っていたため、包囲・捕縛しました」


「殺さなかったのですね」


「はい。魔王様のご指示通りに」


 ロザリアは迷いなく答えた。


「殺せば遺恨が残ります。しかし解放すれば、再び戦場に戻ります。戦力としても象徴としても、こちらの不利益になります」 


 殺せない。逃がせない。だから連れて帰るしかなかった。


 だが、その先の扱いをめぐって、大広間は重い沈黙に包まれた。そもそもこれまで防戦一方だった魔族が、捕虜をとらえた前例自体、なかったらしい。


 魔族側に二人を痛めつけたい空気はない。だからといって客人として扱うのも違う。どうすればいいのか誰も答えを出せていない。このまま議論を続けても、絶対に結論は出ない。


 ……なら、俺が着地をつけるしかない。俺は深く息を吸った。


 普段のような話口調では駄目だ。ここで必要なのは、黒き冥府の四候としての声だった。誰にも言葉を挟ませないよう、強く、威厳を持たせて。


「その二人、俺たちがもらい受けよう」


 言った瞬間、自分でも分かった。ものすごく悪役っぽい。


(……おいレイジ! もらい受けるって、どうするつもりだよ!?)


 ハヤトも困惑していた。


(うるさい! いったんこういう形でおさめなきゃ、埒《らち》が明かないだろ!)


 エレンとミラの顔からは、血の気が完全に引いていた。


「四候の皆様が……」


 魔王さんが小さく息を呑む。ザントは目を輝かせ、深々と頷いた。


「なるほど……勇者と聖女を、冥府への贄となさるのですね」


 そして魔王さんは、わずかな間を置いて静かに告げた。


「四候の皆様が望まれるのであれば、我々に異存はありません。勇者と聖女は、冥府への供物として献上いたします」


 大広間に低いざわめきが広がった。


 もう止められない。最悪の方向へ、完全に転がり始めた。


「あ、いや、贄とかじゃなくて……」


 俺は言いかけて、言葉を詰まらせる。ここで強く否定しすぎると、魔王さんたちの前で話がおかしくなる。


 俺たちは今「黒き冥府の四候」として扱われている。その立場を利用して二人を助けようとしているのに、自分でその看板を外すわけにはいかない。


「今すぐどうこうする、ということじゃなくて……」


 弱い。あまりにも弱い否定だった。


 案の定、二人には届かなかった。むしろ「今すぐではない」という部分だけが刺さったらしい。


「今すぐでは……ない……」


 ミラが震える声で繰り返す。


 その先を想像したのだろう。彼女の目から、すっと光が消えた。


 その時だった。ミラの視線が、俺たちの横で止まる。よりによって、うちのドラムと目が合った。腐ったような顔に血の涙、額にはでかい釘。俺たち四人の中でも一際《ひときわ》見た目がヤバい奴だ。


 シンジは、たぶん緊張を少しでもほぐそうとしたのだろう。できるだけ優しく、ニコッと笑った。それがミラにとって、どれほど邪悪な笑みに映ったのかは想像に難くない。


 次の瞬間、聖女は糸が切れたように崩れ落ちた。


「ミラ!」


 エレンが叫ぶ。シンジも慌てて声を上げた。


「失神した!?」


「お前のせいだよ!」


「俺、笑っただけだぞ!?」


 人間側から見れば、魔王すら逆らえない黒き冥府の四候に、供物として献上された状況である。


 しかも最後、一番ヤバい顔した奴が自分を見て笑った。気絶するなという方が無理だった。


 エレンは気を失ったミラを抱えようとして、縄に邪魔されながら必死に俺たちを睨みつけてくる。


「近づくな!」


「落ち着け。すぐ手当てさせる」


 俺はロザリアに目配せした。


「縄を少し緩めてくれ。逃げられない程度でいい」


 縄が緩められ、エレンはようやくミラの肩を支えられるようになった。


 シンジが小さく呟く。


「俺、やっぱ後ろにいた方が良かったか……」


「今さら気づいたのか」


「薄々は気づいてた」


 ハヤトが疲れた顔で額を押さえた。


「レイジ、これ助けに入った流れだよな?」


「そのはずだ」


「どう見ても悪化してるんだけど」


「分かってる」


 俺は魔王さんに向かって言った。


「この二人を、いったん休ませてもらえますか。牢屋とかじゃなくて普通の部屋で。それと水と、なにか食べ物を用意してもらえますか」


「……普通の部屋、でございますか」


 魔王さんが少し考える。


「四候様方への供物を安置するに相応しい部屋を――」


「安置しないでいいので、普通の部屋でお願いします」


「……承知しました。可能な限り、普通の部屋を」


 エレンはまだ俺たちを睨みつけている。


「くっ……殺せ」


「だから殺さないって」


「殺さないなら、何をするつもりだ。冥府への供物として私たちを……貴様らは、何に使うつもりだ」


 俺は言葉に詰まった。


 言い方が悪い。状況も悪い。顔はもっと悪い。


「話を聞くだけだ」


「信じられるか!」


 まあ、そうなる。


 こうして俺たちは、勇者と聖女を保護することになった。ただし、二人の目には、俺たちは保護者などではなく、処刑前に現れた冥府の迎えにしか見えていないらしい。

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