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猟奇V系バンド、魔王城へ転移したら「黒き冥府の四候」として崇められた  作者: たま8


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Grotesque in the Rage《グロテスク・イン・ザ・レイジ》

Grotesque in the Rage

作詞・作曲 Reiji

編曲 Jesus Pain

=========================

All thing I see is falling down

No pray, no love, no tomorrow in my head


Crying voice is drowning under dirty sky

Broken angel laughing with the knife in my dream


壊せ! [shout]

殺せ! [shout]


Grotesque in the Rage

MAD in my mind


売女《ばいた》の腸《はらわた》で首を飾れ!

裂けた子宮に黒い花を咲かせろ!


Burning my brain, biting your fake salvation

Red rain falling, falling, falling into hell


壊せ! [shout]

殺せ! [shout]


Grotesque in the Rage

MAD in my mind


聖者の脳髄《のうずい》で祈りを汚せ!

腐った神の眼球で夜明けを潰せ!

=========================


「ぐろてすく……?」

「まっど……?」

「何か分からぬ! だが恐ろしい響きだ!」


 英語部分は、魔族たちにはほとんど意味が通じていないようだった。まあ俺の英語も大概だからそれはいい。それでも、音と狂気だけは確かに伝わっている。


 シンジのドラムが腹の底を抉り、シンイチの低音が床を震わせ、俺のギターが叫びのように歪む。その上に、ハヤトの声が突き刺さった。


【壊せぇぇえ!!!!】


 その瞬間、魔族たちの目が変わった。


「壊せ……!? 何をだ!?」

「目の前の恐怖を、だろう!」


 ハヤトがさらに吠える。


【殺せぇぇえ!!!!】


「うおおおおおおお! やってやる……! やってやるぞおおおおお!」

「人間どもに、我らの牙を見せてやる!」

「もう逃げぬ! もう下がらぬ!」


 ホール全体の空気が、一瞬で沸騰した。


 さっきまで『首吊惨歌』で胸を締めつけられていた魔族たちが、今は胸の奥から獣性を引きずり出している。拳を握り、爪を立て、床を踏み鳴らす音がドラムの裏拍に重なる。


 正直、怖い。


 盛り上がっているのは分かる。だが、数千の魔族が一斉に「やってやる」と咆哮する光景は、ライブの成功などという言葉では片付けられない。


【売女《ばいた》の腸《はらわた》で首を飾れ!】


 ハヤトが歌った瞬間、何人かの魔族が一瞬だけ固まった。


「はらわたで……首を!? そ、そこまではさすがに……」

「だが、覚悟は伝わった! それくらいの勢いで戦えということ!」

「四候の覚悟、しかと受け取った!」


 受け取らないでほしい。本当にただの勢い任せの歌詞なんだ。


【聖者の脳髄《のうずい》で祈りを汚せ!】


「祈りを汚せええええ!」

「我らはまだ戦える! 人間など恐るるに足りぬ!」


 ロザリアが拳を高く掲げた。


「前線へ向かう者たちよ! 黒き冥府の四候の咆哮を胸に刻め!」


 魔族たちの雄叫びが、黒いホールを揺るがした。

 

 やはりこの曲は正解だった——効果がありすぎるくらいに。


 獣人の体格が二回り近く膨れ上がり、虫翼の魔族の翅に黒い光沢が走り、悪魔系の爪が長く鋭くなる。ただの兵士だった者たちが、次々と戦場の主役へと変わっていく。


「レイジ!」


 シンジがドラムを叩きながら叫ぶ。


「これ、また何かヤバいこと起きてるぞ!」


「見えてる! 止めたらもっとヤバくなりそうだから続ける!」


「了解!」


 ザントの姿も変わっていた。乾いた灰色の肌に深い皺が刻まれ、細く萎びたような印象だった老宰相の体が、今は違う。


 肌には艶と血色が戻り、頰の窪みはふっくらとして若々しく、目には鋭い光が宿っている。


 背筋は伸び、肩幅も広がり、黒い宰相服の下で胸板と腕の筋肉が逞しく盛り上がっていた。


「小生まで……この身体、まるで若き日の戦場に戻ったようだ!」


 そして魔王さん。


 疲労の影が完全に消え、背筋が伸び、黒いドレスの奥から圧倒的な威圧感が滲み出ている。


 近づいてはいけない“何か”が、そこに人の形を取っていた。


 ああ、これが本当の魔王なんだ。


 ハヤトが最後の歌詞を叩きつける。


【腐った神の眼球で夜明けを潰せ!】


「夜明けを潰せえええ!!」

「我らの夜を守れ!!」

「我らは神をも恐れぬ!!」


 曲が終わると、一瞬の沈黙の後、爆発的な咆哮が巻き起こった。


「うおぉぉおおおおお!!」


「前線へ!」


「人間どもを押し返せ!」


 ロザリアが剣を高く掲げる。


「前線部隊、出陣!」


 魔族たちが雪崩のように動き出した。さっきまでの不安など微塵も感じさせない、異様なほどの力強さで。


 魔王さんが俺たちへ駆け寄ってきた。


 さっきまでとは違う、どこか超然とした気配をまとったまま、それでも口調だけはいつもの丁寧なものに戻っている。


「四候の皆様。これほどの力を授けていただき、感謝いたします」


「いや、授けたつもりはないんですけど」


「ご謙遜を」


 ザントが若返った顔で、深く頷いた。


 俺たちはただ演奏しただけなのだが……。


 俺たちはホールに残った。前線へ行くわけではない。いくら見た目が物騒でも、中身はただの四十代バンドマンだ。戦場へ出ても邪魔になるだけだろう。


 その日の夕暮れ。遠くで音がした気がした。


 城の外。さらに遠い国境付近。実際に聞こえるはずはないのに、どこかで戦場の響きが鳴っているような気がした。シンジは落ち着かない様子でスティックを回し、ハヤトは何度も水を飲み、シンイチは黙ってベースの弦を拭いていた。


 俺もギターを置けなかった。


 時間がどれくらい経ったのか分からない。


 やがて、ホールの奥の扉が勢いよく開いた。


 ロザリアだった。


 鎧には傷があり、髪も少し乱れている。だが、顔は笑っていた。


「魔王様!」


 ロザリアは片膝をつき、声を張った。


「魔王様! 前線、押し返しました! 人間側は後退、国境付近の陣地を奪還しています!」


 残っていた魔族たちが歓声を上げた。


 魔王さんは静かに目を閉じ、小さく頷いた。


「よく、戻ったな」


 ロザリアは背筋を伸ばしたまま、続けて報告した。


「それと、手土産がございます」


 魔族たちが道を空ける。


 数人の兵士が、縛られた人間の女性を連れて入ってきた。


 上等な鎧、血と泥に汚れた金髪。若く、しかしまだ折れていない光が目にある。


 彼女は黒い床の上に転がされた。


「勇者と呼ばれていた者です」


 ハヤトが小さく、呆然と呟いた。


「……なあ、レイジ」


「ん?」


「俺たち……完全に悪役側じゃね?」

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