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猟奇V系バンド、魔王城へ転移したら「黒き冥府の四候」として崇められた  作者: たま8


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戦のあと

 戦が終わった。


 いや、終わったというより勝手に終わってくれた、というほうが正しい。俺たちは音を鳴らしていただけで、あとは全部寝起きのギャルがやってのけた。三万の軍勢は一人も欠けることなく、ただ丘の向こうへ逃げ帰っていった。


 あとに残されたのは、踏み荒らされた平原と、呆然と立ち尽くす魔族の軍。そして、大あくびをしている魔神が一人。


「ふわぁ……なんか、疲れた」


 少女はその場にぺたんと座り込んだ。魔族の神が、地べたに。


「ねー、それより。約束、覚えてる?」


「約束?」


「音楽ぅ! 戦、終わらせてあげたじゃん。だから、もっと聴かせてって話。ほら、早く、早く!」


 こいつの中では、戦の決着よりそっちが本題らしかった。


 俺はステージを見下ろした。ハヤトもシンジもシンイチも、まだこの状況に頭が追いついていない顔をしている。無理もない。ついさっき、三万の軍勢と伝説の魔神を、同時に目にしたのだ。


「……レイジ」


 ハヤトが、かすれた声で言った。


「これ、断ったらどうなると思う?」


「あの三万と同じ目に遭うんじゃないか」


「だよなあ」


 結論はすぐに出た。


 俺たちは、ステージの上で、あらためて楽器を構え直した。客はたった一人。だが、機嫌を損ねたら世界がどうにかなりかねない、最悪に厄介な客だ。


「よし。もう一曲いくぞ」


 俺がそう言うと、少女はぱあっと顔を輝かせた。地べたに座ったまま、子どもみたいに足をばたつかせる。


「やった! じゃあ、さっきの! あの、うるさいやつ!」


「うるさいやつ、な」


 シンジがカウントを取る。俺たちは、逃げ帰る軍勢の背中に向けて、二曲目を叩きつけた。魔神のアンコールに応えるという、前代未聞のライブだった。


♮ ♮ ♮


 その日から、少女は当たり前のように魔王城に居ついた。


 名前をラギというらしい。何百年だか何千年だか眠っていた魔神で、俺たちの音で目を覚まし、そのまま俺たちの音を気に入って離れなくなった。


 魔族たちにとっては、大事件だった。伝承にしか出てこない魔神が実際に城にいる。しかも、四候の音に惹かれて顕現し、四候の言うことを聞いている。おかげで、俺たちへの信仰はまた一段、おかしな方向へ跳ね上がった。訂正するのはとっくに諦めていた。


 もっとも、当のラギ本人は神らしいことは何一つしなかった。


 毎日、俺たちに演奏をねだり、飯を食い、昼寝をして、また演奏をねだる。城の子どもらと転がって遊び、ロザリアの訓練を横から眺めては「ぬるいんだよなー」と好き放題に評する。威厳など、かけらもなかった。


 だが、誰も文句は言えなかった。


 なにしろ、あの三万の軍勢を指一本触れずに追い返した化け物だ。機嫌よくしていてもらうに越したことはない。城じゅうが、腫れ物に触るように、しかし妙に馴染んだ様子でこの自堕落な魔神を受け入れていた。


 用心棒としては、これ以上ないほど頼もしい。手はかかるが。


♮ ♮ ♮


 戦からしばらく経った頃。ロザリアが前線の報せを持って戻ってきた。


「人間側に、動きはありません」


 どこか拍子抜けした声だった。


「あれ以来、国境の向こうへ退いたきりです。斥候によれば、聖王国は今、国内が相当に荒れているとか。『神に選ばれた我らが、なぜ魔族の邪神に敗れたのか』と。民が、教会に問いはじめているそうです」


 俺は、なるほどと思った。


 神の名のもとに攻めてきた連中が、魔族の神に無様に追い返された。しかも、その神は人間を一人も殺さなかった。穢れた魔族のはずが、神を連れ慈悲まで見せた。どちらが悪者か、民が疑いはじめるのも、無理はなかった。


「大神官は?」


 エレンが口を挟んだ。


「あの男はどうしている」


「それが……表に出てこないそうです」


 ロザリアの声がわずかに曇った。


「あれだけ戦を煽っていた男が、敗戦のあとはぴたりと沈黙している、と」


 エレンの眉が寄った。


「……らしくないな。あの男なら、すぐに次の手を打ってくるはずだ。『邪神を退ける、新たな神託があった』とでも言って。それが、黙っている」


「考えてるんだろ」


 俺は言った。


「次の手を」


 エレンは北の空へ目をやった。その横顔から、この城に来た頃の追い詰められた色はもう消えていた。だが、警戒だけはまだ解いていなかった。


 戦は終わった。今回の戦は。


 だが戦争そのものが終わったわけではない。北のどこかで、あの男が次の絵図を描いている。それだけは確かだった。


 まあ、それでも。


 誰も死なずに済んだ。城には飯があって、間抜けな魔神が昼寝をして、俺たちの音を待つ客がいる。


 先のことは、また先で考えればいい。


 俺は、ギターを担ぎ直した。今日も、ラギのアンコールが待っている。

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