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猟奇V系バンド、魔王城へ転移したら「黒き冥府の四候」として崇められた  作者: たま8


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修羅の目覚め②

修羅の目覚め

作詞・作曲 Reiji

編曲 Jesus Pain

=========================

臓腑《ぞうふ》を撒け 脳漿《のうしょう》を啜れ 屍《かばね》の山に 旗を立てろ


千の首を刎《は》ね 千の目を抉《えぐ》り 積み上げた肉で 玉座を築け


Ah 嗤え 血の泥濘《ぬかるみ》で 臓物《はらわた》を踏んで


Ah 狂え 神も屠《ほふ》る 修羅の宴《うたげ》だ


祈る口には 鉄を噛ませろ 救いを乞う喉 掻き切ってやる


骨を鳴らせ 髄を吸え 喰らい尽くせ 夜明けごと


Ah 目覚めろ 俺の中の 餓《う》えた修羅よ

=========================


 シンジのカウントが、平原に落ちた。


 最初の一音を、俺のギターが吐き出す。歪んだ音が丘を駆け下りて、魔族の全軍にぶつかった。


 その瞬間、地鳴りのような雄叫びが返ってきた。


「うおおおおおおおっ!」


 眼下の魔族たちが、いっせいに拳を突き上げる。角の生えた兵の体が、見る間に膨れ上がっていく。爪が伸び、牙が剥き、翼が広がる。いつもの現象が、これまで見たこともない規模で起きていた。数千、数万の魔族が、一節ごとに底上げされていく。


 ハヤトの喉が、臓腑だの脳漿だのを吐き散らす。戦場に、これ以上ないほど似合う歌詞だった。屍の山に旗を立てろ、と歌えば、魔族たちの目つきが変わる。神も屠る修羅の宴だ、と煽れば、地面を踏み鳴らす音がドラムに重なる。


 正面の白い軍列が、ざわめきはじめた。


「な、なんだ、あの音は」


「敵が……敵の魔族が、膨れ上がっていくぞ!?」


「ひるむな! あれは邪法だ! 神の名のもとに、恐れるな!」


 人間側の指揮官らしき声が、必死に兵を抑えている。だが、その声も俺たちの音に少しずつ飲まれていく。


 俺は弦を掻き鳴らしながら、手応えを感じていた。


 いける。この音がある限り、押し負けはしない。三万だろうが、勇者が五組だろうが、関係ない。魔族は、鳴らすたびに強くなる。


 だが、ちょうどそのときだった。


 ステージの足元の地面が、淡く光りはじめた。


「……ん?」


 光は、じわじわと広がっていく。板の隙間から、丘の斜面へ。見たこともない紋様が、幾何学的な線を描いて、地面に浮かび上がっていく。


「おい、レイジ。これ、俺たちの足元──」


 魔法陣だった。それも、ステージごと丘を飲み込むほどの、途方もない大きさの。


 異変に気づいた魔族の何人かが、演奏の熱に浮かされた顔のまま、その光を見下ろして──固まった。


「……あの、紋様は」


「まさか」


「嘘、だろう」


 高揚しきっていた魔族たちの声が、みるみる別のものに変わっていく。歓喜でも、興奮でもない。もっと古い、もっと深いところから来る、畏れの色だった。


 ロザリアが、剣を握ったまま、呆然と呟いた。


「魔神の……召喚陣……」


 魔神。


 聞いたことのない言葉だった。だが、その一言で戦場の空気が変わった。


「魔神様だ……!」


「伝承の、魔神様が来られる……!」


「頭を垂れよ! お伏せしろ!」


 あれほど猛り立っていた魔族たちが、次々と膝をつき、頭《こうべ》を垂れていく。強化されて倍以上に膨れ上がった巨体が、揃って地に伏していく光景は、それ自体が異様だった。


「おい、どうなってる!?」


 俺が叫ぶと、ロザリアが震える声で答えた。


「四候様……お下がりを……あれは、我らの手に負える御方ではありませぬ……!」


 顔が、真っ青だった。剣の柄を握る手が、小刻みに震えている。この気の強い軍隊長が、これほど怯えるのを初めて見た。


 光が、極限まで膨れ上がる。


 俺は演奏を止めようとした。だが、手が止まらない。音が、勝手にその魔法陣へ吸い込まれていく。まるでこの演奏そのものが、何かを呼ぶ儀式だったみたいに。


 人間側も、異変に気づいて静まり返っていた。三万の軍勢が、こちらの丘に立ち上る光の柱を、ただ見つめている。


 伝説の魔神。魔族でさえ、伝え聞くだけの存在。さぞかし、おぞましい化け物が出てくるのだろう。誰もがそう身構えた。


 光が、弾けた。


 そして、晴れていく光の中に、ゆっくりと、その姿が立ち上がってくる。


 戦場の、誰もが、息を呑んだ。


 そこにいたのは──


 金髪を盛りに盛った、小柄な少女だった。


 派手な化粧。露出の多い、見たこともないデザインの服。耳には、じゃらじゃらと光る飾り。どこからどう見ても、神々しさとは、縁遠い。


 少女は、大きなあくびをひとつすると、両手を上げて、うーんと伸びをした。


 そして、寝ぼけまなこであたりを見回して、首をかしげた。


「……って、なんか、すごい人数いるんですけど。何これ?」


 その少女は、寝ぼけたまま、しばらくあたりを眺めていた。


 攻めかけていた人間側も、迎え撃つ魔族側も、誰も動かない。動けない、というほうが正しかった。少女が立っているだけで、あたりの空気が変わっている。呼吸が浅くなる。うなじの毛が逆立つ。頭で考えるより先に、体のほうが逃げ支度をはじめていた。


 あれには近づくな。あれを怒らせるな。腹の底が、そう叫んでいる。


 人間の兵たちも、剣を構えたまま固まっていた。動きたくても体が言うことをきかない、という顔だ。矢の一本すら、飛んでこない。


 当の少女は、そんな数万の視線など気にも留めず、まだ眠そうに目をこすっている。


「うーん……なんか、いっぱいいるなあ」


 のんびりと、そんなことを言った。


 そして、ふとその目がステージの上の俺たちで止まった。首をかしげ、しばらく考えるように黙り込む。それから、思い出したように、ぱっと顔を上げた。


「あ。ねえ。さっきの、あの音さ」


 まっすぐ俺を指さしてくる。


「アンタらが、出してたの?」


「あ、ああ……」


 ギターを抱えたまま、間抜けに頷いた。何なのかは、魔族の怯えようを見れば嫌でも察しがつく。だが、どう接すればいいのかは、まるで分からなかった。


 すると、少女の顔がぱっと輝いた。あれほど張りつめていた空気が、一瞬でゆるむ。


「ヤバッ。何それ、超アガるんですけど!」

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