修羅の目覚め②
修羅の目覚め
作詞・作曲 Reiji
編曲 Jesus Pain
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臓腑を撒け 脳漿を啜れ 屍の山に 旗を立てろ
千の首を刎ね 千の目を抉り 積み上げた肉で 玉座を築け
Ah 嗤え 血の泥濘で 臓物を踏んで
Ah 狂え 神も屠る 修羅の宴だ
祈る口には 鉄を噛ませろ 救いを乞う喉 掻き切ってやる
骨を鳴らせ 髄を吸え 喰らい尽くせ 夜明けごと
Ah 目覚めろ 俺の中の 餓えた修羅よ
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シンジのカウントが、平原に落ちた。
最初の一音を、俺のギターが吐き出す。歪んだ音が丘を駆け下りて、魔族の全軍にぶつかった。
その瞬間、地鳴りのような雄叫びが返ってきた。
「うおおおおおおおっ!」
眼下の魔族たちが、いっせいに拳を突き上げる。角の生えた兵の体が、見る間に膨れ上がっていく。爪が伸び、牙が剥き、翼が広がる。いつもの現象が、これまで見たこともない規模で起きていた。数千、数万の魔族が、一節ごとに底上げされていく。
ハヤトの喉が、臓腑だの脳漿だのを吐き散らす。戦場に、これ以上ないほど似合う歌詞だった。屍の山に旗を立てろ、と歌えば、魔族たちの目つきが変わる。神も屠る修羅の宴だ、と煽れば、地面を踏み鳴らす音がドラムに重なる。
正面の白い軍列が、ざわめきはじめた。
「な、なんだ、あの音は」
「敵が……敵の魔族が、膨れ上がっていくぞ!?」
「ひるむな! あれは邪法だ! 神の名のもとに、恐れるな!」
人間側の指揮官らしき声が、必死に兵を抑えている。だが、その声も俺たちの音に少しずつ飲まれていく。
俺は弦を掻き鳴らしながら、手応えを感じていた。
いける。この音がある限り、押し負けはしない。三万だろうが、勇者が五組だろうが、関係ない。魔族は、鳴らすたびに強くなる。
だが、ちょうどそのときだった。
ステージの足元の地面が、淡く光りはじめた。
「……ん?」
光は、じわじわと広がっていく。板の隙間から、丘の斜面へ。見たこともない紋様が、幾何学的な線を描いて、地面に浮かび上がっていく。
「おい、レイジ。これ、俺たちの足元──」
魔法陣だった。それも、ステージごと丘を飲み込むほどの、途方もない大きさの。
異変に気づいた魔族の何人かが、演奏の熱に浮かされた顔のまま、その光を見下ろして──固まった。
「……あの、紋様は」
「まさか」
「嘘、だろう」
高揚しきっていた魔族たちの声が、みるみる別のものに変わっていく。歓喜でも、興奮でもない。もっと古い、もっと深いところから来る、畏れの色だった。
ロザリアが、剣を握ったまま、呆然と呟いた。
「魔神の……召喚陣……」
魔神。
聞いたことのない言葉だった。だが、その一言で戦場の空気が変わった。
「魔神様だ……!」
「伝承の、魔神様が来られる……!」
「頭を垂れよ! お伏せしろ!」
あれほど猛り立っていた魔族たちが、次々と膝をつき、頭を垂れていく。強化されて倍以上に膨れ上がった巨体が、揃って地に伏していく光景は、それ自体が異様だった。
「おい、どうなってる!?」
俺が叫ぶと、ロザリアが震える声で答えた。
「四候様……お下がりを……あれは、我らの手に負える御方ではありませぬ……!」
顔が、真っ青だった。剣の柄を握る手が、小刻みに震えている。この気の強い軍隊長が、これほど怯えるのを初めて見た。
光が、極限まで膨れ上がる。
俺は演奏を止めようとした。だが、手が止まらない。音が、勝手にその魔法陣へ吸い込まれていく。まるでこの演奏そのものが、何かを呼ぶ儀式だったみたいに。
人間側も、異変に気づいて静まり返っていた。三万の軍勢が、こちらの丘に立ち上る光の柱を、ただ見つめている。
伝説の魔神。魔族でさえ、伝え聞くだけの存在。さぞかし、おぞましい化け物が出てくるのだろう。誰もがそう身構えた。
光が、弾けた。
そして、晴れていく光の中に、ゆっくりと、その姿が立ち上がってくる。
戦場の、誰もが、息を呑んだ。
そこにいたのは──
金髪を盛りに盛った、小柄な少女だった。
派手な化粧。露出の多い、見たこともないデザインの服。耳には、じゃらじゃらと光る飾り。どこからどう見ても、神々しさとは、縁遠い。
少女は、大きなあくびをひとつすると、両手を上げて、うーんと伸びをした。
そして、寝ぼけまなこであたりを見回して、首をかしげた。
「……って、なんか、すごい人数いるんですけど。何これ?」
その少女は、寝ぼけたまま、しばらくあたりを眺めていた。
攻めかけていた人間側も、迎え撃つ魔族側も、誰も動かない。動けない、というほうが正しかった。少女が立っているだけで、あたりの空気が変わっている。呼吸が浅くなる。うなじの毛が逆立つ。頭で考えるより先に、体のほうが逃げ支度をはじめていた。
あれには近づくな。あれを怒らせるな。腹の底が、そう叫んでいる。
人間の兵たちも、剣を構えたまま固まっていた。動きたくても体が言うことをきかない、という顔だ。矢の一本すら、飛んでこない。
当の少女は、そんな数万の視線など気にも留めず、まだ眠そうに目をこすっている。
「うーん……なんか、いっぱいいるなあ」
のんびりと、そんなことを言った。
そして、ふとその目がステージの上の俺たちで止まった。首をかしげ、しばらく考えるように黙り込む。それから、思い出したように、ぱっと顔を上げた。
「あ。ねえ。さっきの、あの音さ」
まっすぐ俺を指さしてくる。
「アンタらが、出してたの?」
「あ、ああ……」
ギターを抱えたまま、間抜けに頷いた。何なのかは、魔族の怯えようを見れば嫌でも察しがつく。だが、どう接すればいいのかは、まるで分からなかった。
すると、少女の顔がぱっと輝いた。あれほど張りつめていた空気が、一瞬でゆるむ。
「ヤバッ。何それ、超アガるんですけど!」




