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猟奇V系バンド、魔王城へ転移したら「黒き冥府の四候」として崇められた  作者: たま8


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メンバー紹介①

 魔王城に転移してから、ずいぶん経った。


 最初こそ怯えられていた俺たちも、今ではすっかり城になじんでいる。魔族連中との交流も増えた。一緒に飯を食い、ライブで沸かせ、祝詞だの何だのと崇められる。腐乱死体みたいな面の中年四人が、異世界で意外な余生を送っていた。


 その中で、ひとつ解せないことがあった。


 魔族の女たちのあいだで、いちばん人気があるのがシンジなのだ。


 うちのドラム。額にどでかい釘が刺さった大男。最近は腹回りに不摂生がにじみ出てきた、あの男が、なぜか城の女性陣にモテている。すれ違うたびに頬を染められ、差し入れだと菓子を渡され、本人もまんざらでもなさそうにそれを食ってまた太る。


 最初は何かの間違いかと思った。だが、よく考えれば不思議でもなかった。


 シンジとシンイチは双子だ。今でこそ片方は寡黙な仏頂面、片方は釘の刺さった大食いだが、若い頃は違った。二人ともとびきりの美形だったのだ。


 兄のシンイチは昔から口数が少ない。その無愛想が、かえって男前を引き立てていた。黙って立っているだけで様になる、影のある男。そういう色気があった。


 対して弟のシンジは、線の細い美少年だった。


 今のあの図体からは想像もつかないだろう。だが当時のシンジは、バンドの中でも飛び抜けて顔がよかった。睫毛が長くて、笑うと甘い顔になる。おまけに背が高い。すらりと長身で顔は甘め。ライブのたびに客席の視線をいちばん集めていたのはシンジだった。


 モテない道理がなかった。


 だから女の扱いがうまいのも、わからなくはない。あいつには若い頃に培った、染みついた愛嬌がある。相手を緊張させない柔らかい物腰。それは顔が変わって腹が出て頭に釘が刺さった今も、消えていなかった。


 中身は当時のまま。美少年だった頃の人懐こさを、そのまま大男の体に詰め込んだのが今のシンジだ。


 ミラがこの城で最初に心を開いた相手も、思えばシンジだった。あれだけ怯えられていたのに、いつの間にかいちばん話しかけやすい四候、みたいな扱いになっている。


「いいよなあ、シンジは」


 ある日、ハヤトが菓子を頬張るシンジを横目にぼやいた。


「なんで釘刺さってんのに、お前だけモテんだよ」


「実力だよ、実力」


 シンジが口をもぐもぐさせながら言う。


「どこがだ」


「昔から、こういうのは得意なの。レイジも知ってるだろ」


 知っている。嫌というほど知っている。若い頃、打ち上げのたびにいちばん早く店を出ていくのはシンジだった。


「まあ、否定はしない。お前、昔は本当に顔だけはよかったからな」


「顔だけは、って何だよ。今もいいだろ」


「釘が刺さってる」


「これはこれで味があるって言われるんだよ」


 誰に言われたんだ、それは。たぶん城の女性陣だろう。あいつらの審美眼は、もうこっちの常識では測れない。


 そのシンジとは対照的に、兄のシンイチは不思議とモテなかった。


 顔はいい。双子だ。素材はまったく同じはずだった。黙って立っていれば影のある男前。それなのに女が寄ってこない。


 理由ははっきりしている。喋らないからだ。


 シンイチはとにかく口数が少ない。バンドを組んで二十年以上になるが、こいつが自分から長々と喋ったのを、俺はほとんど思い出せない。必要なことを必要なだけ。たいていは一言か二言で済ませる。


 だから女の子が話しかけても会話が続かない。


「今日のライブ、よかったです」


 そんなふうに話しかけられても、「ああ」で終わる。せっかく勇気を出して声をかけた相手が、その「ああ」の一言ですごすごと引き下がっていく。そういう場面を何度も見てきた。本人にその気がないわけではないらしい。ただ言葉が出てこないのだ。


 もったいないと何度も思った。だが本人はまるで気にしていなかった。


 その代わり、シンイチには妙な趣味がある。古い文学だ。


 あいつは昔からやたらと古い本を読む。俺には読めもしない時代のものまで。ツアーの移動中、ほかの連中がスマホをいじったり寝たりしている横で、シンイチはいつも文庫本を開いていた。黙って何時間でも。


 その趣味がバンドにも染み出している。うちの曲の、あの古めかしい擬古文めいた歌詞。旧仮名遣いで辱めだの来世だのと歌う、湿った詞。あれを書いているのがシンイチだ。


 俺の書く詞が勢いと語呂で押す猟奇なら、シンイチの詞はしっとりと湿った退廃だ。同じバンドの曲とは思えないくらい毛色が違う。だがそれがいい。Jesus Painの幅は、半分はあいつの古臭い趣味でできている。


「シンイチさんの歌詞は、好きです」


 いつだったか、ミラがそう言ったことがあった。


「あの古い言葉の歌。哀しくて、きれいで……胸に残ります」


 シンイチはちらりとミラを見て、ひとこと言った。


「どうも」


 それだけだった。


 ミラがきょとんとしていた。せっかく褒めたのに、と顔に書いてあった。


 だが長年の付き合いの俺にはわかる。あれはシンイチが、かなり嬉しいときの「どうも」だった。口の端がほんの少しだけ上がっていた。たぶん本人が思っている以上に、あいつはあの一言を喜んでいた。


 伝わらないのがシンイチだ。顔も気持ちも、損ばかりしている。それでも本人は、今日も黙って古い本を読んでいる。

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