伝染 PANDEMIC②
伝染 PANDEMIC
作詞 Reiji
作曲 Sin-2
編曲 Jesus Pain
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瘴気、伝染、変異、感染
ひとつ咳をすれば 千の口が嗤う
舌から舌へ 腐りながら渡る言葉
Infection, infection, spreading in your brain
俺が吐いた呪い もう誰も止められない
培養皿の上 歪んだ祈りが育つ
意味など要らない 響きだけが伝播する
Mutation, mutation, nobody knows the truth
膿んで 爛れて 神の名を騙り
増えろ 増えろ increase, in the dark
気づいた時にはもう 俺自身が病原だ
蒔いた種が芽を吹き 俺の喉を喰い破る
Ah――Welcome to my laboratory of hell
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その日の定期ライブで、俺は『伝染 PANDEMIC』を選んだ。俺が詞を書いて、シンジが曲をつけた、古い一曲だ。
演奏しながら、つい苦笑してしまった。舌から舌へ、腐りながら渡る言葉。意味など要らない、響きだけが伝播する――何年も前に、語呂だけで書いた歌詞だ。なのに今、城で起きていることと、まるきり同じだった。俺の撒いた言葉が、口から口へ広がって、止まらなくなっている。歌詞が予言になっていた。
もっとも客席の魔族たちは、俺の内心など知る由もない。いつも通り、拳を突き上げ、咆哮し、勝手に強くなっていく。曲が終わると、盛大な歓声が上がった。
感心している場合ではなかった。問題は、この祝詞ブームを、どう終わらせるかだ。
正直に「あれは罵り言葉だ」と言うのは、論外だ。祝詞の正体がばれれば、これまでありがたがってきた魔族たちの顔に、泥を塗ることになる。下手をすれば、四候への信頼そのものが揺らぐ。
ならば、嘘には嘘を重ねるしかない。
ライブのあと、俺は覚悟を決めて、ザントを呼んだ。そして、できる限り深刻な顔を作った。
「ザントさん。折り入って、話がある」
「は。なんなりと、fuckin'」
「その、fuckin' をやめてほしいんだ」
ザントの顔が、強張った。
「と、申されますと……何か、粗相が」
「いや、あんたのせいじゃない。実は……冥府から報せがあってな」
俺は声を低くした。我ながら、いんちき霊媒師みたいな口ぶりだった。
「あの祝詞は、本来、俺たち冥府の四候だけが、唱えることを許された、神聖な言葉だ。だが最近、城のみんなが、それを口にしているだろう」
「は。皆、ありがたく使わせていただいて……」
「そこがまずい。冥府の祝詞は、資格なき者が唱えると呪いに変わる。神聖な言葉であればあるほど、その反動も大きい。このまま、みんなが唱え続ければ、いずれ城に災いが降りかかる」
ザントの顔から、血の気が引いた。
「な、なんと……! では、我らはとんでもないことを……!」
「まだ、間に合う。今すぐ、みんなに祝詞を唱えるのをやめさせてくれ。二度と口にしないように。それで、呪いは防げる」
「承知いたしました! ただちに城じゅうに、触れを出します!」
ザントは、血相を変えて駆け出していった。
その日のうちに、城からおかしな英語はぴたりと消えた。
呪いになる、という一言が効いた。あれほど嬉しそうに使っていた祝詞を、魔族たちはぴたりとやめた。すれ違っても、もう fuckin' とは言われない。訓練場から「キル・ミー」の掛け声も消え、子どもたちの「ノー・ゴッド」の合唱も、止まった。
城に、いつものまともな朝が戻ってきた。
俺はほっと息をついた。嘘に嘘を重ねた自覚はある。だが、背に腹は代えられない。あのまま、意味の分かる俺たちだけが、にこにこと最低の言葉を浴びせられ続けるのは流石にこたえた。
部屋に戻ると、ハヤトが茶をすすっていた。
「うまくいったみたいだな」
「お前のおかげで苦労したけどな」
俺は、じろりと睨んだ。
「半分は、お前の fuckin' のせいだぞ」
「悪かったって。でもまあ、収まったんだからいいじゃねえか」
「次から、英語の曲で歌詞飛ばすなよ」
「善処する」
善処、で済ませる気だな、こいつは。
俺はため息をついて、窓の外を見た。平和な魔王城の午後。さっきまでの騒ぎが嘘のようだった。
自分の書いた言葉が、勝手に伝染して、勝手に育って、思わぬ形で戻ってくる。何年も前に、語呂だけで書いた『伝染 PANDEMIC』が、まさか、こんな予言みたいになるとは、思ってもみなかった。
やっぱり、歌詞は、適当に書くもんじゃない。




