Violate 〜凌辱の夜〜
Violate 〜凌辱の夜〜
作詞・作曲 Reiji
編曲 Jesus Pain
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Night, night, the dark is calling me
I walk, I take, nobody stopping me
So many, so many, I forget the number
This is my joy, only joy in this hell
Violate, violate, the moon is watching
No god, no light, no mercy in my hand
I am the beast, I am the night forever
Crawling, crawling, into the deepest sin
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『Violate』
邦題、というのも変だが、一応『凌辱の夜』という副題がついている。歌詞は、全編英語だ。
一時期、うちの界隈で、全編英語詞というのが妙に流行ったことがある。海外でも通用する、とか、響きがかっこいい、とか、それっぽい理由は色々あった。実際のところは、みんながやり始めたから、うちもやっただけだ。バンドマンというのは、見栄っ張りで、流行に弱い。
俺も、ご多分に漏れず、それに乗った。
問題は、俺が英語をできないことだった。
あの頃、俺は和英辞書を片手に、何日もかけてこの詞を書いた。「夜」を引き、「奪う」を引き、「罪」を引き、出てきた単語を、それっぽい順番に並べていく。文法は、正直よく分からなかった。頭に a とか、the をつけるのか、つけないのか。 最後にs がいるのか、いらないのか。調べても調べても、自信が持てなかった。
そして、ある時点で、どうでもよくなった。
響きがハマっていれば、もういいだろう。どうせ客は歌詞カードの細かい文法なんて見ない。ノドで押し切れば、それっぽく聞こえる。そう自分に言い聞かせて、俺はこの詞を完成させた。今読み返しても、合っているのか間違っているのか、まるで分からない。たぶん、間違っている。
内容のほうは、まあ、うちのバンドらしい代物だ。最低の男が、夜な夜な最低なことをして、それにしか喜びを見いだせない、という歌だ。猟奇、殺戮、破壊、絶望。コンセプト通りといえば、コンセプト通りだった。
で、その『Violate』を、今日のライブでやることになった。
例によって、エレンとミラも見ている。
俺は、選曲の段階で、少しだけ考えた。うちの曲は、どれもこれも内容がひどい。先日の『Skull in Bloom』では、頭蓋に花を植える歌だと知れて、二人を青ざめさせた。あれを、もう一度はやりたくない。
そこで、俺は閃いた。
英語の歌詞なら、いいんじゃないか。
『Violate』の歌詞は、確かに最低だ。だが、全編英語だ。エレンもミラも、英語なんて分かるはずがない。意味さえ分からなければ、青ざめようがない。何を歌っているか伝わらないのだから、傷つけることもない。
我ながら、完璧な解決策だった。
よし、これでいこう。俺は、ひとり納得して、ステージに上がった。
(意味さえ、分からなければ……!)
演奏が、始まる。
ハヤトが、辞書のかけらみたいな英語を、それっぽい発音で吐き出していく。hell だの no god だの、最低な単語が並んでいるはずだが、ハヤトの巻き舌にかかると、何を言っているのか、ネイティブでも聞き取れないだろう。完璧だ。意味は、完全に煙の向こうだ。
俺は、ステージの上で、ひそかにガッツポーズをした。
ステージ脇のエレンとミラを見る。
二人とも、きょとんとしていた。
よし。
何ひとつ、伝わっていない。エレンは「何を言っているのか分からん」という顔で首をかしげ、ミラは、音の激しさに少しびくついてはいるものの、あの『Skull in Bloom』の時のような、魂が削れる顔はしていない。
してやったり、だった。
意味の分かる歌詞だと、毎回、二人の顔色を窺わなければならない。だが、英語なら、その心配がいらない。俺は今日、ひとつ、利口になった。和英辞書と格闘した過去の俺を、初めて褒めてやりたい気分だった。
ありがとう、過去の俺。お前の擦り切れた辞書は、無駄じゃなかった。
問題は、魔族のほうだった。
いつものように高揚していくのは、いい。拳を突き上げ、咆哮し、勝手に強くなっていく。それは、もう見慣れた光景だ。
だが、今日は、様子が違った。
最前列の魔族たちが、なぜか、神妙な顔をし始めたのだ。高揚しながら、同時に、何かを聞き漏らすまいと、耳を澄ませている。中には、ひざまずく者まで出てきた。
曲が終わると、宰相のザントが、感極まった様子で進み出てきた。また、涙ぐんでいる。
「四候の皆様……今の、あの言葉は」
「言葉?」
「あの、聞き慣れぬ、神聖な響き。あれは……冥府の言葉、でございますね」
冥府の言葉。
いや、英語だ。それも、辞書を引きながら俺がでっち上げた、文法の怪しい英語だ。
「我ら魔族には、決して発することのできぬ、神々しい音の連なり。あれは、冥府にのみ伝わる、祝詞でございましょう。四候様が、特別な儀式の際にのみ唱える、秘されし祈りの言葉……!」
違う。
祝詞でも、祈りでもない。最低の男が夜な夜な最低なことをする歌だ。神聖さの対極にある代物だ。
「ど、道理で! 言葉は分からずとも、あの響きには、抗いがたい力がありました!」
「我ら、冥府の祝詞を賜ったのだ……!」
「なんと、ありがたい……!」
魔族たちが、次々とひざまずいていく。
やめてくれ。
その祝詞、内容は『凌辱の夜』だ。ありがたがって唱えたりしたら、大変なことになる。
俺は、必死で表情を保った。ここで「実は最低な歌です」と言えるはずもない。英語で隠したはずの内容が、今度は「冥府の神聖な祝詞」という、とんでもない方向に化けてしまった。
エレンとミラには、意味が伝わらなかった。そこは、計画通りだった。
だが、伝わらなかったせいで、魔族の中では、神格化が一段、進んでしまった。隠したはずが、よりまずいことになっている。
ステージ脇で、エレンが、ぽつりと言った。
「……あの者たち、何をあんなに、ありがたがっているのだ?」
「さあ」
横の魔族がエレンに説明する。
「冥府の、祝詞らしいぞ」
「ほう。四候は、そんなものまで」
エレンが、感心したように頷いている。
頷かないでくれ。
その日、『Violate』は、魔王城の新たな聖なる祝詞として、魔族たちの間で語り継がれることになった。
意味は、墓場まで持っていこうと思う。




