8 陽編 お茶会の真実
慌てた私はソフィアを連れ、
王都のメインストリートにある
伯爵家が代々懇意にしている
オーダードレスショップへ急ぐ。
「これは!フレデリック様、お久しぶりでございます」
長身で細身のデザイナーであるマダムは
母と仲が良い。
「お母さまからご結婚のお話、伺っておりますわ。
先日は・・」
と、いろいろ話が始まってしまった。
終わりそうにない世間話を遮り、
急いでいたフレデリックは
「彼女に似合う、素敵なドレスを
至急仕立ててほしい」
と切り出すと、マダムの表情が変わる。
ソフィアを上から下まで眺めたかと思うと
すぐに机に向かった。
とりあえず何とかなりそうだと
ホッとしていると、
店内に並、ぶゴージャスな衣装に気が引けたのか
ソフィアは小さな声で
「あの・・手持ちのドレスで十分です。」
といって遠慮しようとしたが、
フレデリックは
「マナーの練習を毎日頑張ったのだから、
素敵なドレスを着て出かけるといい」
と、気づいたら隣のソフィアに笑顔で答えていた。
…その言葉が嬉しかったのだろう。
ソフィアは今までにない微笑みを向けた。
しかし、
その素敵な笑顔に、フレデリックの胸が苦しくなる。
__おかしい。
左手で胸のあたりを抑えている。
(この胸の痛みは知っている)
(この感情と一生サヨナラするために
_____ソフィアをお飾り妻に選んだのに。)
彼女を見ると、どんどん痛くなる胸。
そういえば最近おかしい。
今だって、
ギリギリ間に合うかどうかのオーダードレス
よりも、既製品の中から選べばよいはずだ。
いや、しかし。
頑張りを評価する事は、人間関係を良好に
保つ上で大切なことだと思っている。
そうだ。
私は、良好な関係を求めて
適切に対応しているだけだ。
そう思うと、胸の痛みが和らいできた。
よかった。
その後はソフィアがマダムと詳細を打ち合わせし、
何とか前日までに仕上がるデザインをお願いた。
マダムは
「かわいらしい奥様にぴったりのドレスを楽しみに
していてくださいませ。フレデリック様」
と笑顔で見送ってくれた。
こうして、二人の“初めてのショッピング”
は無事に終わった。
それから数日、私は屋敷に帰らず、
いつものように仕事に没頭することにした。
きっとソフィアはお飾りの“妻”ではあるが、
すこしは茶会を楽しめるだろう。
ソフィアのおかげで、真っ当な既婚者貴族の
立ち位置を手に入れたのだから、
私は仕事に打ち込むだけだ。
いつにもまして、さらに仕事に没頭する。
そうして、
気づけば、二週間も屋敷に帰っていなかった。
そんなフレデリックを見て、ボルソワーレ侯爵が
話しかけてくる。
「・・実は、三か月後に他国との夜会があるのだが
その時に、外交官の職務の一環として、夫人を伴って
君に参加してほしいと思っていてな、」
侯爵は続ける。
「私の妻との面識がまだなかったのでな、今日の茶会にどうやら招待したようだ。
君の変わり様を、日ごろから妻に話していたから
妻もとても興味をもって・・・」
___途中から、侯爵の話が頭に入ってこない…
一体、何の話だ?
ソフィアが参加するというお茶会は、貴族の妻が暇を持て余し、頻繁に開いている様な、軽いお茶会ではないのか?
お飾りの妻のソフィアに
仕事の話など、したことは一切ないし、
私がどんな仕事をしているのかさえ
知らないだろう。
彼女はテーブルマナーを必死に覚えていた。
しかし、社交についてはどうだろう。
お茶会といっても、侯爵が言うような、夫の仕事が絡むお茶会は、楽しくお茶を飲んで交流を図るだけではないのだ。
__そこには、夫の立場を左右しかねない
『本当の社交』というものが存在する。
まして、夫人がソフィアに興味を持ったなら・・・
夫の仕事を知らない妻など・・・。
__ジワリ。と、嫌な汗が背中を伝う。
体が固まったように動かなくなる。
目の前が真っ暗になる。
「___どうした?フレデリック。
顔色が悪いぞ?」




